第6話

 その日の朝は少し暗かった。

 空全体が雲に覆われ、太陽は顔を隠している。雨は降らないだろうが、せっかくの休日だと言うのに、とても残念だ。


「ふぁぁ〜あ」


 寝間着から私服へと着替える。


 階段を降りていると、何かが焼ける音が聞こえてきた。食欲をそそるいい音だ。


「おはよ〜、彩月」


 あくび混じりに挨拶をする。


「にぃ、まだ6時ですよ」


 どうやらかなり驚いているようだった。早く起きてきたことなのか俺が自分で起きたことなのか、後者だとしたら情けないのだが事実だから仕方がない……いや、情けないな。


「……目が覚めちゃってさ」


 そんな俺を見て妹はどこか嬉しそうに俺に話しかける。


「何を食べますか?」


 そう問われても、正直なところなんでもいい。彩月の作る朝食で不味いものなんてないのだから。


「オススメで」


 だから、そんな時には今のように言うようにしている。もっとも俺が彩月の調理が終わる前に起きることがまずないので、我が家では滅多に注文されないメニューでもある。


 いわゆる裏メニューってやつだ。


 しばらくすると、サラダとともにスープ、トーストが運ばれてきた。


「トーストにトマトを乗っけて、お好みでハチミツをかけてください」


 どこかの店員のような口調で俺にそう伝える。表情を見る限りこの状況を楽しんでいるようだ。


「なぁ、彩月。今日、ちょっと出かけてくる」


「……一応、傘は持っていってくださいね。雨が降るそうなので」


 そうなのか。まぁ、現代の天気予報は素晴らしく当たるので持っていくのがいいだろう。


 しかしそれとは打って変わってなぜか彩月の機嫌が悪くなった。なにか気に触ることをしただろうか。

 正直、天気よりも妹の気持ちの方が知りたいのだが、だれか発明してはくれないのだろうか。


「ごちそうさま、美味しかったよ」


 そして直ぐに準備をする。とはいっても、最低限に必要なものをカバンに詰めるだけだ。


「……なんでだろうな」


 自分でもよくわからないが何となく海に行きたくなっていた。

 泳ぎたい訳でもないのに、まだ5月なのに、5月だから? とにかくなぜか行かなければいけないようなそんな気がするのだ。


「いってきます」


 玄関の扉を開けても外は相変わらず薄暗い。

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