捻くれ者の恋愛事情

三城 谷

〜天邪鬼〜

 青春とは、当たり障りない日常である。何も無い日常、何も変化の無い日常を繰り返す事が、つまりは青春だと俺は思う。


 ――勉学にはげむ者。


 ――部活動に励む者。


 ――友人と談笑する者。


 人によって青春とは異なる形で生まれ、そして体現される。人の数ほどに体現可能な物があり、人の数ほど体現不可能な物があるというのもまた存在するのが世の摂理せつり

 不可能というのはつまり、可能な物をひがむ者たちの事。青春という1ページを捨て去り、諦め、ひたすら自身のプライドや理想を追った者たち。

 そんな者たちが願うのもまた、青春という言葉を求める。少し論点がズレてしまったが、今で言えばこういう言葉を僻む者たちは呟くのだ。


 ――リア充爆発しろ、と。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「……お前、こんな小論文があるか?てか普通書くか?学校の課題だぞこれ」

 「いえ、思った事を書くのがこの課題のテーマですよね?なら、俺がこれを書いても課題クリアはクリアじゃないんですか?」

 「内容を考えろよ内容を。お前、普段から何を考えてるんだよ」


 ――木之下きのしたノラ。高校一年生。所属部活動は帰宅部。趣味は読書と音楽鑑賞。最近、最もハマッている事は……――


 「『どうやったら世のリア充は、視界から消えてくれるのか?』というテーマを考えながら彼らが爆発して木っ端微塵こっぱみじんに妄想を現実にしようと努力して日々を生きていますが、何か?」

 「木之下……なんでお前は成績が良いのに残念なんだ!?もっとあるだろ?3年しかない高校生活だぞ?」

 「興味ありませんし……参考までに、先生にとって高校生活とは何があるんですか?」

 「いやあるだろたくさん!ほら、スポーツとか」


 先生がそう言った瞬間、ノラは心底嫌そうな表情を浮かべながら言った。


 「どうして俺がそんな熱血ヨロシクという環境の中で、えっちらほっちら汗水流してリア充オーラ出しまくりな事をしなくちゃいけないんですか」


 自分の膝に頬杖をし、先生に文句を言うノラ。その会話は全教員にも聞こえており、全員が溜息混じりに頭を抱えていた。

 そう。何を隠そう。この木之下ノラという生徒は、一般入試で満点を取り、今までのテストでも満点を取り続けるというエリートなのである。

 だがエリートとは裏腹、極度の面倒臭がりであり、『やれば出来るけど、やらない子』という残念なスタイルを持つ生徒なのであった。

 そんな彼に青春を謳歌おうかさせようと、教員は協力し合っているのである。だがしかし、当の本人にはそのやる気が無い。それどころか、青春にすら敵対する人種から難しいという状況に日々悩ませているのであった。


 「とりあえず課題は出したんで、そろそろ教室に戻っても良いですか?良いですね。ありがとございますー」

 「あ、あぁおい、木之下!……ったく、あいつまた勝手に戻りやがった」


 半ば無理矢理に職員室から出たノラは、欠伸をしながらポケットに手を入れて足を運ぶ。ユラユラと揺れながら、制服を着崩し、シャツもズボンから出している。そんな比較的だらしない格好でいる所為で、見た目から入れば誰もが不良だと思うのだろう。

 だがしかし、所詮は見た目だけである。


 「あ、ノラちんだ。はろはろー!」

 「……」


 そう挨拶する見た目ギャルっぽい女子生徒。その横を無言のまま通り過ぎて、挨拶を返さないでいたノラ。

 だが、その女子生徒はすぐにノラの肩を掴んで動きを制して言った。


 「こらこら、人が挨拶してんだから無視しない」

 「……?」


 肩を掴まれた事に疑問を覚えたのか、ノラは眉を曲げて女子生徒を凝視した。

 真っ直ぐに見られているというのが気恥ずかしいのか、女子生徒はやや目を逸らしながら口を開く。


 「な、なによ」

 「……お前、誰?」


 ――――――。

 

 微かな沈黙が彼らを包んだが、数秒後にハッとした様子で女子生徒は言った。


 「はぁっ?あんたそれマジで言ってんの?マジありえないんだけど」

 「いや、マジだし有り得なく無いぞ。実際問題、俺はお前みたいな知り合いは居ないからな」

 「……は?」

 「『知らない人に声を掛けられても、着いて行っちゃダメよー』という教えを受けてるから。んじゃ」

 「ちょい待ちー。本当の本当にアタシを知らない!?友人の顔すら覚えられないの?あんた!」

 「友人?お前が?」

 「そうよ」


 自分と彼女を交互に指差し、ノラは事実確認を取ろうとする。仁王立ちして腕を組む彼女に睨まれながら、ノラは記憶上に彼女が居るかを確認する為に脳内検索をし始める。

 

