第2話

 朝、登校するとなんだかクラスの中が妙にざわついていた。いつもから騒がしいといえばそうなのだが、今日は何か違う。


「どうかしたのか?」


 近くにいたクラスメイトに尋ねてみる。


「ん? おぉ、風馬ふうま。実はだな……」


 正直なところ、いやもうあきらめてはいるが俺の名前は風馬じゃなくて拓馬たくまだ。

 どこの誰が言い始めたのかいつの間にか定着しているが俺の名前は拓馬だ。風見拓馬かざみたくま、略称というか敬称、いわゆるあだ名が風馬という訳だ。なんだか普通に名前を呼ぶのと変わりがないのだが、というか普通に俺の名前を呼んだ方が楽じゃないのかな。

 まぁ、とにかくこのクラスでは俺は風馬として統一されている。


「転校生?」


 俺の友人、佐々木望ささきのぞむはそう言った。


「そう、このクラスに転校生が来るみたいなんだ。風の噂によると相当な美人らしいぞ」


「なるほどな……それでこの騒ぎか」


 いつもと違うざわめきを放っている教室に扉が開く音が響く。


「ほれほれ、席につけ。知ってると思うが転校生がいる」


 そうして入って来た少女は一言で言うなら美しいということ。

 長い黒髪は腰のあたりまであり、彼女が歩くたびにさらさらと左右に揺れる。黒い瞳は何もかもを見透すが如く曇りなく真っ直ぐこちらを見つめている。主張をし過ぎないが存在感のある胸……いや、待てなんでこっちを、俺の事を見てるんだ?


 彼女の瞳は間違いなく僕に注がれている。まるで何かを確認するかのように。

 途端、何故か胸が騒ぎだす。ザワザワとなんとも言えない不安が押し寄せる。


 なんだろう、彼女とはどこかで会ったことのあるような、そんな気がしてやまないのだ。今日、初めてあったはずなのに……。


風霧麗奈かざきりれいなです。よろしくお願いします」


 すっと、前を向いて彼女は明るい声で挨拶をする。担任が席の位置を説明して朝のショートが始まる。


「風馬、風霧さんお前のこと見てなかったか?」


 すぐ後ろの席の望が方を叩きながら問いかけてくる。


「やっぱり、そう見えたか?」


「知り合いなの?」


「いや、初対面……だと思うんだけど……」


 取れなくなった魚の骨のように何かが俺の胸に刺さっている。でも、何が突っかかっているんだ。

 何とも言えない違和感が、なんだろう、何かを忘れているような。


「……馬……風馬……おい、風馬、大丈夫か?」


 気が付くと望が俺の両肩を掴んで揺さぶっていた。


「あ、あぁ、すまん。大丈夫だ」


 何もないといいのだが……。

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