イアン 2

 部屋に戻るとイアンは大きく息を付いた。まだ電気の入っていない部屋はすっかり冷たく、世界儀の光も弱まっていた。上着を脱ぐと薄く明かりを灯し、渦巻いている表面をイアンは軽く触れる「また暖めてやらなければ」と思った。

 軽い食事を取り、シャワーを浴びる。明日のスケジュールを確認し、廊下のメインパネルにタイマーを入力する。時間が来れば清々しい空気が部屋に満ち、朝食と一杯のコーヒーが用意される。

 部屋で着替えを終えた頃には薄暗い空気も壁と馴染み、イアンは世界儀の前に座ってゆっくりと両手をかざした。イアンの手の平の暖かみに呼応するように世界儀はじりじりと動き始める。始めは顫動するように揺れ、震え・・・やがて青い熱を放ち始めるむらさきの世界。自らの生命に悟り、光り渦巻くそれはイアンを暖かく包み、穏やかな躍動を伝えている。

 イアンは行程が安定したのを感じると、身体の力を抜いてむらさき色の振動にすべてをゆだねる。吐き出した息が思っていた以上に深く、身体から意識が溶け出しそうになって怯えもするが、さらに力を抜き、すべてをゆだね、感覚を解放する。


端や壁の無い広大な無限ループを描く

捩れた漆黒の空間を


探究する。


果てしない空間のなかの一点で始まる

ある可能性の物語りを


求め

探して・・・


むらさき色の世界が脈打っている。

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