22話 勇者との出会い
この名も覚えてない町の最後の生き残りを死出の旅に送り出した後、私は町にあった教会へと足を運びます。
教会も魔物に襲われたらしくボロボロの廃墟になっていました。
「ここに入るのも初めてですね」
本来、教会はどんな人でも入る事ができる場所だと聞きます。だけど、私はいつも門前払いされていたんですよね。それどころか、ここの神官長は私を忌み嫌っていました。
お母さんが【呪い子】と呼ばれていたのを知った神官長が、私を排除しようとしていたんです。
まぁ、あんな口だけの人にどうこうされる事はありませんが、暴言ばかり吐かれて不愉快ではありました。
「すっかり寂れてますね。ここは凄く豪華絢爛だったとエレンから聞いていたのですが、今は只の廃墟になっていますね。豪華絢爛だった頃を一度見てみたかったです」
私は教会の奥に設置されていた像を見て哀れに思いました。
きっと以前は立派な像だったのでしょう。しかし、今は魔物に襲われた影響で至る所が壊れています。ここの神官長は崇拝する神の像を放置して逃げたんですね。
私は教会の中をじっくりと観察します。
魔物の襲撃によって破壊されたと思っていましたが、よくよく考えたら今の教会の中を見ると
「しかし、何故魔物の襲撃を察知できたのですかね。神官長達が逃げ出したのは三日後だと聞いていますが、ここまで教会の中を空っぽにできるほど持ち運ぶ時間があったのでしょうか? もしかしたら、事前に察知して物を運んでいたのかもしれませんね」
あくまで予想ですが、神官達の中に不思議な力を持つ者がいたかもしれません。私はそう考えました。
その時、この町に入ってくる人の気配を感じました。
この力は……少なくともさっきの冒険者よりは強い気配です。
どちらにしてもこの町は危険だと忠告だけしておいてあげましょうか。
もしかしたら、神官長の行方を知っている関係者かもしれませんし。
私は気配を感じた大門前へと向かいます。
町の大門の前では、四人の冒険者が話し合っていました。
立派な鎧を着た男性戦士とローブを着た男性。
それに綺麗な衣装を着た女性とさわやかそうな青年。
私は彼等に声をかけます。
「ここにはもう生き残りも魔物もいませんよ」
「き、君は!?」
彼等は私の姿を見て驚いています。特に青年は目を見開き、驚愕しています。
別に私は魔物でもなんでもないですよ。
驚くのを押さえた青年が私に声をかけてきます。
「き、君みたいな幼い少女がどうしてこの町に?」
「私はこの町の神官長について調べに来ただけです。貴方がたは何者ですか?」
「私は
「勇者?」
アレ?
勇者の名前は……なんでしたっけ?
どちらにしても、勇者であるなら一度殺してみましょう。
私は懐からナイフを取り出し勇者に突き付けます。
「な!?」
「勇者であるなら、ここで一度死んでもらいます」
「一度!? 人は一度死ねばそれで終わりだぞ!!」
「普通に考えればそうなのですが、勇者は不老不死なのでしょう?」
「そんな話、誰から聞いたんだ!?」
はて、この自称勇者さんとは話が通じません。
しかしあれですね。
あの映像で見た勇者とは顔が違う気がします。
うーん。
「貴方は偽物の勇者なのですか?」
「偽物だと!? アレスは、アレスこそが
戦士の男性が叫びます。
偽物と言われたのがよほど気に入らなかったのでしょう。
しかし、勇者というのは神に選ばれた者なのでしょう?
