12話 盗賊退治の裏側 治療師セラピア視点


 私はセラピア。

 セルカの町の治療ギルドでギルドマスターを任されている。


 治療ギルドができるまでは、治療師というのは一般庶民とは縁がなかった。

 理由としては、治療師は怪我や病気を治せるという立場を最大限に利用して、高額な治療費を請求していた。

 当然、庶民には払えるような金額ではなかった為、庶民は治療師を利用しなかったのだ。


 しかし、百年ほど前に、当時の冒険者ギルドのグランドマスターが治療ギルドを設立して治療料金の一律化と保険制度を導入した。

 当然、治療師達からは反発の声もあったが、グランドマスターは反発した治療師達を駆逐した。

 確かにやり方は強硬だったが、そのおかげで治療ギルドが設立され、庶民も怪我や病気の治療ができるようになった。

 とはいえ、貧しい家庭には治療代を支払うのが難しい。それを補うのが保険制度だ。

 保険というのは、貧しい家庭の者の治療費の一部を《医療大国メディア》にある治療ギルド本部が支払ってくれるという制度だ。

 まぁ、その制度を利用しようとした悪い治療師も現れたらしいが、どういった方法でその治療師を見つけ出したかは分からないが、冒険者ギルドのグランドマスターが突然現れて粛正していったらしい。そして、その粛清内容が各治療師達へと通達された。

 今でも、数カ月に一度、粛正の報せが私達の下へとくる。

 どちらにせよ、粛正の話を聞いた治療師達は悪事や不正を働く事は無くなった。


 今現在、セルカの町の治療院は例の盗賊騒動で毎日が忙しい。それこそ、不眠に近い状態で治療に当たっている。

 勘違いする人も多いのだが、治療魔法というのは即効性があるわけではない。

 即効性のある魔法もあるが、それは上級魔法と呼ばれている。上級魔法である以上、使い手も限られている。


 私達としては、早く盗賊団を壊滅して欲しいのだが、盗賊団のアジトは何カ所にも分かれていて、盗賊団の首領がいると思われる本拠地にはCランクの冒険者でも太刀打ちできないほどの者がいるらしく、簡単にはいかないそうだ。

 冒険者ギルドのギルドマスターであるカンダタは、少しでも冒険者の被害を出さない為にその本拠地を事実上、放置している。

 冒険者ギルドのギルドマスターなら冒険者の命を優先して当たり前だというのはわかる。だけど、本拠地が無くならないから、どれだけ捕まえても盗賊は減らない。


「今日も冒険者達が運ばれてきました」

「分かったわ」


 秘書兼サブマスターのエメラが私を呼びに来る。


 今日も疲れた体に鞭をうち、治療に向かう。

 盗賊の事は本来は国の管轄なのだが、国は国で問題を抱えているので、どうにもできないらしい。

 せめて……せめてBランク以上の冒険者がいてくれれば……。

 

 今、この国にはBランク以上の冒険者はいない。

 理由は詳しくは知らないが、勇者が関係しているらしい。

 盗賊の問題はカンダタが動けば解決するかもしれないけど、もしもの時……彼を失った時の事を考えればリスクが高すぎる。彼はいつでも行くと言っているのだが、治療ギルド、商業ギルド、料理ギルド、建築ギルドのギルマスがカンダタを止めているのだ。


「だれか……この状況をなんとかして欲しいものだわ……」


 噂の勇者ならなんとかできるかもしれない。

 でも、この国が混乱している原因はあの勇者だ。

 勇者が「自分は異世界召喚者だ!! チート能力を持っているんだ!!」と良く分からない事を言い、王宮で好き勝手していると聞いた。そのせいで国は混乱しているのだ。


「国の方はネリー様とレッグに任せるしかないし、本当に手詰まり状態だわ……」


 ネリー様はこの国の第一王女様。そしてレッグはAランクの冒険者だ。

 今、この国を立て直そうと必死に動いているそうだ。


 カンダタは各国のギルドにAランクの冒険者を派遣してくれるように頼んでいるみたいだけど、Aランクの冒険者は国の宝だ。そう簡単に国外に出さないだろう。


 私は、治療院の受付ロビーに出る。

 今日も怪我人であふれている。

 治療師達もほとんど寝ていないだろう。フラフラで治療を続けている。

 本来は私達だけで治療を行うのだけど、今は冒険者ギルドや教会からも人を借りている状況だ。

 

 本当に……いつまで続くの?


