14話 麻酔草
盗賊退治を終えた私は、カンダタさんからエレンの居場所を聞いていたので、治療院へと向かいます。
治療院では、盗賊退治で怪我をした数多くの冒険者達が治療に当たっているらしく、エレンもそこでお手伝いをしているそうです。
たった十数名の盗賊団だと思っていたのですが、あの拠点の盗賊が一番強かっただけで、雑魚の盗賊の拠点が今でも点在しているそうです。冒険者達はそいつらと戦って怪我をしたそうです。
いつまでも続くようなら、そいつらも私が壊滅させましょうか?
治療院の建物は冒険者ギルドくらい大きさがあります。建物の横には薬草などが植えられた庭があります。だけど雑草だらけですよ? 手入れはちゃんとしないと。
治療院の中に入ると治療師と言われる人達がバタバタとしています。忙しそうですねぇ。
受付にも簡易ベッドが置いてあるみたいで、中には酷い怪我をしている人もいます。
しかし、私はエレンの治療魔法の効果をよく知っています。
エレンがいれば簡単に治療できると思うのですが、何故しないのでしょうかね。
そう思ってエレンを探したのですが、エレンはいません。
どこでしょう?
そう思っていると、奥の部屋からエレンが出て来ました。
「エレン」
「レティ! 無事だったんだね。心配したよ」
「心配かけてすみません。でも、あの程度の盗賊に負けませんよ。盗賊は皆殺しに……いえ、ボスだけは三日間の命を与えましたが、一応壊滅させましたよ」
私が仕事内容を伝えると、エレンの隣にいた女性が「本当なの!?」と驚いていた。この人は誰でしょう?
どっちにしても、私とエレンの会話を邪魔しないでください。と思っていたのですが、エレンが「この人はエメラさん。治療ギルドのサブマスターだよ」と教えてくれたので許しましょう。
「レティ、もう少し冒険者さん達の治療に時間がかかるから、待っていてくれる?」
「ここにいる皆をエレンが一気に治療すればすぐに終わるんじゃないんですか?」
「う、うん」
エレンが少し困った顔をしています。
もしかして、こいつ等に何かを強要されているんですか?
私はエメラという女を睨みます。
「ちょ、ちょっと待って! エメラさん達は悪くないんだよ」
「そうなんですか?」
エレンがそう言うのであれば、そうなのでしょう。
それなら何故エレンが困った顔をしているのでしょう。
そう思っているとエメラさんがさっきあった事を説明してくれました。
「聖女ですか……それがバレると教会がうるさくなるのですね」
「そうよ。噂で聞いたテリトリオの教会とこの町の教会は全く違うけど、聖女が出たとなれば話は別よ。彼等からすれば勇者と聖女は特別なの。事実、この世界は魔王の脅威にさらされているからね」
魔王。
聞いた事がありますが、まぁ、私には関係ないですね……。
「教会を潰しましょうか?」
「流石にそれは駄目だよ……」
エレンにダメと言われたので教会の事は嫌いですが、我慢します。
「こちらも聞きたいのだけど」
「なんですか?」
「貴女は盗賊団の拠点を潰してきたのよね。帰り道で魔物を見なかった?」
「魔物ですか? そうですねぇ……見ていませんよ」
「そう……」
「どうしてですか?」
「いえね。さっき話した部位欠損した冒険者がね、魔物に襲われたと言っていたのよ。もしかしたら何か変わった事は無かったのかと思ってね。そんな危険な魔物がいるのなら、もしかしたらこの町に来るかもしれないと思ったのよ」
確かに、魔物というのは本能で生きているので獲物が逃げれば追いかけてきます。
けれど、これはあまり知られていませんが魔物は基本的に自分のテリトリーからは出て来ません。
もし、この町がテリトリー外ならば襲ってくる事はまず無いでしょう。テリトリー内であればとっくに襲われていると思いますし。
エレンが冒険者達を治療をしている間、私はやる事が無いので治療院の庭の雑草を毟っていました。
私の前の家は森の中にありましたので雑草を放っておくとどんどん伸びてきて鬱陶しいんです。
でも、治療院には薬草なども植わっているので、気を付けなきゃいけません。
この草は薬草。これは毒消し草。これは麻痺草……。
アレ? この薬草畑の横に雑草のように捨てられているのは……麻酔草じゃないですか。これを使えば、怪我をしても痛みを消せるから応急処置に使えるのですがねぇ……勿体ないですねぇ。
私が麻酔草を集めているとエメラさんが声をかけてきます。
「レティシアちゃん。その雑草をどうするの?」
「雑草? これは麻酔草ですよ。こんな珍しい草を捨てるなんて勿体ないですよ」
「え? それって雑草じゃないの?」
「はい。私は前に住んでいた町で野菜を売ってもらえなかったので、草をよく食べていたんです。この草は雑草に似ていますが、食べると一時的に痛覚が麻痺するんです。だから麻酔草と呼んでいるんです。麻酔草を煮て成分を抽出するとかなり強い麻酔薬になります。魔物にも効きますから人間にも効くんじゃないんですかね。知っているでしょう?」
「そ、そうなの!? 今の話を詳しく教えて」
私は麻酔草の事を詳しく教えます。まぁ、詳しくと言っても暇つぶしに研究していた程度ですけど。
エメラさんは「研究したいから」と言って麻酔草をいくつか持って治療院に入っていってしまいました。
あ、エレンがいつ帰ってくるかを聞いておけばよかったです。
更に雑草を毟っていると、エレンとカンダタさんが治療院から出て来ました。
「アレ? カンダタさん、帰ってたんですか?」
「あぁ、お前は何をしているんだ?」
「暇なんで草毟りをしていました。ここの治療院の人は麻酔草も知らないんですね」
「麻酔草?」
「麻酔草って、レティが良く魔物に使っていた物よね」
「はい。麻酔草から抽出した麻酔薬で眠らせると、お肉の質が良くなるんですよ」
魔物の中には怒るとお肉が硬くなる魔物もいるんですよね。
そういう魔物を倒すときは眠らせるのが一番なんですよ。
「麻酔草ってなんだ? そんな薬草、初めて聞いたぞ?」
「え?」
私は道具袋から麻酔草を取り出します。
「これですよ」
「雑草じゃないか」
「雑草じゃないですよ。雑草は葉が真っ直ぐなのにたいして、麻酔草は葉が変な方向に曲がっているじゃないですか。ちなみに麻酔草は美味しいんですけど、感覚が麻痺してしまうのでサラダには使えないです」
「い、いや……今の説明を受けても見分けがあまりつかないな。しかし、お前は薬草にも詳しいのか?」
「はい? 食べられる物を知っているだけですよ。前にいた町では野菜は買えませんでしたし」
「どういう事だ?」
私とエレンは、前に住んでいた町の事を説明します。
その話を聞いてカンダタさんは呆れています。
「しかし、本当にどうしようもない町だな。ともかく、麻酔草の効果が立証されれば大発見だぞ」
「そうなのですか?」
こんな事で大発見だというのであれば、草を食べているだけでいろいろ発見できてしまいます。
カンダタさんは何かを考えている様で私に「研究職の連中から仕事が来るかもしれねぇな」と言っていました。
研究職が私の様な野生児に何の用があるんでしょうねぇ……。
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