10話 初めてのお仕事 盗賊退治2


 盗賊がアジトに使っているお屋敷は、元々貴族が使っていたのでしょうか、玄関先も豪華に見えます。

 しかしながら、やはり住む者によってでしょうか、豪華に見えつつも酷く汚く見えます。

 同じ規模とは言いませんけど、エレンが住んでいたお屋敷とは明らかに違います。

 エレンが住んでいたお屋敷は、とても綺麗でした。


 お屋敷の入り口には盗賊と思われる男が立っています。

 私は盗賊の顔をジッと見ます。

 盗賊というのは薄汚れた顔をしていて、人相が悪い奴ばかりだったんですが、あの盗賊は小綺麗な顔をしていますね。私の隣にいるドゥラークの方がよほど人相が悪く、盗賊に見えます。

 

「な、なんだよ」

「いえ、あの男の顔が見えますか?」

「いや、ここからじゃ顔までは分からん」


 人間が人差し指くらいに見えるくらいの距離です。

 この距離が見えないとか、冒険者としてどうなんでしょうね。

 カンダタさんから、盗賊は冒険者崩れと聞いていましたから、ドゥラークの知り合いもいるかもと思ったんですが、まぁ、別にドゥラークの知り合いがいたところでどうでも良いんですけどね。

 しかし、ドゥラークの顔は盗賊みたいですねぇ……。


「あ! もしかしたら、貴方も盗賊の仲間で私を騙しているとか?」

「あ! って何だよ。何をどう思ってそう思ったんだ「顔です」って、なんでそうなる。いや、自分の顔の人相の悪さくらいは知っているけどよぉ……。俺はお前とは別口でこの依頼を受けたんだよ」

「そうなんですか?」

「あぁ、依頼書に書いてあった殺された高齢夫婦の話があっただろ? あの高齢夫婦の孫娘に「お婆ちゃんがいつも大事に持っていたペンダントを取り返して欲しい」って頼まれてな。理不尽に身内が殺されたんだ。せめて形見くらいは取り返してやりたくてな。俺の強さじゃ歯が立たないかもしれないが、形見だけを手に入れる事は出来ないかと思いここに来たんだ」


 私はドゥラークの目を見つめます。

 人が嘘をついているかどうかくらいは、見分ける事が出来るのですが……。

 人の中身というのは、顔だけでは判断できないモノですね。


「少しだけ、貴方を見直しました。人は顔だけではありませんねぇ。分かりました。その言葉を信じましょう」


 となれば、さっさと突入しましょう。

 私はナイフを二本取り出します。


「お、おい。ここからどうするつもりだ? かなり距離があるぜ」

「は? この程度、近いでしょう。この程度の距離ならば確実に急所を狙えますよ。今からアレを殺します」

「殺す!? お、お前、人の命を……」

「は? アイツは元冒険者であって、今は盗賊の一人でしょう? 数々の暴虐を繰り返している盗賊風情に情けは必要ありません」


 ドゥラークは見た目は厳ついのに繊細なんですねぇ。

 この世界は結構非情ですから、そんな甘い考えだとこっちが殺されますよ。

 少なくても、私はそういう世界で生きてきました。


 私は見張りの喉元を狙いナイフを投げます。

 一応、外れるといけないので額も一緒に狙っておきます。額に刺さっても人は死にますからねぇ。

 どちらかが刺さればいいかな、と思っていたのですが、両方刺さったようです。

 

 ナイフが命中したようで男はその場に倒れ込みます。

 これで見張りがいなくなったので突入できますよ。

 私は、男の生死を確認しに行きます。


「お、おい。アイツは死んだのか?」

「どうでしょうね。ここからでは完全な生き死にまでは分かりませんが、例え生きていたとしてもとどめを刺しますよ。あ、怖いんだったら、ここで退き返してくれませんか? 貴方が欲しがっている形見という奴は私が探してあげますよ。それに、私は盗賊を皆殺しにする予定ですから、いちいち横でガタガタ言われるのは不愉快ですので」

「い、いや……そ、それは……」

「どちらにしても、ついてくるのならこの程度・・・・の事で騒がないでください。次は殺しますよ」

「あ、あぁ」


 私達は屋敷に近付きます。どうやら見張りはこの男一人だったようですね。

 男は、ヒューヒューという音をたてながら、ピクピクしています。今、治療すれば助かりますから、とどめを刺しておきましょう。

 私は炎魔法で男を焼き尽くします。


 男は黒いすすに変わってしまいましたが、その光景を見てドゥラークは顔を青褪めさせています。

 本当に繊細な人なんですね。と思っていると、彼は別の事で驚いていたようです。


「今の奴は……確かBランクのルンスだ……。ルンスは、依頼中に事故死したと聞いていたのに……生きていたのか……いや、今、死んだが……」

「事故死ですか? 死んだのにここにいたんですか? 変な話ですね」

「あぁ、俺が言うのもなんだが、ルンスはギルドの中でも評判が良くない奴でな。他人の功績を奪い取るとかで除籍になりかけた奴なんだ。その矢先に事故死だったからな」

「事故死に見せかけて、こんな所で盗賊をやっていたんですねぇ」

「そうなるな……」

「まぁ、私には関係ないですけど」


 元冒険者だからといって、別にどうとも思いませんし、ドゥラークの知り合いがいようと皆殺しをするつもりです。しかし、いちいち私情を挟まれても面倒なので釘だけは刺しておきましょうか。


「やはり、貴方はついて来ないでください。今みたいに、冒険者だからと騒がれては面倒です。もう一度言いますよ。下らない感傷を持つのであれば、今すぐどこかへ行ってください。邪魔です」

