21話 魔物に襲われる町
私はエレンの生まれ故郷であり、つい最近まで住んでいた町へとやって来ています。
レウスさんの話では、すでに町は滅びているとの事でしたが、町の中に今も魔物がいる事を考えると、もしかしたら住民の生き残りがいるかもしれませんね。
町に
正直な話、この町が滅びていようが知った事ではありませんが、人が生きているのならば話を聞く事ができます。
私は、町全体の気配を探ります。
私は今、町を見下ろせる高台にいるのですが、ここからでは魔物と人間の区別がつきにくいです。しかし、元いた町の人間の数から察するに、すでに九割がたの人間は死んでいるみたいです。
まぁ、自業自得ですから何とも言えませんが……。
「ここからでは、魔物の気配と見分けがつかないので、場所が特定できません。町の中心で探ってみましょう」
私は外壁にある大門から、町に入る事にします。
私が通る事ができなかった町の大門には、いつも私を追い返していた門番はもういません。
血の跡が残っている事から、ここで喰い殺されたのでしょう。
大門も大型の魔物に破壊されたのか、町の内側に倒れています。この下にも人がいたのでしょうね。血の跡が残っています。
まぁ、なんとも思いませんけどね。
町を歩くと、そこら中に喰い散らかされた人間の死体が転がっています。
見る人が見れば酷い惨状なのでしょうね。エレンを連れてこなくて良かったです。
エレンは優しいので、彼等の為に涙を流すでしょうが、エレンの涙はこんなクズ共の為に流して良いモノではありません。
暫く歩くと町の中心に辿り着きます。
勿論、ここに来るまで魔物は何度も襲いかかってきました。
中には大型のフォレストウルフもいました。
まぁ、一撃で殺しましたけど。
私は町の中心の広場を回ります。
ここからは、エレンのお家があった場所が良く見えます。今は全て焼けてしまって瓦礫しか残っていませんが……。
ここが全ての始まりの場所です。
「ここなら町全体の気配を探る事ができるでしょう。その前に魔物に邪魔をされては困りますね」
私は町中にいる魔物に対して殺気を放ちます。
勘の良い大型の魔物はこれで一時的に森に逃げるでしょう。
さて……。
ふむふむ。冒険者ギルド内に反応がありますね。
どうやら、数人は生き残っている様です。
私は、ギルガさんがいなくなった冒険者ギルドへと向かいます。
ギルガさんも、見る人が見れば、逃げたと言われてもおかしくないのですが、まぁ、領主を良く分からない理由で殺す住民を見て、愛想が尽きたのでしょうね。
そもそも、数年前まではこの町は冒険者に支えられていたとエレンに聞きました。
しかし、私が町に魔物を近付けないようにしてからは、住民達は冒険者を邪険に扱いだしたと聞きます。
それでもギルガさんは一人になってまで町を支え続けました。
町を支えていたのは領主様も同じだったと聞きます。
領主様は冒険者に残ってもらおうと定期的に依頼を出していたそうですが、それすら邪魔をしたのは住民だそうです。
そんな彼等が魔物の襲撃が始まって、最後に隠れる場所がギルドとは皮肉なものです。
私はギルドへと入ります。
ギルドには魔物はいないようです。
いえ、魔物の死体が転がっているという事は、誰かが魔物を倒したという事でしょうか?
私はいつも出入りしていた奥の部屋に進みます。
確か訓練場として使っているらしく、ここの部屋の壁は他の家の壁よりも硬いと聞きました。
その部屋に入ると、冒険者らしい人が私に襲いかかってきます。
私は冒険者が振るってきた剣を掴みます。
冒険者は三人。
二人は住民らしき人達を守っています。
「な!? ま、魔族か!?」
「違いますよ。貴方と同業です。いきなり人を襲うのは感心しませんね。殺しますよ」
「え……あ、あんたは、ドゥラークをボコボコにしていた……」
ドゥラークさんの事を知っている?
