第3話 生命の賛歌
「メアリーさん、おめでとうございます。可愛らしい女の子ですよ」
メアリーの疲れ切った表情の中には、安堵と歓喜がにじんでいた。我が子の産声を聞くと、数十秒前の身を裂くような痛みなどどうでもよくなった。
「メアリー、よく頑張ったね。俺、今とっても幸せだよ」
夫のキリオがメアリーの手を握った。メアリーは彼に微笑み、その手を握り返した。
「ねえキリオ、私も幸せよ」
メアリーとキリオは、目と目でこれからも変わらない愛の約束を交わした。
「キリオ、子どもが生まれたんだってな! おめでとう」
「おめでとうキリオくん、聞いたよ。女の子だってな」
「キリオ、ついにお前もお父さんだな!」
「お母さんに似て可愛い女の子に育つといいね」
祝福の言葉が次々にキリオのもとに届いた。友人のジョンや、従兄のヒロト、医者のキム、近所に住むセブンも子どもの誕生を祝い、ついでにメアリーに会いに行ってくれた。
「やあメアリー、元気かい。まさか君がキリオと結婚するなんて聞いたときは、そりゃもう驚いたものだったけど、今では子どもまで産んじゃうんだから、こうなったからには幸せになれよ」
「やだわ、何言ってるのよ。うん、私今すっごく幸せよ」
ある日世界中の人々が愛に目覚めた。
その日を境に世界は変わった。
戦争はなくなった。
民族は融和しひとつになった。
言語はいつしかひとつになり、コミュニケーションが容易になった。
肌の色もみんな同じ。白人・黒人という言葉は無くなった。
辺りの人々の顔を見ると、みんなどこか似通っている。
貧富の差はあるけれど、餓死する人間はもはやいない。
世界は一つになった。
世界中の誰もが、世界中の誰かを愛することが出来るようになった。
キリオとメアリーが結婚したのは必然である。メアリーのことを最も愛したのがキリオだったからだ。
きっとキリオとメアリーの娘もいつか大きくなったとき、彼女を最も愛する誰かと結婚して子を残すだろう。そうやって世界は紡がれていく。
「見て、綺麗な星空」
「天の川だね……」
「それって日本語? ふふ、キリオは古い言葉を知ってるのね、ミルキーウェイでしょ」
「ああ、ミルキーウェイだ……」
ミルキーウェイ 榊優人 @bzmatsumoto
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