「あぁ、大丈夫だ。門番ですら冒険者だったんだ。恐らく盗賊団の全員が冒険者なんだろう? 受付の説明でもそう聞いている」

「ならいいです」


 私はドゥラークに扉を破壊するように頼みます。

 私が蹴り破ってもいいのですが、殺すのは私がやりますので、少しでもお手伝いをして貰わないと邪魔なだけですからね。


「いいのか? 派手に突入してしまえば気付かれるぞ? 気付かれない為にルンスを暗殺したんだろう?」

「はい? 違いますよ。普通に交戦するのが面倒だったので、投げナイフで殺しただけです。別に盗賊全員が襲ってきて乱戦になっても皆殺しにする自信はあります」


 ただ、ドゥラークがどうなるかは知りませんけど。

 私は目を閉じ、盗賊の人数を探ります。

 数は全部で十三人。

 戦えそうな盗賊が十一人ですか……、後の二人はこの感じから子供ですかね?

 この子達が、人質と言ったところでしょうか。

 十一人・・・しかいない盗賊団なんてたいした事はありません。

 この子達は助ける必要がありますが、もし、死んだとしてもそれは盗賊がやった事であり、私が原因ではありません。


「さぁ、扉をぶち破ってください。出来れば全員が扉の先に集まるように」

「あ、あぁ」


 ドゥラークは大きな斧を扉に叩き込みます。

 扉を破壊した音が屋敷に響きます。

 私達は屋敷に入り、辺りを見回します。

 屋敷の中は酷く荒れていて、そこいらに食べカスやモノを奪う時に殺したであろう死体等のゴミが散乱しています。


「こ、これは……」


 ドゥラークは屋敷の惨状に顔を青褪めさせています。

 彼は盗賊のアジトに入った事は無いのでしょうか? 大体の盗賊のアジトなんてこんなモノですよ。


「ど、どうして、お前はそんなに落ち着いているんだ!?」

「どうしてと言われても……見慣れていると言った方が良いですか? 私は幼い頃から生きるために盗賊を狩って生きていましたからね。盗賊のアジトなんてどこもこんなモノです。いえ、ここは幾分マシな部類ですよ」


 他の盗賊のアジトは、洞窟なので獣などに死体が食い散らかされていたりしますから、臭いもきついですし、たまに死霊系の魔物になって襲ってくる事もあります。そう考えれば、ここはまだ綺麗な類ですね。

 まぁ、住みたいか? と聞かれれば嫌ですけど。


 さて、今の音を聞いて、盗賊がこちらに向かってきましたね。

 子供も一緒に来ている様です。

 一応、子供も戦えそうか探ってみましたが、ただの子供の様です。

 中には、暗殺が出来るような凶暴な子供もいますからね。

 ……何か「お前が言うな」みたいな事を言われた気がしますが、気にしないでおきましょう。


「ドゥラーク、貴方はここでジッとしておいて下さい。子供が二人います。大人であれば見捨てるという選択肢もあったのですが、子供はそうもいきません」

「生きているのか?」

「はい。気配を調べる事で子供と大人くらいは簡単に見分けは付きます」


 さらに、戦闘できるかどうかも大体わかりますけどね。

 

 私達が、段取りを話し合っていると、次々と盗賊が現れます。

 中には弓で射ろうとしている者もいます。


「てめぇら、何者だ!」


 ドゥラークを見ると、顔に怯えの色が見えました。有名どころの冒険者でもいるのでしょう。


「有名な奴でもいますか?」

「あぁ、殆どがBランクだ。そりゃ、Cランクの奴でも命からがら帰ってくるわけだ」

「そうですか……」


 しかし、名のしれた冒険者がどうして盗賊なんてしているんでしょうね。

 まぁ、興味ありませんけど。

 子供、二人は……あそこですか。

 どうやら怪我はしていないようです。

 あと盗賊の一人はここにはいないようですね。


 まずは、子供の救出でもしましょうか。

 さて、どうやって助けましょう。

 一瞬であそこまで行く事は可能ですが、殺した時の反動で子供が巻き込まれるかもしれません。


 そうです!

 まだ対人戦では試した事は無いですが、あの方法・・・・を使いましょう。


 私は子供を人質に取っている男を睨みつけます。

 この世界には殺気というモノが存在します。

 殺気は、殺すいう意思をぶつける事で発生して、相手を怯ませたりするモノなのですが、これを利用して敵を気絶させられないかと、密かに練習していました。

 魔物には効いたんですが、人間に効くかどうかは試していなかったので、今実験してしまいましょう。


 私が殺気を込めると、子供を人質に取っていた男がその場に崩れ落ちます。

 効きました。今です。


 周りの冒険者は何が起きたのか理解できないようですが、その一瞬の時間があれば子供を救うくらいは出来ます。

 私は、子供の下に一瞬で行き、男の首の骨を踏み折って殺してから子供二人をドゥラークの下へと連れて行きます。


「ドゥラーク、この子達を保護して冒険者ギルドへ連絡を入れてください。私は貧乏だったので知りませんが、遠くの人に連絡する便利な道具があるのでしょう? 貴方が持っているのならそれを使ってギルドに連絡してください。それが無いんであれば、ギルドまで行ってください」

「あぁ! お前は!?」

「言ったはずですよ。私の目的は……」


 私は、剣を取り出して、盗賊達に突きつけます。

 そして口角を釣り上げて……。


盗賊団こいつ等を皆殺しにする事ですから」


 あの頃を思い出し……ついつい笑顔になってしまいます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る