15話 大型魔物


 治療院から帰ってきた私達は、トキエさんと三人で寛いでいました。

 私は「トキエさんも冒険者になって一緒に楽しみましょう」と誘ったのですが、トキエさんは明日から冒険者ギルドの受付として働くそうです。それならば諦めなければいけません。

 トキエさんは前に住んでいた町でも、冒険者ギルドの受付を最後までやっていたので、この町でもきっといい受付さんになるでしょう。できれば私達の担当になって欲しいですね。


「お父さんにも話をしていないし、驚くだろうね」

「そうなんですか?」

「うん。最近は毎日酔って帰ってくるから話が出来ないんだよね」


 そう言うと、トキエさんは少し寂しそうな目になります。

 当のギルガさんはカンダタさんに呼び出されて冒険者ギルドに行きました。

 エメラさんが言っていた、魔物の事で話があるのでしょう。

 今日も酔って帰ってくるんでしょうね。


「お父さん、遅いね」

「そうですね」

「二人共、何か思い当たる事があるの?」


 思い当たる事ですか。

 リーザさんでしたっけ? あの人を襲ったという魔物の事でしょう。

 帰ってからギルガさんにこの話をすると、リーザさんのランクと強さを聞きました。なんでもドゥラークさんよりも強いという事らしいので、襲った魔物もそこそこの強さの魔物でしょう。

 とはいえ、私が住んでいた森には普通にそんな魔物はいましたからね。


 それから数時間、ギルガさんが帰ってくるのを待っていたのですが、なかなか帰ってこないのでエレンとトキエさんには夜遅いので寝て貰います。エレンは「私も起きている」と言ってくれましたが、健康には良くないので寝て貰いました。

 私の健康ですか?

 正直言ってしまえば私の健康には興味が無いんですよ。気にしたとしても体が成長しないので深く考えないようになりました。

 昔はいろいろ試したんですけどねぇ……。


 日付が変わって、ようやくギルガさんが帰ってきました。今日は酔っていない様でちゃんと話ができるようです。


「レティシア、起きていたのか?」

「そうですね。エレンとトキエさんにはもう休んでもらいました」

「そうか……まだ起きていられるか?」

「はい? 全然大丈夫ですよ。三日くらい寝なくても身体能力は落ちません。流石に一週間も寝なかったら眠くなりますけど」

「お前は本当に人間か?」

「人間ですよ。失礼ですねぇ」


 ギルガさんはお酒を用意してきます。

 飲んで酔うのならば殴っていいですかね?


「酔った瞬間、外に捨てますよ」

「何をだ?」

「ギルガさんをです」

「おい! まぁ、一杯くらいなら酔わないさ。レティシア、リーザを知っているか?」

「リーザ?」


 あぁ、確か魔物に襲われた人でしたよね。


「知ってますよ」

「その子を襲った魔物なんだがな……」


 ギルガさんはリーザさんに聞いたと思われる魔物の特徴が書かれた紙を私に見せます。

 大きな角の大きな狼? 毛の色は緑色に尻尾は二本……これはアレですね。


「フォレストウルフ……の亜種ですか。森によくいた魔物ですね」

「オレも特徴を聞いてそう思ったが、フォレストウルフにしては体の大きさがおかしい」

「そうでもないですよ。フォレストウルフもそうですけど、魔物はたまに勝手に進化して大型になる事があるんですよ。そうなった魔物はお肉が美味しいんです」

「そうだったんだな。それにしてもカンダタさんに聞いたが、お前は薬草の知識だけじゃなく魔物の知識もあるんだな」

「知識? それは違いますよ」


 私は森に住んでいたので森に会った草や魔物については詳しいですけど他の事は分かりませんよ。

 実際は詳しくありませんから、口に入れた瞬間に動けなくなった植物もありましたし。おかげで毒は効かなくなりましたけど。


「まぁ、いい。明日は俺とお前、エレンの三人で冒険者ギルドへと向かう」

「それは良いんですが、エレンは戦闘は出来ませんよ。連れて行っても危険になるんじゃ?」

「いや、逆だ。カンダタさんや治療院のエメラに聞いただろう? エレンは聖女だ。教会がいつエレンに気付くか分からない。だからこそ、一緒に連れて行く方が良いんだ」

「それもそうですね。魔物がどこにいるのか分かりませんし、場所によってはエレンの気配を感じられなくなってしまいます。近くにいればエレンの危機にすぐに駆け付けられるかもしれませんね」