あぁ、カンダタさんが調査に向かわせたと言っていましたね。
「貴方がたはカンダタさんに依頼されてこの町に来た冒険者ですか?」
「そ、そうだ。この町の惨状に驚き、生存者がいたから町に入ったのだが外は凶暴な魔物が多くいる。で、ここに逃げ込んだという訳だ」
「そうですか。住民と話がしたいのですが」
「それは構わないが……君はこの町を救いに? もしかして救助隊か討伐隊が組まれたのか?」
「いえ、ここに来たのは私用です。だから私一人ですよ」
「そ、そうか……」
冒険者は少しがっかりしています。
まぁ、ここにいる住民を助けてもいいのですが、エレンがいる町に近付いて欲しくないですね。
あ、冒険者の方々は別ですよ。
私は町の住民と顔を合わせます。
すると住民の一人が「お、お前は忌み子!! どうしてお前が!! ま、まさか、この町を魔物に襲わせたのはお前か!?」
と私に向かい怒鳴り散らしてきます。
ここにいるのは薄汚い男ばかりです。女子供がいないところを見ると、力のない女子供を餌にして逃げてきたのでしょう。
どこまでも腐った連中です。
私は冒険者さん達に忠告をしておきます。
「ここに残っているのは、町の権力者だった連中です。恐らく他の人を犠牲にして生き残ったのでしょう。こんなのを守っても仕方ありませんよ」
「あぁ、俺も思うところはあるが、一応人間だからな。というよりも、ここに入ったら出られなくなっただけだよ」
「そうですか。まぁいいでしょう」
私は男の顎を蹴ります。
「お、おい!?」
「いいのですよ。この町の人間は助ける価値もない人間ですから。貴方達はカンダタさんのいる町に戻っていいですよ」
「どういう事だ?」
「カンダタさんでも知りませんでしたか? この町は数年前まで魔物狩りを生業に冒険者で栄えた町だったのですよ。でも、私がエレンの為に魔物避けの殺気を放つと町の住民は魔物退治が必要なくなったと冒険者を追い出したんです」
「なんだと!? こいつら、都合のいい時だけ冒険者を利用していたという事か!?」
「まぁ、私もこの町に来る前の事は分かりませんが、私が聞いた話ではそう聞いたというだけです。それが真実かどうか知りません」
「そうか……俺達は町を出るよ。カンダタさんに報告しなければいけないからな。まぁ、生き残って帰れたらだけどな」
「その点なら大丈夫ですよ。この町には一時的に大型の魔物が近付けない様に殺気を放ってあります。力のある魔物であれば勘が良いので逃げ出しているでしょう。今なら弱い魔物しかいません」
「そうなのか!?」
「はい。でも、一応警戒しながら帰ってくださいね」
「あぁ、ありがとう」
そう言って冒険者達は外へと出ていきました。
さて、ここに残っているのは数人の汚い男だけです。
「わ、私達も逃がしてくれ!?」
「何故です? この状況になったのは貴方達の自業自得でしょう? まぁ、良いです。今は魔物がいないので勝手に逃げると良いですよ。その前に一つだけ聞きたい事があります」
「な、なんだ……」
「この町の教会の事です」
彼等の話では、教会にいた人達は、領主を殺した三日後に逃げ出したそうです。
おそらくは、魔物が襲ってくるのを察知したんでしょう。
どこに逃げたかを聞きましたが、分からないとの事でした。
この人達はこれ以上の情報を知りませんでしたから……これ以上生かしておいても仕方ないでしょう。
しかし、約束は約束です。
私は彼等を大門まで逃がしました。
ただし、ここからは自分達だけで逃げなくてはいけません。
「町へと行く道中……魔物に襲われないと良いですねぇ……」
私は町から一目散に逃げる男達を見て呟きます。
彼等には魔物寄せの魔法をかけておきました。
私がエレンの秘密を知っている可能性のある貴方達を生かしておくわけがないでしょう……。
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