第5話

 なぜか話は学校での俺の事で盛り上がっている。

 というか、のぞむ彩月さつきがもう完全に打ち解けてるのは一体全体どういうわけだ?  あれか、共通の話題があると打ち解けやすいってやつなのか。


 それにしてもそんなに面白い話でもないと思うのだが。


「あっ、そうだよ。風馬ふうま


「ん? なんだ?」


「ひとつ、風の噂で聞いたんだが風霧かざきりさん、前にこの街に住んでたみたいだぞ」


「お前は風の精霊か何かか?」


 本当に望の情報収集力には驚かされる。

 まぁ、流石は現代のジャーナリストとささやかれるだけのことはある。というか、ジャーナリストって現代にしかいないよな。もう少し考えられなかったのか?

 まぁ、あだ名に文句を言っても仕方がない。


「へっへっへ、旦那。まだまだありまっせ」


 どこぞの悪徳商人よろしく不気味な笑みを浮かべている。

 あぁ、この顔はあれだ、なにか見返りをくれ、という顔だ。


 それよりもたまに出てくるこのキャラ普段と違いすぎるだろ。ギャップを狙っているのだろうか。だとしたら失敗もいいところだ……もちろん本人には口が裂けても言えないが……。


 それはともかく、情報量ジュースをお支払いしていくつかの情報を聞き出すことに成功した。ジュース1本で聞き出せる情報とは一体どれだけ安いのだろう。


 まぁ、その情報というのは、どうやら風霧さんは小学生の時はこっちにいたということ、正確に言うなら俺の住む地区に住んでいたということ、父親は起業家でアイデアを求め常に全国を回っている、成績優秀等々。


 そうなってくると、もしかしたら小学生の時に知り合っていたのかもしれないな。帰ったら卒アルを見返してみよう。


「本当に、お前は凄いな」


「そんなことないぞ、割と普通に風に乗って入ってくる」


 やはりお前は風の精霊か。


「じゃあな、気をつけろよ」


 そう言って精霊は風のように去っていった。


「面白い人でした」


 ポツリと呟いた妹はなぜかホクホクとした顔で満足していた。


「彩月、デザート買ってやる。何がいい?」


 珍しく悩んだ結果「にぃの作ったのがいいです」との事だ。帰ったら作ることにしよう。

 そう思うと割かし普段からわがままを言ってるのかもしれない。


 俺自身がそれをわがままと思わない程度のわがままを言っているのかもしれない。なんか少し安心した。

 様々な収穫と賑やかで楽しいかなり久しぶりの外食だった。


 ***


「ほら、ふうくん。ぼさっとしてたらかけちゃうぞ」


「へ?」


 いきなり目の前には水が迫っている。当然よけられるはずもなくもろにくらってしまう。


「うわっ、しょっぱい……」


「ぷっ、はっははぁ、海なんだからしょっぱいに決まってるじゃん」


 少女は高らかに笑っている。


 それでも顔はわからない。黒くモヤがかかっている。

 声にも若干のノイズがはいっている。


 お前は一体誰なんだ?


 ふと、浜辺を見ると1つだけ大きなパラソルが開かれている。色は白と黒。その下で1人が俺に手を振っている、おそらく母だ。その隣に父。その隣にいるのはこの少女の両親だろう。

 あいにくこちらも黒いモヤが覆ってい顔は見えない。

 そして何より浜辺の方は全てが白黒で色あせていた。


 これは間違いなく夢だ。そして、俺の記憶だ。忘れちゃいけない記憶だったものだ。


 





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