 「んー、すまん。やっぱり思い出せないわ。俺、他人に興味無いし」

 「ちょちょちょちょちょっと待とう!」

 「何だよ。早くしないと休み時間が減るだろうが。俺が昼寝出来なくなったらどう責任取ってくれるんだ?あぁ?」

 「喧嘩越しに来てるけど、まさかの内容がちっちゃい!?――てかアタシだってば、幼馴染おさななじみの名前ぐらい覚えなさいよ!」

 「幼馴染ぃー?お前が、俺の?」

 「その言い方、次やったら蹴るから」

 「蹴りの準備してる所悪いが、パンツ見えそうだからここでは止めとけよ。琉璃るり

 「なっ……!?」


 見えそうで見えないスカートの下を指差しながら、ノラはそんな事を言った。だがその指摘を聞いた途端。爆発したように真っ赤に染まった彼女はキッと睨んで蹴りを放った。


 「ていっ!」

 「結局蹴られるのか。空手有段者のお前が本気で蹴ったら怪我人出るぞ」

 「良いじゃん。どうせノラちんは、アタシの幼馴染じゃないんでしょ?」

 「はいはい。悪かったけど、蹴りは無しだろ」

 「手加減してるしその程度じゃ痛がらないでしょ、ノラちんは」

 「まぁそうだが……」


 ――西木野にしきの琉璃るり。高校一年生。木之下ノラと同じ中学出身であり、幼馴染でもある女子生徒。所属部活動は帰宅部だが、放課後にバイトをしている。そんな彼女だが、彼女には秘密があった。それは……――


 「(やったぁ~。今日もノラ君と話せたぁ!!超ラッキー!!!!)」


 ――木之下ノラに恋心を抱く、ギャルに成り切れて無い少女なのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 


 放課後。放課後というのは青春に最も多用されている時間だろう。受験勉強、部活動、談笑、寄り道、使い方は人それぞれだ。最も高校生活の3年目を迎えている上級生たちは、必死な中で受験勉強とやらをしている事だろう。

 まぁ俺には関係無いが、それでもいつかしなくちゃいけないという現実問題。この問題を解決する方法は、受験校からの推薦をもらうしか方法は無いだろう。あるいは受験を諦め、就職という手だってある。

 個人的には後者は無い。正直言って、朝の電車の中でお腹がいっぱいだ。あれを毎日繰り返すのならば、俺は一生ニートかヒモを所望したい所だ。


 「……」


 そんな事を思いながら、受験生がまばらに使用している図書室までやって来た。やって来たは良いが、正直言って暇潰しでしかない。家帰ってもゲーム機というものはあってもやる相手はおらず、それに1人用しか持っていない。

 後は妹もいるのだが、テレビが一階にしか無い以上、取り合うになるのが関の山だ。となれば取る行動は1つ、妹が風呂に入ってる時間帯に帰ってやり過ごすのが最善だ。


 「……(どの本も読み飽きたな)」


 家に帰れば、嫌と思っても妹とは遭遇してしまう。そして遭遇すれば、だるい絡みが発動される事は目に見えている。ならば時間をズラし、俺に危害が加えられない状況を作ったうえで帰るのが妥当だろう。

 その為には時間をある程度、潰す必要があるのだが……入学当初から通っている図書室なだけあって、もう読める本が無いに等しい。


 「……(ナンテコッターと神社の孫?何だこのタイトル。絶対駄作だろ)」


 どこかの魔法学校の話をパクッたような本を見つけ、俺は心の中でそうツッコミを入れる。『図書室はお静かに』というルールは守るし、俺の時間を失う事に繋がる行動は避けたい。

 だが、これはツッコミしか出なかった。他にも似たようなタイトルがあるのだが、どれも残念な作品というのを感じさせるモノばかりだ。


 ――『キャプテン何処だ?』

 

 「(サッカーやれよ。キャプテンを探すな、試合をしろ)」 


 ――『はだしのゲイ』


 「(ただの変態じゃねぇか。誰が読むんだこんなもん)」


 ――『待てセリヌンティウス』


 「(走れよ。待つなよ。つか主役変わってるじゃねぇか)」


 ――『バッテリー~二つの電池~』


 「野球じゃねぇのかよ!」


 おっと、しまった。つい声を出してしまった。こうも立て続けに見つけてしまうと、ツッコミを心の中に留めるには限界があるらしい。初めて知ったぞ、この感覚。

 

