9話 初めてのお仕事 盗賊退治


「ギルガが持って帰った依頼は、例の【盗賊退治】だな。あの野郎、レティシアが強い事をいい事に、こんな仕事を持って帰るとは……。善悪の判断がつかないほどに酔っていやがったのか」


 カンダタさんがゴミ状態ではない依頼書を持ってきてくれます。

 でも酔っていたのは、カンダタさんのせいです。


 その依頼書には、【盗賊退治、ここ数日、盗賊による強盗殺人被害が増えています。先日も、高齢夫婦が殺されました。早急に盗賊を排除していただきたい。盗賊の生死は問いません。依頼主:商業ギルド】と書かれていました。

 カンダタさんが言うには、魔物を殺すのと人を殺すのというは、人としての倫理観というモノが全然違うらしく、大体の新人は初めての対人の依頼で命を落とすらしく、こういう依頼は清濁あわせもったベテラン冒険者さんが依頼を受けるのが普通だそうです。

 ギルガさんは酔った勢いで、この仕事を取っていったらしいです。

 しかしですね……。


「盗賊退治ですか……確かにエレンのやる仕事ではないですね。エレンの初仕事は別のにしてもらいましょう」

「え? レティはどうするの?」

「受けますよ。たかが盗賊退治でしょう? 問題ありません」


 盗賊程度、どうとでもなります。

 しかし、カンダタさんは納得していないようです。


「い、いや、しかし……」

「ここに生死を問わずと書いてありますし、殺しても問題ないのでしょう?」

「た、確かにその通りだが……、と、お前は盗賊を狩ってお金を得ていたと言っていたな」

「はい」


 私はエレンと出会う前、幼い私を売ろうと近付いてきた盗賊を殺してお金や食料を得ていたので、盗賊を殺す事に何の抵抗もありませんし、盗賊を怖いと思った事すらありません。


「はぁ……エレンにはこちらで仕事を用意する」

「は? 危険なお仕事ですか?」

「いや、治療院の仕事だ。この依頼書にもあるが、最近、盗賊の被害が増えているのも事実だ。本来ならば盗賊団の壊滅という仕事は、国の管轄のはずなんだがな。だが、この国のお上はいろいろとゴタゴタしていてな。例え被害が出ていても盗賊風情に兵力を割いていられないそうだ」

「そうなんですか? 随分と情けない国ですね」

「そう言うな。一部の王族がこれに抗おうと頑張っていると聞く。で、盗賊の被害というのが思っているよりも多くてな。この盗賊共は、元々は腕のいい冒険者で結成されているらしくてな、盗賊狩りに出かけた冒険者が次々怪我をして帰ってきているんだ。中には殺された者もいる。今、この町にはBランクの冒険者すらいないのが現状なんだ。治療院もそんな怪我人で手が回らないらしくてな。エレンの力を全て見せるつもりは無いが、手伝わせた方が良いと思ってな」


 確か、新人のエレンでもBランクでしたよね? 私はSランクらしいですし、冒険者というのはそんなに情けないモノなのですか?


「お前、何か勘違いしているようだがな、Cランクでも一流の冒険者なんだぞ。エレンの、新人でBランクというがおかしいんだからな。お前のSランクはもっとおかしいんだぞ。俺やギルガがどれだけ苦労してAランクになったと思っているんだ」

「そんな事は知りません。で、私が盗賊退治に行ってきます。正式に依頼を受けたいのですが、どうすればいいですか?」

「レティ……」

「大丈夫ですよ。心配いりません。たかが盗賊くらい大した事はありません」

「そうは言うが、Cランクの冒険者を倒すほどの盗賊だ。本当に大丈夫なのか?」

「はい。武器をちゃんと使いますので。昨日戦った冒険者より少し強いのがうようよしているくらいでしょ? 武器を使えばアレくらいならば一瞬で殺せますから」

「そ、そうだな……。お前はあの時、素手だったな。ただし、危険だと思ったら帰って来い」

「はい、分かりました」


 私は盗賊退治の依頼を正式に受け、盗賊のアジトという場所に乗り込みます。


 

 盗賊のアジトは、洞窟だと相場は決まっていると思うのですが、小綺麗な屋敷が盗賊のアジトでした。


「盗賊風情がこんな所に住むなんて生意気ですね。この屋敷を壊して一気に終わらせましょうか」

「待ちな!!」


 声がしたので振り返ると、昨日の冒険者が立っています。


「何の用ですか? まさかと思いますけど昨日の復讐ですか? 今日はお仕事なので邪魔をすれば殺しますよ?」

「違う!! お前が強いのは分かっているが、新人だからな。先輩の俺が助けてや「いりません。弱いので邪魔です」って、待て!!」

「なんですか? 邪魔をすれば殺しますよ? 二度も言わせないでください」

「待てって、こういう場合はじっくり作戦を練ってだな」

「はぁ……一人で動くのですから、作戦なんて無意味です。そもそも作戦と言いますけど、あの屋敷に盗賊がいるのですから、ここから屋敷を破壊して盗賊を駆逐すればいいだけでしょう?」


 男は呆れた顔をしています。


「お前、依頼書をちゃんと読んだか?」

「はい。【盗賊退治、ここ数日、盗賊による強盗殺人被害が増えています。先日も、高齢夫婦が殺されました。早急に盗賊を排除していただきたい。盗賊の生死は問いません。依頼主:商業ギルド】と書かれていました。ね、ちゃんと読んでいるでしょう?」


 私は依頼内容をちゃんと覚えているのですよ。しかし、この男、ドゥラークと言いましたかね? こいつは呆れた顔で私を見ています。ムカつきますねぇ……。


「お前、それは依頼内容を読んだだけじゃねぇか。冒険者の依頼書はな、全部ちゃんと読んどけよ」

「はい?」

「今回の盗賊退治には注意事項が書かれてあっただろ?」

「さぁ?」

「はぁ……、盗賊のアジトには、誘拐された人や盗品が多くあり、それを壊すと違約金が発生しちまうんだ。だから、失敗してた冒険者達も慎重にやらざるを得なかったんだよ」

「そうなんですか?」


 そもそも、盗賊の壊滅を依頼しておいて、誘拐された人や盗品を取り返せとは虫のいい話ではありませんか? 私としては面倒なので一気に破壊した方が……。


「お前……、今の話を聞いても屋敷を壊そうと考えているな。違約金が怖くないみたいだし、一応言っておくが違約金はお前一人に来るわけじゃないぞ? お前のパーティ・・・・に行くんだ。あの一緒にいたお嬢ちゃんやおっさんに行くってわけだぞ?」

「そ、そうなんですか!? 商業ギルドって鬱陶しいですね」

「いや、それが冒険者の仕事なんだよ。自由な冒険者と言っても、仕事を出してくれるのは一般の人達だからな。時に貴族や王族の場合だってある。そうなってくると、思っていたよりも好き勝手できないものなんだ」

「そうなんですか……なら正面突破しかありませんね」

「いや、だからな」

「盗賊を殺すくらいでしょう? たいした事はありません」


 私は屋敷に向かって歩き出そうとします。

 しかし、ドゥラークが肩を掴んできます。


「なんですか? 殺しますよ?」


 この人は馬鹿なんですかね?

 何故、三度も同じ事を言わせるんですか。


「俺も行く」

「はぁ……、何度言っても無駄ですね。好きにすればいいんじゃないですか」


 私とドゥラークは盗賊退治をするために屋敷に向かい歩き出しました。

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