「セラピア!!」


 この声は。

 治療院の入り口には、とても六十代とは思えない筋肉を持った大男が立っていた。

 カンダタだ。

 隣には、見た事のない女の子を連れている。


「カンダタ。今日はどうしたの? 貴方が盗賊の本拠地に向かうのは許可しないわよ」


 この男は、毎日、自分が動く事を私に許可を得に来ている。

 私の許可を取れれば、誰も文句を言わないのは事実だ。

 その理由は、私がこの町で一番歳を重ねているからだろう。

 とはいえ、私はエルフなので見た目はまだ二十代といっても過言ではない。決して若作りではない。


「そうじゃない。盗賊の本拠地には新人・・とドゥラークに向かわせた」

「は? 今なんて言ったの?」


 ドゥラークは性格に難があるけど、あくまでCランクだ。大丈夫なの?

 それに新人と聞こえたけど……。


「あいつなら大丈夫だ」

「新人に行かせるって何を考えているの!?」

「セラピア……行かせたのは俺がお前に常に・・話していた少女だ……」


 カンダタが話していた少女?

 ま、まさか……あのカススの町を滅ぼした……。


「そ、そんな危険人物を町に入れたの!?」

「その点は大丈夫だ」


 大丈夫と言われても、あまり信用できない。

 でも、付き合いが長いからカンダタが嘘を吐くとは思えない。カンダタにも考えがあるのだろう。

 しかし……。


「なら、何をしに来たの?」

「この娘を治療に加えてくれ。最低限・・・の治療魔法を使える」

「そうなの?」


 カンダタの横にいた少女。

 物凄く綺麗な顔をしていて、更に綺麗な長い金色の髪が神々しいまでにこの子を引き立てている。

 見た感じは絵本に出てくる聖女様のような姿をしていた。


「初めまして、エレンと申します」


 エレンは頭を深々と下げ挨拶をしてくれた。

 何だろう?

 この子の振る舞いすべてに気品を感じる……。


「あ、私は治療ギルドのギルドマスター、セラピアよ。早速だけど治療に当たってもらえるかしら?」

「はい。この場にいる全員・・・・・・・・を癒せばいいんですね」


 え?

 今この子はなんて言ったの?

 この場にいる全員を癒す!?

 カンダタが慌ててエレンに耳打ちをする。


「エレン。やりすぎるなよ」

「はい。私は範囲治療魔法はヒーリングしか使えません」

「そうか……」


 コソコソ喋っているけど、悪いけどエルフは耳が良いのよ。

 やりすぎるなってどういう事?

 でも、ヒーリングを使えるという事は中級魔法を使えるという事だ。

 カンダタは最低限と言っていたけど、十分過ぎる戦力だ。

 彼女はいきなり片手をあげ魔法を唱える。


「ヒーリング!!」


 治療系魔法の中級魔法ヒーリング

 初級魔法の《ヒール》の範囲型で、この治療院にも数人使い手がいるわ。

 でも……。

 詠唱破棄・・・・でこの魔法を使える人間はいない。

 いえ、私も無詠唱だけど、サブマスターのエレナでも詠唱は必要だ。

 しかし、驚いたのはそこじゃなかった。


「え?」「傷が無くなった」「治った」


 なんですって!?

 この回復量はおかしい。

 ヒーリングはあくまでヒールの範囲型だ。傷の治りはここまで早いはずがない。

 確かに、治療師の技量によって回復速度や回復量が増える事は良くある。

 しかし、今のは……。回復量を考えると……。


「こ、これは……まさか……」


 聖女様のみが使えると言われている《サルヴェイション》じゃないの!?

 広範囲の完全完治魔法……。部位欠損までは復元できないけど、たいていの怪我なら完全に治せるという魔法。

 私でも使えないわ……。


 こ、この子は一体……。

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