曇天の峠

雲っていた。

光はこちらまで届いているが、太陽の姿は見えない。

今日は珍しく先客がいた。

鉛色の窓枠に腰掛けて光の源へ目を向ける女の子が。


「一華、早かったね。」

「ねえ、芹。これって夢だと思う?」

「え?」

「だから、夢だと思うかって。」


いきなりされた質問にただただ戸惑う。

今居る此処は夢か、現実が。

簡単に言えばそう言うことだ。


「夢、じゃないの?」

「本当に?」

「何が言いたいの、やっぱ一華何か変だよ。」

「本当、可笑しいよね。こんなこと問いたくなるなんて。"うつし世は夢、夜の夢こそまこと"。どういう意味かは分かるよね?」

「自分が今現実だと思っている世界が夢で、夜に見ている夢が現実かもしれない、って意味でしょ?まさかここが現実だって言いたいの?」

「そういうことじゃ無いんだけどさ、芹に隠してこれやってたんだよね。」


そう言って、右ポケットから手帳のようなものをとり出し、表紙を私に向ける。

そこには、0.5位の青インクで"夢日記"とかかれていた。


「これ、書いてたらね、集中力が上がるからって誰かから聞いて始めたんだよね。最初は良かったよ。でもだんだん夢の内容が頭の中に残るようになっててね、次第にどっちが本当か良くわかんなくなるんだよね。でさ、ほら、私怖いの苦手じゃん。だからね、悪夢とか見ても数日は眠れなくなっちゃうんだ。止めたんだけどもう夢を覚える癖が付いちゃって。どうしようもなくって。だからさ、もう終わりにいたいなって。」


ゆっくりと頬笑む、夢日記を外に放り捨てる。はらはらと黒くなった紙も数枚落ちていく。


「じゃあね、もしこれが夢なら良かったのに。」


それを追うように友達も飛び降りた。

掴もうと、走って片手で窓枠を握り、もう片方で一華の手を掴もうとするがするりと自分の手をかわして下に落ちてしまった。

一華を助けに行こうと、窓枠に足をかけて立つ。

下が見えない。

怖くて、足がすくんで、結局一華を助けるために飛び降りる事は叶わなかった。






「芹、起きて。芹!」


叫ぶように名を呼ばれた。

白い天井。

私の寝室では無さそうだ。

だとしたら此処は?

必死に一華が名前を呼んでいる。

横で機械音が目覚ましのように鳴り響く。

あれ、一華、死んだんじゃ?

四肢の感覚はない。

ここはどこかも確認できない。

白い長袖のコートを着た人や知らない女の人が自分の名前を読んでいた。

何で私の名前、知ってるんだろ。

薬の独特の匂い。

知ってるような気がするけど何処だっけ。

ふと、横を見ると、さっき一華が持っていた夢日記が。

あ、あぁそう言うことか。

だとしたら、ごめん。

もう、わた

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