 「(ていうか、何でこんな本しか無いんだよ。前は無かったじゃねぇか)」


 そんな事を思いながら、俺はしばらく図書室で放課後を過ごした。なんだかんだで変なタイトルが多く、意外にも楽しくなってしまった結果……時刻は夕方を遥かに過ぎていた。


 「……しまったな」


 思わず出た言葉をしまい、俺は携帯を取り出して母親に連絡する。トークアプリだが、何も連絡しないよりは遥かにマシだろう。そう思っての判断である。であるのだが、既に1件通知が来ていたらしい。

 『母親だろうか?』そう思いながら俺はトークアプリを開いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 琉璃:はろはろー。ノラちん?いまどこー?

 ノラ:家

 琉璃:嘘つくなー。知ってるからねー、家にいないの

 ノラ:学校だが、何か用か?

 琉璃:え?なんで?もしかして部活始めたの?(゜_゜)

 ノラ:んなわけねーだろ。用が無いなら後にしろ

 琉璃:あー!ちょっと待ってよ!

   :あれ?ちょっと?

   :ねー!ヽ(#`Д´#)ノ

 ノラ:なんだよ

 琉璃:さて問題です。アタシは今、どこにいるでしょー?


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「――知るかそんなもん」

  

 携帯の画面を睨みつけながら、俺はそんな事を呟いた。何を考えているのか分からない以上、相手していても仕方が無い。そう思っている俺は、もう既に家に到着している。

 制服のポケットから鍵を取り出し、欠伸をしながら鍵を開けて扉を開ける。


 「(今日はもう風呂入ったら寝るか。久し振りに熱が入っちまったし……)」


 そんな事を思いながら、リビングを開けた瞬間だった。


 「おかえりー、おにい」

 「はろはろー、おかえりー!ノラちん」

 「……」


 ソファに背中を深く預け、顔だけをこちらへ向ける妹。そしてその目の前にあるテレビの前で、ドヤ顔を浮かべながら手を振る見知った顔。俺はその状況を見て、溜息混じりに妹へと問い掛けた。


 「おい、ハル。どうしてこいつがここにいる?」

 「おにいが変なプライド?みたいなのに従ってる間、琉璃さんがご飯作ってくれたんだよ。お母さんたち、今日は会社に泊まるらしいよ。はい、これ」


 そう言って妹のハルは、俺に携帯の画面を見せて来た。それは理解出来るが、何でこいつが飯を作るのかが意味が分からない。料理ならハルも出来るし、俺だって出来る。わざわざこいつが足を突っ込む話でも無いだろうに。


 「それで?お前らは飯食ったの?」

 「んー、食べたよー。後はおにいだけかな。あ、琉璃さんそっち行くと行き止まりだよ」

 「うわ、ほんとだ!えー、これどうやって進めるの?難しくない?」

 「…………」


 テレビゲームをやりながら、ハルは琉璃と一緒になって画面に釘付けとなっている。飯を食べたのなら、さっさと帰ればいいものを。そんな事を思いつつ、俺は風呂へと足を運んだ。

 まぁ日付が変わるまでは流石に居るつもりは無いだろうし、ゲームに飽きてやる事が無くなればすぐに帰るだろう。それよりもまずは風呂だ。


 「……ふぅ」


 どんなに日常が退屈だとしても、どんなにつまらない日常を過ごしても、やはり風呂の時間だけは欠かせない。やはり日本人としての血が騒ぐのか、それとも俺自身が単なる風呂好きなのか。それとも両方か。

 だがそれでも、俺はこの風呂に入っている時間を好んでいる。何故なら、何にも邪魔をされず、何にも塗り替える事の出来ない時間だからだ。尊い時間であり、俺にとっての神聖な時間である。

 『風呂は命の洗濯』とは、良く言ったものだ。


 「……」


 やがて風呂から出て、俺は風呂上りに飲む飲み物が無いかと冷蔵庫を開けに来た。来たのだが、リビングにはまだ奴が居た。


 「あ、風呂からおかえりー。ノラちん」

 「何でまだいるんだ?」

 「琉璃さん、今日はお泊りだよ?」

 「…………は?」


 妹のハルが言った言葉が、一瞬理解が出来ずに思考が停止してしまった。今、ハルはなんと言ったか。聞き間違いかもしれないから、もう1回聞いてみるとしよう。


 「ん?なんつった?」

 「だから、琉璃さんは今日お泊り。うちに泊まるの」

 「なんで?」

 「そういう事だから、おにい。今日はオール決定ね」

 「俺は寝る」

 「ええー、せっかく琉璃さんが来てるのに!?寝るとか有り得ないんじゃない?」

 「何でこいつが泊まるからって、俺が自分の睡眠時間を削らないとならん。相手が欲しいならハルがやれ。俺は寝る。じゃあな」

 「あ、おにい!」


 そう言って俺はリビングを後にし、自分の部屋へと向かうのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「もう、おにいってば……ごめんなさい。琉璃さん、あんな兄で」

