20話 自白魔法


 当面の私の目標は勇者を殺す事です。

 

 別に会った事のない勇者に恨みなどはないのですから、探してまで殺すつもりはありません。

 もし、どこかで出会ってしまう事になれば、聖女であるエレンをめぐって殺し合いが始まるでしょう。

 私は絶対にエレンを渡すつもりはありません。


 もし、勇者が聖女に興味を持たない場合は、見逃してあげます。

 まぁ、一度は殺しますけど。

 聖女を欲した場合は、たとえ不老不死でも、心を壊すくらいはできるでしょう。


「で、なぜ勇者タロウの事を聞かせたのですか?」


 わざわざ、私達を呼びだしてまで勇者の事を聞かせるくらいですから、何か目的があったのでしょう。下らない用事だったのなら一、二発殴っても許されますよね。


「そうですな……テリトリオの町が魔物に襲われた事はご存知ですかな?」

「もう滅びたのですか? 意外と早かったですね」


 私達があの町を出てからまだ一月も経っていません。

 それにもかかわらず滅びたのですかね?

 もう少し粘ると思っていたのですが、意外と根性なしでしたね。


「故郷だったから複雑だけど……両親や使用人の皆を殺したのだから、あの町の人達は許せないよ」

「どういう事ですか?」


 私達はあの町を出た経緯を話します。

 レウスさんは私達の言葉に驚愕していました。

 カンダタさんから、私達がこの町に来た経緯を何も聞いていないのですね。


「ギルガさん。カンダタさんは、あの……という町が魔物に襲われているのは知っているのですか?」

「あ、テリトリオな。あぁ、話したぞ。オレもあの町でギルマスをやっていたからな。町の人間が薄情なのは知っているが後味が悪いと思ってな。カンダタさんなら、冒険者の一人や二人を派遣しているだろう。そうだ、レティシアに言ってなかった事がある」

「なんですか?」

「武器屋のアルマ夫婦の話だ。彼等もこの町にいるぞ」

「そうなんですか。ちゃんと手紙を読んでくれたみたいですね。あの人達の事は気にはなっていたんです。生きていて良かったです」

「あぁ、この町で武器屋を再開したそうだ。また顔を出したらどうだ?」

「はい。そうします」


 武器屋のおじさん達は無事だったんですね。

 良かったです。


「で、話が中断してしまいましたけど、その町が魔物に襲われたからといって、何の問題があるんですか?」

「い、いや。その町の神官長が勇者を招くために聖女を用意したという噂があってだな」

「せ、聖女だと!?」


 ギルガさんが聖女という言葉に過剰反応しています。

 人間というのは、隠そうとしている事があると、過剰に反応してしまう事が多々ありますが、これは危険ですよ。


「ギルガさん。聖女という言葉に反応し過ぎです。今の貴方を見たら、貴方が聖女の事を知っていると思われてしまいますよ」

「す、すまん……」

「でも、テリトリオの町で聖女と呼ばれた事は無いんだけどなぁ……」


 確かに、エレンがあの町にいる時は聖女ではなく領主の娘でした。


「呼ばれてはいないどころか、今の段階ではエレンさんは聖女ではありません」

「そう言えばそう聞きましたね」


 勇者と会った時点で聖女になるという話ですが、何故あの町の神官長がそれを知っていたんですかね?

 それにしても、この人の話は長いです。

 要点をさっさと言って欲しいものです。


「で、何が言いたいんですか?」

「勇者は聖女を探しているという事です。もし、テリトリオの生き残り・・・・がいた場合、どこから聖女とバレるかが分からないのです。例えば……「部位欠損を治す魔法を使った」という話を聞けば、熟練の治療師や神官が聞けば、その魔法を使う者こそ聖女だと気付くでしょう」

「成る程……貴方の言いたい事が分かりましたよ」

「分かってくれましたか……」

「そのテ……何とかという町の生き残りを、一人残らず皆殺しにしろという事ですね」

「どうしてそうなるのですか!?」


 何を怒っているのでしょうか?

