24話 五つ目の加護


 テーブルには様々な料理が並べられています。

 どれもとても美味しそうなのに、一種類だけ赤い不格好な料理があります。これは何でしょう?

 私はそれを一つ口に入れますが、口に入れた瞬間体に電流が走ります。

 こ、これは危険です。

 私には毒は効きませんが、これは毒がどうとかいうモノではありません。

 これ自体が凶器です。


「ど、どうした? お前がそこまで表情を崩すなんて珍しいじゃないか」

「こ、このお皿に乗っているのは凶器ですか?」

「あ? これは唐辛子というモノが大量に使われている料理だな。お前……もしかして辛いのが食えないのか?」


 ドゥラークさんが馬鹿にしたようにそう言ってきます。

 ムカつきますが、この凶器は料理として存在しているそうです。

 ドゥラークさんも一つ口に入れましたが、「うん。少し辛いが美味いじゃねぇか」と頭のおかしな発言をしていました。

 ともかくこれを作った人にはお仕置きが必要です。

 私が凶器をジッと見ているとリディアさんが「美味しいでしょ? 私の故郷では辛い料理が好まれているんだよ」と笑顔で話しかけてきました。

 そうですか……。

 リディアさんでしたかぁ……。

 私がニッコリと微笑むとリディアさんの顔が青褪めます。


「わ、私、何かした?」

「いえいえ。何もしていませんよぉ……」


 私はリディアさんの顔をジッと見てから他の料理の所へと向かいました。

 

 料理が全てテーブルの上に置かれて、全員が席に着きましたので食事が始まりました。


「レティ。いっぱい食べてね」

「はい」


 私はエレンが入れてくれた料理を食べます。

 とても美味しいです。

 当然、凶器はお皿に入れないよう頼みます。


「レティは辛いのがダメだからねぇ」


 エレンがそう言った瞬間、リディアさんの顔が汗だくになりました。

 どうしたのでしょうかねぇ……。


 しかし、冒険者になるとこんなに美味しい料理が食べられるのですね。

 私は焼くか茹でるしかできなかったので、こんなモノを食べられるなんて思っていなかったです。

 エレンやマリテさんが作ってくれた料理も美味しいのは当然ですが、脳筋戦士さんが作った料理が絶品でした。

 リディアさんは凶器を作っただけでしょう?


 私達は楽しく食事を楽しんだ後、勇者の事を話し合いました。

 

「アレスが勇者の力を得ていたとは驚きだったな。確かにお前は正義感が強かったから勇者に相応しいかもな」

「でも、俺にはもう勇者の加護はない。あのタロウという勇者はマリテに酷い事をした。絶対に許せないからあいつを倒そうと思っていたのだが、レティシアちゃんから勇者タロウの加護を聞いて勝てないと思ってしまった」

「それは仕方ないさ。お前も勇者の力を持っていたんだから加護の強力さを知っているんだろう?」

「あぁ」


 加護の強力さですか。

 しかし、ここで疑問があります。

 何故アレスさんの勇者の力は消えてしまったのでしょうか?

 別に勇者の力を持つ者が二人いたとしても問題ないと思うのですが……。

 私は一つの可能性を思いつきます。

 それは、タロウがこの世界に来るときに自分だけが特別になるように頼んだというモノです。

 誰に頼むんだよ!? となりますが、神の加護を持っているのです。

 神に会っている可能性は捨てきれません。

 それに【不老不死】と【誘惑】以外は再現しましたが、それほど強力ではありませんでしたし……。


「レティシア。お前が何を考えているかは分かるが、お前がおかしいんだからな」


 目の前で【光魔法】と【身体超強化】を再現したのを見ていたギルガさんが私をジト目で見てきます。

 その言葉にカンダタさんが反応しました。


「ギルガ。今のはどういう意味だ?」

「あぁ。カンダタさんにはまだ言ってなかったな。レティシアこいつは【光魔法】【身体超強化】の二つを再現しちまったんだよ」

「再現したって……う、嘘だろ?」

「光魔法といっても、俺は実物を見ていないから実際のがどういうのかは分からないが、レティシアが使った光魔法は絶対避けれそうになかった」


 カンダタさんが窓を開け、鉄の板を置き、「この板に向かって使ってみてくれ」と頼んできます。

 そんなに薄い鉄の板では貫通してしまいますよ。まぁ、裏は岩山なので問題ないですかね。

 私は人差し指を鉄の板に向け、光をイメージします。


「えい」


 私の指先から光が走り鉄の板に指くらいの大きさの穴を開けます。

 ちなみに威力や範囲をさらに大きくできそうです。


「どうですか?」

「い、いや。俺が使っていた光魔法よりもはるかに高い威力だ……」


 今のでも威力を最小限に抑えているんですよ?

