23話 元勇者との戦闘


 アレスさんは私を睨みつけてきます。

 どうやら敵意を持っている様です。


「マリテ、下がっておいてくれ」

「アレス様……」

「大丈夫だ。負けはしない」

「そうでは無くて……」

「こいつは魔族の可能性が高い」


 私が魔族ですか?

 私は人間だと思うのですが……。

 どちらにしても。


「戦うのですか? 力を失っている貴方には興味が無いのですけど」

「黙れ。この町は何故滅びた? お前が滅ぼしたのか!?」


 はて、どうしてそういう考えになったのかは理解できませんが、話を聞いて貰えなさそうです。

 はぁ……。

 仕方ありません。私もナイフを取り出します。

 まぁ、素手でも勝てますが、元勇者という存在に敬意を表しましょう。


「マリテさんは傷心の様ですし、残りの三人と遊んであげましょう。安心してくださいね。殺しませんから」


 この人達からはもう少し話を聞きたいですし、何より殺すには勿体ないと珍しく・・・思ってしまいました。

 とはいえ、それなりに本気で戦ってもらいませんと面白くありませんから挑発してみたのですが、戦士さんは頭が筋肉でできているらしく、すぐに挑発に乗ってきました。計画通りです。

 しかし、魔導士であるサジェスさんは「私はそのお嬢さんと戦う意味を見いだせない」とマリテさんの近くに座ります。

 二人になってしまったのは残念ですが、まぁいいでしょう。


「私が少しでも楽しめたら、この町が滅びた原因と理由を教えてあげますよ」

「ほざけ!!」


 私の言葉でアレスさんと脳筋戦士さんが襲いかかってきます。

 アレスさんの気迫。これは……本気を出したドゥラークさんくらいでしょうか?

 速さもありますから、そこそこの強さなのでしょう。

 しかし、脳筋戦士さんは速さが足りません。

 この世界で戦う為には力よりも速さが重要になってきます。

 魔力を使わない闘技場などの戦闘であれば、筋力が強い方が有利になると思いますが、魔力を使う戦闘では身体能力強化がありますから、筋力はさほど必要ありません。

 その証拠に、私の腕はよくか細いと言われます。

 しかし、筋力だけで戦うにしても、速さは重要だと思います。

 どれだけ筋力があっても、当たらなければどうという事は無いですから。


 という事で脳筋戦士さんは失格です。

 私は脳筋戦士さんの胸の鎧を砕きます。

 脳筋戦士さんはその場で膝をつき前に倒れました。

 これで一人、リタイヤです。


「ロブスト!?」


 アレスさんは脳筋戦士さんが一撃で倒された事に驚愕しています。

 しかし、すぐに私に意識を集中して斬りかかってきました。

 剣速もそこそこ速いのですが、アレスさんは魔法を織り交ぜて私に攻撃してきます。


 ふむ。

 これはドゥラークさんよりも強いかもしれませんねぇ。


 剣を避ければ、魔法で追撃をしてきたり、剣に魔法を纏わせて斬りかかったりと、流れるように戦っています。

 これは……リディアさんの戦い方の上位の戦い方ですね。

 素晴らしいです。

 それから、少しアレスさんの戦い方を見て楽しみます。


 さて、十分楽しみましたから、終わらせましょうか。

 私はアレスさんの懐に入り込み、顎を殴り上げます。

 アレスさんは、二、三歩後ろに下がりそのまま倒れました。

 あ、結局ナイフを使いませんでしたね。



 一時間後、アレスさんはマリテさんの太ももの上で目を覚まします。

 先程目を覚ました脳筋戦士さんはそのまま地面に転がされていたのですが……恋人同士は違いますねぇ。

 私も帰ったらエレンに膝枕をしてもらいましょう。エレンの膝枕は気持ちよく眠れそうです。

 あ、脳筋戦士さんを一撃で倒したモノですから、何故か怯えられています。


「起きましたか? 貴方の戦い方はとても楽しめましたから、この町が滅びた理由を教えてあげますよ」


 私はこの町が襲われるようになった原因を話します。

 アレスさんは、もともとこの町にいたそうなので魔物の被害についても知っていました。それどころか、私が原因で魔物がいなくなった事も納得してくれました。


「テリトリオの町が滅びた理由は良く分かった。俺も町の連中にはずいぶんな目に遭わされたからなぁ。酷い言い方だが自業自得だろう。しかし、俺が聞きたいのはお前が成長していない理由だ。今のお前は五年前に見た姿そのものだ。お前くらいの年齢ならば……いや、年齢を聞いていないな」

