第2話 天を衝く摩天楼

 ある日、世界中に血液のように真っ赤な雨が降った。豪雨は各地に洪水を引き起こし、ミルキーウェイはたちどころにピンク色に染まった。赤い雨の水滴はわずかながら油のような粘つきを持っていたため、晴れた後も地面にべったりと色を残していた。

 赤い雨が降ってからしばらくの間、摩天楼は姿を消していた。またひょっこりと現れるだろうと誰もが思っていたが、それきり姿を見せなくなった。

 摩天楼が現れないので、源泉が無くなったミルキーウェイは徐々に枯れていった。対立していた「ミルキーウェイを守る会」と「ミルキーウェイを埋める会」の戦いは和解によって終末を迎え、少し前の雨が残した赤い色が消え始めたころには、誰もがミルキーウェイのことをほとんど忘れていた。


 それから少し経ったころのことである。キムは、病室の窓から外を眺めていたときに気が付いた。上空に巨大な卵のようなものがぷかぷかと浮かんでいたのだ。

 すぐさま1,000,000名の巨大な卵調査隊が結成された。しかし巨大な卵は上空にあるため調べようにも中々難しく、特段の成果を得られないまま時間だけが過ぎていった。これにはリーダーのセブンも弱音を吐いた。


 ある日のことだった。何の前触れもなく、摩天楼が突然現れた。

 摩天楼の隆起は過去のそれを超えていた。いつになく巨大な黒い物体が、まさに天を衝こうとしているのか、膨れ上がる様に肥大化していた。

 誰もが摩天楼に釘付けになっていた。摩天楼は人々の視線を全く意に介していないようだった。

 摩天楼は一心不乱に上空の卵に向かって伸び縮みを繰り返し、そのたびに辺り一面に地震のような激しい揺れが起きた。しかし摩天楼の頭が卵まで届くことはなかった。

 摩天楼の動きが急に止まった、次の瞬間のことである。摩天楼はその身体を大いに振るわせて、世界を飲み込むほど大量の白い液体を吐き出した。

 白い液体はまるで意思を持っているかのように、うねうねと動いた。人々を見つけると、ひとりずつ彼らを捕食するように包んだ。 

 摩天楼の動きを見守っていた周囲の者たちは、みんな白い液体に飲み込まれた。誰も液体から逃れられなかった。


 そして、世界はミルキーウェイで満たされた。

 ミルキーウェイ以外には、上空に卵が浮かぶだけである。

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