第11話

 結局、直接伝えることは諦め手紙を書き置いきた。


「にしても早く来すぎたかな」


 空は昨日の雲が嘘のように晴れ渡り、波も穏やかに砂浜を行き来する。

 ベンチに座りながら遠くかなたの水平線を見ているとどこか吸い込まれるようなそんな錯覚をしてしまう。まるでどこまでも続いていて終わりがないように……。


 どんなものにも終わりはあるし、地図でも分かるように海にだって限りがある。永遠や永久なんて言うのはただの夢だ。でもだからこそその夢を捨てきれない。それが人間でそれが俺。


 さて、そんなことを考えて一体何分経った。


 時計を見るとまだ10分も経っていない。待ち合わせまではまだ1時間近くある。


「1度帰るかな……」


 全くなんで何かを待っている時は時間の流れがこんなにも遅く感じるのだろう。これが特殊なんたら理論なのか。


「早いのですね。お呼びしておいて申し訳ないです」


 かしこまった様子で後ろから声がかけられる。


「風霧さん、話って何?」


「いきなり、というのもつまらないですよね、というか私が嫌なんです。少しだけ付き合ってください」


 おそらくここで断っても彼女は話すのだろう。黙って首を縦に降る。

 座っても、と目配せされやはり無言で頷く。


「そうですね。ひとつ、昔話をしましょうかね」


 そう言ってポツポツと彼女は語り出す。


 暖かい日差しと共に潮風が心地よく吹き、彼女の髪をなびかせ遥か後方へと潮の匂いを飛ばしていく。


「話は逸れますが、この潮風が嫌いだって言う人がいますよね。髪がベトベトするだとかなんだとか、けれど私はこの風が好きなんです。やっぱりこの街の海は心地いいです」


 そう屈託のない笑顔で笑いかけてくる。

 その姿を見て嬉しいと思った気持ちの反面で胸が痛む。


 あの後、俺も俺なりに考えを見つけていた。でももしそれが本当ならば俺は取り返しのつかないことをしてしまっているということになる、彼女に対してもそうだし妹に対しても。


 そこだけは話を聞かないとわからないのだけれど。


「ま、まぁ気持ちいいよな……」


 しどろもどろになりながら答えるにはそれが限界だった。今更ながらに自分のコミュニケーションのなさを実感する。いや、それだけじゃない。やはり俺はまだ怖いのだ、真実を知ってしまうのが。それがたまらなく怖く恐ろしいのだ。


 俺の返事にうなづいてから風霧さんは大きく息を吸う。


「昔話をしましょう……これは、ある少女と少年のお話です。それは小学校の入学式でした……」


 そう語り始めた。それがどこまでも流暢りゅうちょうで留まることなく、そう、まるで暗記しているかのようにとても綺麗に出来事が並べられていく。

 その出来事のどれもがまるで彼女自身が経験したかのように、そしてそれは俺自身でも同じことが言えていた。

 全てが懐かしいように感じられた。でも、それと同時に頭がズキズキと痛みを増していく。

 まるで何かを拒むようにどんどんと痛くなる。

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