第10話
その後、妹にも状況を説明した。
説明を聞いて安心しているようだったけれど、どこかいつもよりも暗い雰囲気がしていた。気のせいならいいのだけど……。
そして望にも改めて礼を言っておいた。「今度、学食でも
そう言えば付け足し程度の感じでいくつか気になることを言っていたな。
「礼なら風霧さんに言ってくれよ、お前の家まで案内してくれたのは彼女だからな」なんて言っていたな。てっきり望が俺の家を知っていたと思ったのだが。まさか風霧さんが知っていたとはな。
望もその事について聞いてみたそうなのだけれど「昔のことです……」そう言って、帰ってしまったそうだ。
その時の顔が今にも泣き出しそうだったという。何かあるのは確かだろう。
問題はその何かをどうやって突き止めるかということ。手がかりとしては話の内容的にどうやら俺、ないしは俺の周囲が関係しているということ、そして彼女の言葉通り過去の出来事ということ。
「昔のこと、ね……」
そして、それは俺が思い出さなければいけないこと。ずっと見ないふりはできないもの……。
***
結局、昨日は何もできずに部屋にこもっていただけで1日が終ってしまった。というかいつの間にか終わっていたのだ。
しかし、それだけ考えて分かったのは俺が忘れていることは確か、でも何を忘れているのか分からないということ。消えなかった夢の記憶、あれが唯一の頼りなのだが、なんせ名前も顔もわからない。普通に考えて詰んでるとしか言いようがない。
つまり、結果として進展も何も無いのだ。簡単に言うなら詰みということだ。
「はあぁ、どうしたものかな……」
もう何度目か分からないため息が口からこぼれる。
そんな時、部屋のドアがノックされた。
「
「……うん、頼みがあるの」
「分かった、聞くからとりあえず入ってこいよ」
しかしいつまで待っても扉が空く気配は無い。どうしたんだ?
「……彩月?」
再度の呼びかけにも応じない。
「……あっ、ごめん。やっぱりなんでもない」
俺が扉を開ける前にそう言って自分の部屋へと帰ってしまった。
「なんなんだ?」
そう言えば、彩月昨日からなんか様子が変だよな。何を聞いても生返事というか上の空のような。体調でも悪いのだろうか、心配だな。
そんなタイミングで携帯が震えメッセージが届いたことを知らせる。
日曜の朝にメッセージを送ってくるのは、
断じて悲しくはない、少し寂しいとは思うけれども。そもそも相手の数で優劣が決まる訳では無いし、数があったとしてもやり取りがないならそれはないのと同等だ。だったら必要な数だけあればいいだろう。
とにかく、別に何度も言わなくても奢るものは奢るの……。
スマホを手に取って固まった。1度電源を消して再度画面をつけメッセージの送り主の名前を確認してみるがそこに表示されている名前は変わらない。
『
あ、あれれ?
1度アプリを落としてもう一度確認する。
やはり1件と表示されているメッセージには彼女の名前が確かに書かれている。
「……どういうこと?」
恐る恐る開いてみる。最悪手の込んだイタズラという可能性もある。
『突然にすみません。しっかり彩月ちゃんには確認を取ったのでそこのところは悪しからず。とはいえ勝手にこのようなことをして本当にごめんなさい』
さて、ここでなんて返せば正解なんだ? いや、正解なんてあるのか?
思い悩んでいると再び着信があった。
『これも勝手なことで申し訳ないのですが、今日はお暇ですか?』
『はい。お暇です』
考えるよりも先に手が動いていた。流れるようにそう入力し返信していた。
『良かったです。11時に昨日のところに来てください』
そう、すぐに返信が来た。
『分かりました』
とは打ったものの、未だ頭は状況を理解していない。ガッツポーズをするにも不明点が多すぎる。
一体何がどうなってるんだ。
「願ってもない、んだけどなぁ」
ん? もしかして彩月が言おうとしていたのはこれか?
メッセージのIDを風霧さんに渡したことを謝ろうと、いやでもそれならすぐに謝っているはずだ。礼儀正しい律儀な妹なのだ。なら、どうして?
「……分からないな」
顔からベッドにダイブする。今の時間は8時5分、どうするかな。
望に伝えるか、いや、駄目だな。あいつに言ったら目を血走らせて俺の家に突撃してくるだろう。不幸にも昨日、家を特定されている。
想像しただけでも寒気が走る。
かと言って彩月に言うわけにはいかないだろう。部屋から出てきてくれそうにはないし、かと言って黙っていくというのもな。
「…………」
とりあえず風呂に入ろ。
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