第7話
家から近くの海まではバスに乗って約15分、近くも遠くもない微妙な所にある。それぐらいがちょうどいいのかもしれないが、夏になるとそうでも無い。
家の前の道は海水浴目当ての車で大渋滞。去年は警察までが出動する事態になっていた。
当然の如く夏場は人でごった返す浜辺も今は閑散としている。ただ、天気があまり良くないせいだろうかいつもよりも少し波が高い。
押しては引いてまた押寄せる波。
ただ、それだけだ。他にこれといって何かがあるわけではない。
「なんで、ここに来たいなんて思ったんだ……」
浜辺を歩きながら考えても答えは出そうにない。
しばらく砂浜を歩き、ふと海へ向き直る。どこまでも続いていそうな水平線。終わりがないように見える水平線。
いつもと何も変わらないはずなのになぜか違和感が凄い。
この景色それを昔……。
「……………………」
気がつくと頬には一筋の涙がつたっていた。そして
「……な、なんで泣いてるんだ、俺は」
涙は止まらずこぼれ続ける。一体俺の体はどうしたのだろう。
「なにか見えるの?」
突然耳元に
慌てて涙をふいて、いち早くその場から去ろうと足を踏み出す。しかし踏み出した脚がもういっぽうに絡まる。
気づいたときには手遅れだった。言うまでもなくバランスを崩して正面から海水へとダイブすることとなったのだ。
「ごめんね、まさかあそこまで驚くとは思わなくて」
彼女は笑いながら、それは本当に楽しそうに笑いながら俺に話しかける。
全身ずぶ濡れでベンチに座る少年とその隣の少女。絵面的に相当まずいことになってないかな。
いや、濡れてるのが俺ならまだマシか。どちらにしてもこの状況に問題があることに変わりはない。
「それは……まぁ、いいんですけど、なんでここにいるんですか?
彼女は俺から目を離しながらそう告げる。
「ここに忘れ物をしちゃってるんです。とても大切な、忘れたくなかった物、忘れちゃいけないもの……でもその様子を見ると、やっぱり、あなたは……」
それを言ったっきり彼女は海の方を向いてしまった。最後、何かを言いかけていたことが気になる。
でもきっと彼女は教えてくれないのだろう。
確かな根拠がある訳では無い。何となくそんな気がした、ただそれだけだ。
彼女の瞳は何か遠くのものを見つめているような、思い返しているようなそんな瞳だった。
「……拓馬くん、少しだけ付き合ってはくれませんか」
「……えっ?」
「忘れ物探しです。1人では見つけられないんです……きっと」
こちらにとっては願ってもない申し入れだった。なんてったって超美人さんなのだから。
というか風霧さん俺の事を下の名前で呼んだよな、気のせいか?
「構わないですけど、どんな物なんですか?」
「おそらくそれが分かれば事態は解決するんだと思うのです」
完全に予想外で想定外の答えが返ってきた。
つまりあれか、何を落としたのかがわからないと……。
「どんなものなの?」
彼女は立ち上がり、ゆっくりと海へ向かって砂浜を歩き始める。俺もそれに追従する。
「形はあるようでなくて、かと言って全く無いわけでもない……」
「あっ、ちょ……」
彼女はなんの
「拓馬くんも……」
言われるままに、言われた通りに俺も海へと足をつける。もちろん靴は脱いでだ、ついでに言うなら彼女にも一応靴を脱いでもらった。
すると、なんの予告もなく。
「ほら、ふうくん。ぼさっとしてたらかけちゃうぞ」
顔を真っ赤に染めながら海水をすくい上げる。そうしてそれを俺の方へと。
「へ?」
目の前には水が迫っている。当然よけられるはずもなく顔面にもろにくらってしまう。
いや、どういうことだ。わからないことが多すぎる。
なんで、俺は海水をかけられたのか、そもそも今まで俺にふうくん、なんていうあだ名がついていた時があっただろうか。
「うわっ、しょっぱい……」
ぽつりとこぼれた独り言。
「……海なんだから、しょっぱいに決まってるじゃん」
そこにはなんとも言えない既視感。いわゆるデジャブと言うやつ。懐かしさ、のようなもの……。
そう言えば海は見ていたけれど海に入ったのはいつぶりだろう。昔はよく海水浴をしに来ていたもの……いや、待て俺はいつから海水浴に来なくなったんだ。妹からは毎年のように誘われていた。
なんで俺は海に来たくなかったんだ……。
そこでまるで思考を遮るかのようにとてつもない頭痛が俺を襲う。
「ぐっ、なんで……思い出せ、ない」
頭が割れんばかりに痛む、とてつもない衝撃を受けた、なにかに殴られたように容赦なく俺の頭をを攻撃する。
その頭痛のせいで足元がおぼつかない。意識もはっきりせず、世界が
そのまま地面に膝をついてしまう。乾きかけていたズボンは再び海水を含む。
「な、なんなんだ……こんなこと、今まで」
そうして、そのまま意識を失った。
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