彼等はどうなのでしょうか……。
「このアレスさんが本物の勇者だというのであれば神の加護を持っているのですか?」
「そ、それは……」
アレスさんが俯きます。
おそらくは加護を持っていないのでしょう。
「それには理由があるのです」
「理由?」
綺麗な衣装を着た女性が勇者アレスに起こった出来事を話してくれます。
女性の名前はマリテ。彼女は
エレンと同じ聖女ですか。
しかし、彼女からはエレンのような神聖さと神々しさを感じません。
いえ、たとえ聖女であってもエレンと比べるのは酷です。
エレンのすばらしさは……おっと、いけません。話を聞いてあげないと。
「話してください。何故勇者でないアレスさんと一緒にいるあなたが聖女なのかを」
「え? もしかして、聖女の事を知っているのですか?」
「聖女の事を知っている? 私が知っているのは聖女というのは勇者と出会って初めて聖女になれるという事くらいです」
「そうです。聖女になる方法はそれしかありません。そして私はアレス様と出会ったから聖女になったんです」
という事はアレスさんは勇者という事ですか?
「彼はちゃんと神アブゾル様の加護【光魔法】【身体超強化】の二つを持っていたのです。しかし、今から数か月前、突如力を失ったのです」
「数か月前? 何があったのですか?」
「勇者タロウが召喚された日です」
勇者タロウ。そうです、その名前です。
「その勇者タロウの方が勇者に相応しかったのですか?」
「そんなはずはありません!」
聖女マリテさんが声を荒げて、顔が真っ青になります。
何かあったのでしょうか?
アレスさんがマリテさんを優しく抱き寄せます。
ふむ。
マリテさんは肩を震わせています。
これでは話になりませんね。
私はローブを着た男性に話を聞きます。
戦士さんはうるさいですし、この人が一番話が通じそうです。
このローブの男性の名前はサジェスさん。魔導士だそうです。
話を聞くと、マリテさんは急に教会から呼び出され、勇者タロウを紹介されたそうです。
勇者タロウはマリテさんを欲しがりました。
しかし、マリテさんはアレスさんと恋仲になっていたので、これを拒否しました。
しかし、教会側は聖女としてタロウに従うように言ってきたそうです。
マリテさんは一度アレスさん達と相談しようと教会を出ようとしたら、タロウに無理矢理抱きつかれて寝室に連れていかれたそうです。
教会もそれに加担していたそうで逃げ道が無かったマリテさんは必死に抵抗したそうですが、タロウに無理やり乱暴されたそうです。
アレスさん達も駆けつけたのですが、その時にはマリテさんは襲われた後で聖女の力を失っていたそうです。
しかし、ここで気になった事があります。
聖女の力とは何でしょうか?
エレンが聖女と言われた理由は治療魔法です。
「マリテさんの聖女の力とは何でしょうか?」
「何、とは?」
「いえ、聖女は勇者と出会って初めて聖女になるのでしょう? 勇者には神の加護がありますが、聖女の力とは? 治療魔法の事ですか?」
「いや、神聖魔法と神の声を聞く能力の事だ」
「それは聖女になってから発現したのですか?」
「いや、神聖魔法はマリテが聖女になる前から使えていた」
「そうですか。お辛い過去を思い出させて申し訳ありません」
力を失った勇者と聖女ですか。
もっと話を聞きたいのですが、マリテさんの様子を見るとこれ以上は酷でしょう。
私も一応は女ですから、マリテさんの様子から……そう言えば。
「最後に一つよろしいですか?」
「あぁ」
「マリテさんはタロウの誘惑が効かなかったのですか?」
「誘惑? 何だそれは」
私はタロウの加護について説明します。
彼等は【光魔法】【身体超強化】の二つは知っていましたが、【誘惑】【不老不死】の二つは知らなかったそうです。
つまり、この二つは神の加護ではないのですかね?
それとも新たに得た加護ですか?
マリテさんは拒否して逃げようとしたみたいですから、誘惑は効かなかったのかもしれませんね。
「その前に私も聞きたい」
勇者アレスさんが私の方を見て真剣な目をしています。
少し、険しい顔ですね。
「なんですか?」
「この町が滅びた理由を教えてくれ。それと……何故
「はい?」
「私はかつてこの町で冒険者をしていた……お前は魔族なのか?」
あぁ、だから最初に私を見て驚いたのですか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます