第3話

「……ぃ……にぃ、にぃ!」


 気がつけば妹の彩月さつきが俺の袖を掴んでブンブンと振っている。


「あぁ、ごめんごめん。買い物だっけ?」


 昇降口を出てすぐの所で妹と待ち合わせをして、近くにあるデパートに向かっている。今日は買い物に行きたいのだと今朝話をしていた。


「そうです、見ておきたい服があるのです、ついでに食材も調達しないとですし……」


 気をつけておかないとな。あの転校生、風霧麗奈かざきりれいなのことが気になって、結局今日は気を抜けば上の空になっているそうだ。

昼休みの時ものぞむが言っていた。


「にぃ……大丈夫? 体調悪いなら帰るよ……」


 彩月が心配そうに俺の顔をのぞき込む。


「大丈夫だよ、ほら行こう行こう」


 そうだよな、たまたま目があっただけだ、おそらく深い意味は無いんだろう。そういうことにしておこう。


「そう言えばに転校生が来たんですよね?」


 彩月が僕の前に出てくるりとこちらを向く。


「ん? あぁ、来たね」


「その人美人って噂で聞いたんですけど、実際どうなんですか?」


「そうだね、美人だよ」


 おそらく、10人いたら10人が認める美人だと思う。それはクラスの反応からも読み取れる。


「彩月。その人、風霧麗奈って言うんだけど知ってる?」


「いや、知らない、かな……」


 まぁ、そうだよな。やっぱりこの違和感は気のせいと言うやつなのか。

俺自身が勝手に何かおかしいと思い込んでしまっているだけ?


「……なら、その方がいいか」


「ん? どうかしたの?」


 前を歩く彩月が振り返る。


「いや、なんでもないよ」


 とりあえずは買い物に集中しないとな、また彩月に怒られる。




「にぃ、どうですか?」


 妹は只今、絶賛試着中だ。とは言っても全く決まらないようで、かれこれ1時間が経過しようとしている。

時刻はもうかれこれ5時を回っている。


 結局のところ、俺の妹だって相当可愛い部類に入るわけだから何を着ても似合うと思うのだが。

なんて言うと決まって他の人には思われるのだが、決して身内を贔屓ひいきしている訳ではない。証拠としては、彩月は現に高校でも既に何回か告白されてるようだ。

 なぜか全て断っていると言うのだが、正直なところもったいないといつも思う。


なんで告白を受けないのかと聞くときまって「だって、嫌なんだもん……」と、なぜか少し怒り気味にそれだけ言って自分の部屋へと消えていってしまう。


「うん、似合ってる。というかおそらく何着ても似合うぞお前は」


「またそうやって適当なことを言う……」


 そう言ってカーテンを閉めてしまう。おそらく今のが最後の服だろう。


「俺も見ておきたいものがあるから先行くぞ」


「あ、待ってよ。買うの決めましたから」


 言ってから数分で彩月は出てきた。そんなに早く着替えれるんだったらなんで数着を試着するのに1時間もかかるんだ、と思ったが口にするのは良くないだろう。


「それで? どれを買うんだ?」


「これです」


 他の服とは別に右手で持たれていたのはワンピースだった。全体的にピンクがかっていて、控えめにフリルがついている。これは……。


「にぃの反応が顕著けんちょだったので」


 そういう訳だ。いや、想像以上だったからつい、ね?


「ふ、ふぅ〜ん。いいんじゃない……」


「そんなに似合っていましたか?」


 いじらしくクスクスと笑ってレジへと歩いていく。

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