狐の嫁入り

空は晴れている。

しかし、雨は一向に止まない。

その様子をぼーっと見つめていた。

天気雨はあまり好きではない。

晴れるか降るかどちらかにしてほしい。

はぁと溜め息をつくと、運気が逃げるよー、と自分の右側に来て、この空模様に目を向ける。


「何か憂鬱になるよ。せっかく晴れてるのに。」

「あー、それねー。」

「冷たっ」

「じゃあ閉めなよ。」

「いいよ、そのままにしておいて。」

「えー、何で。寒いんでしょ?」

「それはそうなんだけど、何となく開けときたい、的な。」

「ふっ、なにそれ。まあいっか、じゃあね。」

「・・・ねえ、前から気になるんだけどさ。」

「なに?」

「・・・やっぱり何でもない。」

「そう?思い出したら言ってね。じゃあ、ばいばい。」


扉がピシャリと閉められる。

何となく一華に違和感があるなんて、言えるはずもなかった。












「んー、今何時?」


見ると、夜の8時を指していて飛び上がる。

まさかここまで寝ているとは思わなかったからだ。

時計が壊れたんじゃないかと遮光カーテンを乱暴に空ける。

月が半分欠けていた。

夢じゃないよな?

頬をつねるが、ただ痛い。

と言うことは、夢では無いのか?


「さっきまでのが夢?」


確かに、さっきの夢の内容が思い出せない。

満月と言うのもそれは前の十五夜の時の記憶かもしれない。

でも自信がない。

取り合えず、気分を変えようと枕元においてある携帯に刺さった白い充電器のコードを抜き、電源をいれる。

何かを検索したまま寝たらしく、ページが開いたままになっていた。


『うつし世は夢、夜の夢こそまこと』


江戸川 乱歩さん。

推理小説を日本で初めて書いた人。

その人が残した有名な言葉。

今生きている現実が必ずしも現実ではない。

自分が現実だと思っていても、本当は夜に見ている夢が現実なのかもしれない。


何故、これを検索したんだろう。

もしかして、今携帯を操作しているこの状況が夢で、夢だと思っていた夢が本当だと言うこと?

夢の中の記憶を思い出そうとするが、全くと言っていいほど、何も思い出せず、分厚い雲が頭の中全体を覆っている。

何をしていたのかが分かればいいのだが。

暫く思い出そうと、ベットマットの上でゴロゴロするが一向に見えてくる気がしない。


「もう一度寝よう。」


足掻いた結果、何もしないことに決めた。

思い出そうとしても思い出せないのなら、諦めてしまえばいい。

多分、ふとした瞬間に思い出す。

確証がないが。

塊で端の方に追いやられた布団を広げ、横になる。

また直ぐに、眠ることができた。

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