 そもそも、この町の教会にエレンのことがバレれば、教会を潰すかこの町から去るかしかなくなりますよね。

 それもいいんですが……勇者が目の前に現れたら殺してしまいましょう。それが一番です。

 でも、それを口にするとギルガさんが何か言うかもしれませんから、黙っておきましょう。


「分かりました。明日はで冒険者ギルドに向かいましょう」

「皆?」

「トキエさんもですよ。トキエさんも冒険者ギルドの受付で働くと言っていました」

「そうなのか!? アイツ、オレには何も言っていなかったのに……」

「最近は飲み歩いてばっかりでちゃんとお話をしていないからじゃないんですか? ギルガさんが悪いです。トキエさんに嫌われますよ」

「ぐっ……よし、明日は早いから早く寝るぞ」

「まだ、お酒を飲み干していませんよ」

「馬鹿やろう。酒はもう止めだ!! 早く寝るぞ!!」

「そうですね」


 ギルガさんでも娘さんに嫌われるのは嫌みたいですね。

 さて、私も寝ましょうか。


 

 次の日。

 冒険者ギルドにはすでにたくさんの冒険者がいました。その中にはドゥラークさんの姿もあります。

 あの人は私を知っているので声をかけます。


「ドゥラークさんも魔物退治に参加するんですね」

「あぁ、レティシアか。昨日はありがとうな。高齢夫婦の孫に形見を渡せたぜ」

「いえいえ」

「しかし、盗賊の次は大型魔物だってな。どうなってんだ?」

「さぁ、でも魔物なら殺してしまえばいいんですよ」

「そりゃそうだけどなぁ……大型だろ? 冒険者一人ではどうにもならないからなぁ」

「そうなんですか?」

「そうだろうな」


 私とドゥラークさんが話をしているとカンダタさんが冒険者達に依頼書を配ります。

【緊急 大型魔物退治】

 大型魔物……フォレストウルフの亜種程度なら、私一人でも倒せますけど……。と思っていたのですがギルガさんから今回の依頼について話を聞きます。


「お前一人が動いても仕方ないんだよ。他の冒険者にも経験を積ませる必要がある。それがあるから、今回はお前だけに依頼書を渡すんじゃなく、数多くの冒険者に依頼書を渡してあるんだ」

「そうなんですか? ならば仕方ないですね」


 冒険者達は依頼書を渡されると、町の外の集合場所に歩きだします。参加しない人は集合場所に行かないという事ですね。

 私とエレンも一緒に行こうとしましたが、カンダタさんに止められます。


「なんですか? ちゃんと他の冒険者が蹴散らされた後に魔物を殺しますよ」

「そうじゃない。今日はお前のパーティに「私のではなくギルガさんのパーティです」に入れて……そ、そうだったな」


 入れてという事は、新人でも入るんですか?

 というよりも、私達が冒険者になってまだ三日なんですけど。


「こいつはリディア。クラスは剣士でランクはEランクだ。こいつをお前達のパーティに入れてやってくれないか?」

「はじめまして、リー、リディアと言います」


 ん?

 この人って……。

 髪の毛の色も目の色も違いますけど……。


「リーザさんですよね?」

「え?」「ちょ、レティ!?」


 え?

 私は間違っていませんよ?

 この人はリーザさんです。


「でも、リーザさんですよ?」

「あ、あの……」「レティ、話を聞いて!?」

「はい」


 私はエレンから話を聞きます。

 そう言えば、昨日にエメラさんから聞きましたねぇ。どうでもよかったので、エレンの事以外は忘れていました。


「レティシア、事情が事情だから。今後はリディアと呼んでやってくれ」

「はぁ……別にいいですけど」


 リディアさんは頭を大きく下げます。

 エレンと同じくらいの歳ですが、エレンに対しては尊敬の目を向けています。命を助けられて懐いているのでしょう。あまりにも近付くようでしたら、払いのける必要がありますね。

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