 「ううん、大丈夫だよ。ノラちんがああなのは、今に始まった事じゃないから」

 「そうですけど……せっかく琉璃さんがおにいに会いに来てるのに……」

 「ぶふっ!?……ちょ、ちょっとハルちゃんっ!?」

 「え、違ったんですか?私はてっきり、琉璃さんはおにい目当てで来てるのかと」

 「うぐ……」

 「あ、ゲームオーバーですね。次私の番なので、琉璃さんは待機ですね」


 そう言いながらハルは琉璃からコントローラーを受け取り、テレビに近付いて琉璃の隣へと並ぶ。二人で体育座り気味な座り方をしながら、一緒になってテレビゲームに視線を向けている。

 だが琉璃には、先程のハルの言葉が頭から離れないでいた。


 ――私はてっきり、琉璃さんはおにい目当てで来てるのかと。


 その言葉は、的を射ていた。というか、ドンピシャである。夕飯を作りに来たという所からは、下心で琉璃が自分で決めた行動からだった。だがしかし、泊まるという話はハルから言伝で決まったものであり、琉璃自身が決めた事ではないのだ。

 だからこそ琉璃は、先程の言葉をリンクして萎縮してしまっていた。そんな小さくなっている琉璃を気になったのか、ハルはゲームをしながら口を開くのである。


 「――琉璃さん」

 「な、なにかな?ハルちゃん」

 「おにいのドコが良いんですか?」

 「ぶっ……!?な、なんでかな!?ハルちゃん!?」

 「いちいちそんな驚かなくても。いえ、ちょっと気になって。男なんてたくさん居ますし、何でその中でおにいという性格が傾斜住宅みたいな人を選んだのかなぁって」

 「傾斜住宅って……なんて微妙なニュアンスが漂う言い方」

 「でも微妙じゃないですか。うちのおにいって。しかも捻くれてるし。だから何でかなって思いまして……教えてくれます?どうしておにいを好きになったのか」

 「あんまし面白い話じゃないよ?」

 「それでも良いですよ。ちゃんとした理由であれば」

 

 そう言ったハルは、ゲームを中断して琉璃へと顔を向けた。その顔は、表情は、目は真剣なものだった。琉璃は悟った。これは逃げてはいけないと、だから話すのだ。琉璃という少女が募らせた、初恋の瞬間を……――


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 中学生の頃の話だ。アタシがまだギャルっぽくなく、ただの西木野琉璃という少女だった頃の話だ。この頃のアタシは多分、クラスの中では地味な子だったと思う。髪も茶髪じゃなく、真っ黒な黒。制服も着崩す事なく、眼鏡を掛けて、オドオドするのが通常という女の子だったと思う。


 その頃はまだ、彼……木之下ノラという男の子の事は、何にも思っていなかった。ただのクラスメイトであり、ただの友人以下の存在。だってそうだろう。言葉を交わす事も無ければ、目も合わさった事の無い間柄だったのだ。

 だがある日を境に、アタシの目には彼が別物として映り始めた。


 「――っ!?」


 ある日の朝。自分の下駄箱に詰め込まれたゴミの山。教室に行けば、机中に満遍なく書き殴られた悪口の数々。何もしてないのに、ただじっと大人しくしていただけなのにもかかわらず、気付けば自分が標的となっていた時である。

 いわゆるイジメという奴をされていて、それは数ヶ月間に渡って続いていた。誰も助けてくれず、誰も目を合わせてくれず、もし合わさったとしてもすぐに逸らされる。そんな毎日が続き、アタシの精神が崩壊し掛けていた時だった。


 ――バシャン!!