 これで高威力って……。


「お、お前、今のはどうやったんだ!?」

「はい? 光をイメージして放っただけですよ。魔法というのはイメージで作るモノなので、属性だのなんだの考えればいいだけでしょう?」


 そもそも、魔法というのは全てイメージです。

 イメージがちゃんとしていれば魔法は簡単に使えます。上手くイメージさえすれば作り出す事も可能です。そう言ったのですが、カンダタさんもギルガさんも納得してくれません。

 その理由は、人には魔法の相性というモノがあって、相性により使える属性と使えない属性があったりするそうです。

 そのくらいは私でも知っていますよ。

 その証拠に私は治療魔法は使えません。


「れ、レティシアが規格外なのは今に始まった事ではないな……。それで、レティシアに聞きたい事があるのだが、お前は勇者を殺そうとしているな?」

「思ってませんよ」


 私が勇者を狙っているとカンダタさんには話していないはずです。

 だから、ここは嘘を吐いておきます。


「でも、俺に「勇者なら殺す」みたいな事を言ってたじゃないか」

「アレスさん。余計な事を言わないでいただけますか? 殺しますよ」

「うっ!? す、すまん」

「やっぱり殺そうとしていたな。俺個人の意見だが殺すのは構わん」

「ちょっ!? カンダタさん、何言ってんだ!! こいつにそんな事を言ったら本当に殺しちまうぞ!!」


 殺すという言葉に脳筋戦士さんとサジェスさんも驚いています。

 そこで脳筋戦士さんが口を開きました。


「殺す殺すと言っているが、人間が人間を殺すのは魔物とは違う「何が違うんですか?」」


 私は脳筋戦士さんの言葉が理解できずに途中で口を挟んでしまいます。


「人間……いえ、人を殺すのと魔物・家畜を殺すのとはどう違いがあるんですか? どちらも同じ命でしょう? どちらも同じ命を奪う行為ですよ? どう違うのですか? じゃあ、人間に殺されかけても無抵抗に死ぬんですか?」

「……」


 私の問いに場が静まり返ってしまいます。誰も何も答えられません。

 昔、偉そうに「殺しは良くない」と言ってきた神官にも同じ質問をしましたが、結局答えられませんでした。

 漠然と「人間は殺しちゃダメだー」と言っているだけなのです。


「コホン。話が中断したな。それで勇者の事なんだがな……」


 話を無理矢理中断されましたね。

 まぁ、いいでしょう。


「レティシア、お前でも勇者タロウを殺すのは難しいかもしれないぞ」

「はい?」


 それほどまでに勇者タロウというのは強力な力を持っているのですか?

 それはそれで楽しみなのですが、一応理由を聞いておきましょう。


「実は俺の直属の部下に勇者タロウの事を調べさせていたんだが……アイツのパーティが全員Aランクの冒険者と変わりない力を持っている」


 この言葉に私以外の人達が言葉を失います。

 Aランクといえば、ギルガさんやカンダタさんと一緒という事ですね。


「カンダタさん。タロウのパーティはそこまで優秀なのか?」

「あぁ、【武闘家アルジー】【剣姫ソレーヌ】【大魔導ジゼル】の三人だ。聞いた事のある名ばかりだろう?」


 私はその三人の名は知りませんが、勇者一行の三人やドゥラークさん。それにギルガさんまで驚いています。それ程有名な人達なんですね。


「そうですか。危険なんですねー」


 私はそう言ってお茶を飲みます。

 あ、お茶が無くなりました。


「リディアさん。お茶のおかわりを下さい」

「は、はいぃいいい!!」


 声をかけただけで怯えるの止めてくれませんかねぇ。

 リディアさんは慌ててお茶を持ってきてくれます。


「ありがとうございますぅ」


 私は笑顔でお礼を言っただけなのですが、リディアさんは泣きそうな顔でキッチンへと戻っていきました。

 おかしいですねぇ……。

 少し虐めすぎましたか……。


 話を戻して、今の三人の名前を聞いた人達は、「勇者タロウの蛮行をもう止められない」と悲壮感漂う顔になっています。

 戦う前からそんなのではいけませんよ。


「レティシア。他にも悪い報告があるんだ」

「そうなんですか?」


 カンダタさんは私のそっけない態度に少し呆れていましたが、話を続けます。

 どうやらタロウにはもう一つ神の加護があった事が判明したそうです。


「どんな能力なのですか?」

「あぁ、敵の攻撃を確実に回避する【絶対回避】という加護だそうだ。だから、アイツに攻撃は当たらないと言っていた。勇者タロウは神の加護を使い各地で好き勝手しているそうだ」


 ふむ。

 神の加護は増えているんですね。

 と、言う事はこれからも増えるかもしれないという事ですか。


 そう言えば、勇者タロウを倒した人がいると言っていましたね。

 確か……れ……レ……レッグ。あぁ、そんな名前の人です。


「そうですか。カンダタさん。私は一度この国の王都に行ってみようと思うのですが」

「王都に?」

「レッグさんという人に会ってみたいと思いまして」

「何故だ?」

「勇者タロウを倒した事があるんでしょう? その時には【絶対回避】はなかった可能性があります」

「お、おいおい……それって……」

「つまり、神とやらが勇者タロウの望みのままに加護を与えている可能性がありますね」


 私の言葉に、ここにいる全員が顔を青褪めさせました。

 逆に私の心は踊るようにとても楽しい気持ちになりました。


 あぁ……殺しがいのある玩具が現れたモノです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る