 私は間違っていないでしょう?


 それから、細かい話を聞いたのですが、結局は、勇者が聖女を探しているという事だけでした。

 そんな一言で終わる事を何時間もかけて説明されると殺意が湧きますが、忠告してくれた事とカンダタさんの知り合いという事で目を瞑ってあげます。


 私達が教会から出ると殺気を感じました。


 しかも……狙いは……。


 私はエレンをギルガさんに押しつけます。

 そして、襲ってきた男の顔面を殴ります。


「レティシア!」

「こちらは大丈夫です。こいつの目的はエレンのようなので話を詳しく聞きます。ギルガさんはエレンと家に帰っていてください」

「お前はどうするんだ?」


 どうする?

 決まっているでしょう?


 私はギルガさんに微笑みかけます。

 私の笑顔を見たギルガさんは、私の考えを察してくれてエレンを連れて帰ろうとしてくれました。


「レティ、無茶はしないでね」

「大丈夫ですよ。すぐに帰りますから」

「うん。待ってるね」

「はい」


 私は二人が去ったのを確認してから、顔を押さえて蹲(うずくま)る男の髪の毛を掴み上げます。


「さて、ここでは人目も多いですし、場所を変えましょう」



「ぐわぁ!」

「ちゃっちゃと吐いた方が苦しみから解放されますよ。誰の差し金です?」

「な、何の事だ……」


 ふふ。

 強気なのも、いつまで続きますかね。


 私は殺さないように気を付けながら、最小限の力で男を殴り続けます。

 人間というのは結構脆い存在なので本気で痛めつけるとすぐに死にます。

 だからまずは逃げないように両足の骨を砕いておきます。

 そして指の骨を一本ずつ折りながら話を聞きます。


「あ、が、が……。た、助け……てくれ」

「それは出来ませんよ。貴方は最後は死ぬんですから」

「あ……う……お」


 男は痛みと恐怖で涙を流しすぎて、何を言っているかが分かりません。

 仕方ありませんね。


 相手が秘密にしている事を素直に話す……とイメージして。


 男の頭に手を置き、魔力を注ぎます。

 自白魔法とでも名付けましょうかね。昔、エレンが持ってきてくれた本に書いてあった魔法です。


 男は魔法の効果でいろいろ話してくれました。


「成る程……。テ、何とかとか言う町の神官長の差し金でしたか」

「あ、ば……」

「そうですか。じゃあ、貴方はもう用無しです」


 私は男の首を一気にへし折った後、焼き尽くします。

 まぁ、エレンを襲っておいて、生きていられると思う方がおかしいのです。

 しかし、あの神官長、生きていましたか。

 それは残念であり……良かったです。


 私自ら、殺しに行ってあげましょう。


 家に戻った私は、襲ってきた男から聞いた話をギルガさんに報告します。


「で、お前はどうするつもりだ?」

「一度、テ……何とかという町に行ってみるつもりです」

「そろそろテリトリオと覚えろよ。行ってどうするんだ? おそらく神官長はもういないだろうよ」

「そうでしょうね。手がかりでもあればいいんですがね」

「エレンもつれていくのか?」

「いえ、私一人で動きます。だから……」


 もしかしたら、その町には勇者がいるかもしれませんし。

 エレンを連れて行くのは危険です。

 それに、あの町はエレンにとって辛い町でしょうから……。


「あぁ、エレンのことは任せておけ。暫くは俺達三人で護衛をしながら行動する」

「お願いしますね。もしもの事があったら……」

「分かってるよ。その時は俺達はもういないだろうからな」

「どういう事ですかね?」

「命懸けで守るって事だよ」

「はい。その言葉信じますね」


 そこまで言ってくれるのなら、ギルガさんは約束を守ってくれるでしょうし、ドゥラークさんもきっと頑張ってくれます。リディアさんは……変な気を起さないように釘を刺しておきましょう。


 私はリディアさんを脅した後、魔物に襲われている哀れな町へと向かいました。

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