 『うっわー、きったねぇ』

 『はははは。お前それは無いわー』

 『無いなぁ。ただでさえブスなのに、余計にブスになっちまうな』


 高笑いで響いた教室。ずぶ濡れとなった自分の制服。グラグラと揺れる視界と痛い程に苦しい鼓動。そんな騒がしい世界の中でただ1人、立ち上がってくれた人が居たのだ。


 ――べチャ……


 『へ?』


 アタシを苛めていた男子の頭から、だらだらと垂れる汚水。それは教室にあるボロ雑巾から染み出した水だった。それが思い切り濡らされた状態のまま、その男の頭に投げられたのである。


 「ぎゃーぎゃー、うるせぇな」

 『あぁ?いきなり何すんだてめぇ!』

 「やり口がお子ちゃま過ぎて、お節介を焼こうと思っただけだ。効いただろ?汚水の方が」

 『チッ、なんだよ。こんな奴の味方すんのか?まさか、お前こんなブスが好きなの?ははははは、超ウケんだけど』

 「はぁ……くだらな。興味ねぇよ、そんな言いたい事が分かってるのに言い出せない奴の事なんか。でもよ、。俺は。――」

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 「え、それで好きになったんですか?」

 「その後、ノラちんは皆にアタシに向かって謝らせたの。やり方は凄かったけど、それでもアタシにとっては嬉しい事だったんだよ。嬉しくて嬉しくて、だけど募った気持ちを言い出せなかったアタシは、ノラちんが言っていた事を思い出してこうなったの」

 「琉璃さん、イメチェンしたのってそれが理由……はぁ、おにいも随分と無茶したなぁ。おにい、ああ見えてビビリなのに」

 「え、そうなの!?」

 「そうですよ。お化け屋敷とか入れませんからね。後、高いとこ」

 「え、ちょっと意外だし可愛い♪」

 「うわー、これ以上無いくらいお目目がキラキラですよ?琉璃さん」


 そんな会話を交わす事、数時間。やがてハルの睡魔に限界が来たのをキッカケにして、琉璃も寝る事にした。だが自分で打ち明けた事を思い出してしまい、目が冴えた事によって眠気が来なくて悩んでいた。


 「(ね、寝れない。……ど、どうしよ)」

 「ふわぁ~あ……んあ?」

 「あ」


 リビングに戻った時だった。バッタリ遭遇してしまった途端、打ち明けた事を思い出した琉璃はボフッと顔を真っ赤にした。


 「お、おおおおおはようノラちん!今日も良い天気だね!」

 「まだ夜だぞ。深夜帯だし、何言ってんだお前」

 「(ど、どうしよう!?どうしようどうしよう!?まだ気持ちが落ち着いてないのに、何で起きてるのよノラ君の馬鹿ぁ~!!)」

 「……?」


 あたふたとしている琉璃とは裏腹、首を傾げて動揺している彼女を眺めるノラ。そんなノラは、溜息を吐きながら携帯を取り出して眺め出した。すると数秒後、自分の携帯が床を伝って震えているのに琉璃は気付いた。

 

 「ちょ、ちょっと待ってて!」

 「???(何だ、あいつ)」


 やがて琉璃が部屋へ戻った数秒後、ノラの携帯に通知が1件表示された。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 琉璃:ご、ごめんね?1人の時間邪魔しちゃって

 ノラ:別に、お前が何しようが興味無いし

   :気にしてない

 琉璃:えー、言い方ひどくない?もう少し女の子として扱ってくれないかな?

 ノラ:寝言は寝て言え

 琉璃:もう少し女子に優しくすれば、ノラちんにも彼女が出来るかもよ?

 ノラ:いらねぇよ。面倒なだけだ

 琉璃:そうなの?

 ノラ:他人に合わせるとか、正直面倒だしな。気楽なままが良いと思うのは当然だ

 琉璃:ふうん、そーなんだ

 ノラ:でもそう考えると、お前は少し気楽で良いな

 琉璃:!!!!ど、どのへんが?

 ノラ:気楽なのにどのへんがっていうのは無いだろ。

 琉璃:ええ、教えてよ!

 ノラ:何もねぇよ

 琉璃:ええー、うそだー。ばーかばーか

 ノラ:はいはい。つまらない事言って無いで、さっさと寝ろ

 琉璃:あー、逃げたー

   :良いよ。ノラちんの恥ずかしい話、明日の朝にハルちゃんに聞くから

 ノラ:勝手にしろ。じゃあな

 琉璃:おやすみー

 ノラ:ん


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 時計の針の音。それだけが響く中で、俺はただ携帯を眺めて溜息を吐く。終わったばかりの会話を眺めながら、俺は自分しかいない部屋の中で呟くのである。


 「お前が居るのに彼女なんかいらねぇだろ。ばーか」


 俺は少し肩を竦めながら、自分の部屋へと戻ったのであった。

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