「私は十六歳ですよ」

「十六歳か。なら、尚更だ。その歳ならもっと成長していてもおかしくないはずだ。それなのに、お前は何故成長していない? 今のお前はあの頃のままの十歳くらいにしか見えない。成長をしていない事を考えると……魔族かエルフかしか考えられないんだ。しかし、エルフにしては耳が長くないから魔族としか思えない」

「正真正銘人間ですよ。たかが十歳と十六歳では六歳しか違いませんから、そこまで気にする必要も無いと思います。そもそも、私も自分が成長しない理由が分からないんですから」


 そこまで言うと、マリテさんがアレスさんを止めます。

 マリテさんは私が成長しないのを気にしているとでも思ったのでしょう。いや、気にしていませんよ。

 私もエレンみたいに胸とか身長とかあればなぁ……なんて思っていませんよ。えぇ、思っていません。


「どちらにしても勇者と聖女の事をもっと聞きたいです。私が拠点にしている町へと行きませんか? このままこの町にいても何もないですし」

「そうだな。案内してくれるか?」

「はい。あ、アレスさんは五年前までこの町にいたんですよね」

「あぁ。さっき言った通りここを拠点に冒険者をしていた」

「それならギルガさんを知っていますか?」

「あぁ、テリトリオの町の冒険者ギルドのギルマスだろう?」

「はい。ギルガさんが今の私達の保護者なんですよ」


 ギルガさん達もこの町から出た事にアレスさんは驚いていました。

 どうやらギルガさんにはお世話になっていたらしいのでぜひ会いたいとの事でした。

 


 あの町で調査を終えた私とアレスさん達元勇者一行さん達は、拠点のある町の冒険者ギルドへと帰ってきます。

 ここに来る前に拠点に戻ってみたのですが、どうやらエレンと他三人は魔物退治の依頼を受けたらしく、居ませんでした。


 ギルドに入ると、エレンとゆかいな仲間達が依頼達成の報告に来ていました。


「レティ!」

「エレン。今、帰りました」

「うん。おかえり」

「ゆかいな仲間達もお疲れ様です」

「誰が愉快な仲間達だ!」


 ドゥラークさんは大声で笑い、私の頭を撫でてきます。

 大きな手ですねぇ。


「レティシア、テリトリオの町では何かわかったか?」

「テリトリオ? あぁ、あの町ですか。あの町の名前に興味が無いのですぐに忘れてしまいます」

「もう、レティはこの町の名前も覚えていないでしょう?」

「そんな事ないですよ。セ……なんでしたっけ?」

「セルカの町」

「あぁ、それです」

「それで、何かわかったのか?」

「いくつか気になる事がありました。それは後で話すとして、カンダタさんが偵察に向かわせた冒険者さん達が守っていた町の人間が数人生き残っていましたが、逃がしておきましたよ」

「なんだと?」


 ギルガさんは私を疑うように見ます。

 何故疑われるのでしょう。


「お前があの町の住民を殺さず逃がした?」

「はい。教会の情報を聞かせてくれたので見逃してあげました」


 ただ、生きて別の町に辿り着けたかどうかは知りません。興味もありませんし。ここに来る道中で魔物が何か血の臭い・・・・・・のするモノに群がっていましたけど関係ないでしょう。


「で、その四人は? いや、一人は見た事があるな」


 ギルガさんは私の後ろにいた元勇者一行に視線を移します。

 するとアレスさんが前に出て頭を下げました。


「お久しぶりです。ギルマス。いえ、今は冒険者でしたね。ギルガさん」

「やはり、アレスか。お前も元気だったんだな」


 私には喧嘩腰だったのにギルガさんには頭を下げるのですね。

 ふむ。

 私はリディアさんを睨んでおきます。


「なんで!?」


 怯えるリディアさんが少し可愛く見えます。

 おっと、浮気はいけませんね。私はエレン一筋です。


 とりあえず、打ち上げのつもりで食材を大量に買い拠点に戻ります。

 勇者と聖女の話をするのですから、そこらの酒場で話をするわけにはいきません。

 カンダタさんも話に参加するそうで拠点へとやってきました。

 料理はエレンとリディアさん、それにマリテさんの女性陣が作ってくれるそうです。

 それに意外でしたが脳筋戦士さんも料理を作る事になりました。

 アレスさんやサジェスさんの話では、脳筋戦士さんは元料理人だそうです。

 それは楽しみですね。


 ……私ですか?

 性別は女ですが料理は作りませんよ。焼くか茹でるしかできませんからね。

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