6話 冒険者採用試験 カンダタ視点
俺の前で行儀よく座る二人の少女。
エレン嬢は領主の娘だけあって、親からマナーというモノを学んでいるのだろう。
問題はレティシアだ。
見た目は十歳くらいの少女でしかなく、今は暗い目をしているわけではない。
しかし、この子はここに来る前に冒険者を複数人殺し、過去には町を一つ滅ぼしている。
普通に考えれば、こんな幼い少女が町を滅ぼしているなど信じられるわけがない。実際目にした俺でも信じられない。
だが、俺は確かに見た。
しかし、逆に気になる事もある。
カカスの町で見た時よりも成長しているとはいえ、十年の月日が流れているのに姿がほとんど変わっていないというのはどう言う事だ?
確かに、この世界には何十年経っても姿が変わらない人間というのがたまに存在する。俺も実際に見た事がある。
そいつらに共通する事は、常識から外れた力を持っている事。
まさか、レティシアも同じ部類なのか?
そんな事を考えているとギルガが俺にコッソリと聞いてくる。
「カンダタさん。冒険者ギルドに採用試験なんてなかったはずだ。レティシアが人殺しをしているのには驚いたが、話を聞く限り、アレは正当防衛による殺人で冒険者になるのには問題ないはずだ」
「ギルガ……俺はお前に言っていなかった事がある。俺は十年前にレティシアに会った事がある。俺は彼女と出会い冒険者を辞めた」
「なんだと!?」
ギルガには体力の限界だと言っていた。
確かに六十を超え、体力が低下をしていたのは事実だ。
だが、まだまだ冒険者を続ける事が出来たはずだ。
「お前には後で詳しく話をしなければいけないが、今は俺を信じてくれ」
「あ、あぁ」
俺は、用意してあったギルドカードを取り出す。
今、このカードは布にくるまれている。これは触れるだけで自分のクラスが分かり身分証にもなるという優れたカードだ。
本来は、このカードを入手する事で冒険者をする事が出来る。
入手方法も冒険者ギルド受付ロビーで、入会手続きを行うだけで手に入れる事が出来る。
「レティシア、エレン嬢、このカードに触れてみろ。お前達のクラスが表示されるはずだ。話を聞く限りはエレンは
そう言うとエレン嬢が袋からカードを取り出す。
するとカードが光り、文字が浮かび上がってくる。
クラス……《賢者》
そうか……賢者か……良くあるクラスだな……って、何ぃ!!?
賢者だと!?
上位クラスの中でも特別なクラスじゃないか!
賢者というのは、魔法職の中でも最高クラスで賢者の称号を得た者は、例え新人であっても将来が約束されるとも言われている。
まさか、エレン嬢に驚かされるとは思わなかったな。
問題のレティシアだが、こっちも驚いた。
クラス……《神殺し》
…………
………
……
神殺し?
なんだ、その物騒な名前のクラスは……。
聞いた事も無いが、今は問題ではないだろう……多分な。
「二人共、少し待っていてくれ。今から試験官を連れてくる」
「「はい」」
二人は素直に大人しく待っていてくれるようだ。
俺は冒険者ギルド受付ロビーまで走り、ガラの悪そうな冒険者を探す。
出来るだけ、糞みたいな冒険者が良い。
このギルドに貢献してくれている冒険者を選んでしまうと、ギルド側が損をしてしまうからな。役に立たなそうなやつは……。
……。
アイツが良いな。
人相も悪く口も悪い。素行も悪いがこの町ではまだ問題は起こしていない。
名前は……ドゥラークだったか?
クラスは戦士、Cランクの冒険者だ。
性格も悪いが、力のある奴にはへこへこする典型的な奴だな。
「ドゥラーク、少し話があるんだが良いか?」
「あぁ!?」
態度の悪い奴だな。
レティシアにボコボコにされる前に俺がボコボコにしてやろうか?
いや、アイツと戦わせる前にこいつを消耗させても仕方が無い。
「今から俺の指示に従って、それを見事にクリアすればお前をBランクにしてやる。悪い話ではないと思うが、どうする?」
「Bランクだと!! よっしゃ!!」
「勘違いするな。俺が用意した奴に勝てたらだ」
「どんな奴にでも勝ってやるよ!!」
とんだ自信家だな。
俺はドゥラークを連れて地下にある訓練場へ向かう。
「ここで仁王立ちで厳つそうに待っていろ。口を開くなよ」
「あぁ? なんで俺がお前の言う事を聞かなきゃいけないんだよ!!」
こいつ……。
いや、今からこいつは
今は我慢してやろう……だがな。
俺はドゥラークの首を掴み睨みつける。
「俺はギルドマスターだ。俺の権限でお前のギルド登録を抹消することも出来るんだぞ? 分かったら黙ってろ!」
「ひっ!」
ドゥラークは大人しくなる。
この程度の脅しで大人しくなるなら最初から黙ってろ。
俺は二人の待つ部屋に移動する。
「待たせたな。今から地下訓練場に行ってもらう。エレン嬢は、何か魔法が使えるか?」
「はい。治療系の魔法が少し」
治療系の魔法か。
賢者というのは本来は治療系の魔法は使えないと聞いたが、それならば簡単に終わらせてしまおう。
「そうか。まず俺にかけてくれないか?」
「は、はい」
俺は古傷のある腕を前に出す。
エレン嬢は手のひらを俺の腕に当ててくる。
治療系の魔法は古い傷にまでは効果が出ないのだが、エレン嬢はこの事を知っているのか?
いや、エレン嬢を試験する必要はない。賢者というクラスだけで冒険者ギルドとしては優遇対象になるほどだ。
例え効果がなくとも、エレン嬢は合格だ。
俺は腕に残っている傷跡をジッと見ていた。
エレン嬢が魔法を使うと優しい光が俺の腕を包む。
温かい光だ……。
ふと傷を見てみると、傷が無くなっていた。
な、なんだと!?
古傷が無くなった!?
ちょっと待て、高位の神官でも古傷や部位欠損の修復は出来ない。そんな事が出来るのは……神に認められた聖女のみだ。
ま、まさか……エレン嬢は聖女?
「ギルガ、少しいいか?」
「ん?」
俺はギルガを呼び、エレン嬢の事を聞く。
「エレン嬢は聖女なのか?」
「はぁ? エレン嬢は領主の娘であって聖女ではないぞ? 教会とも関係なかったはずだ」
「そうなのか?」
「あぁ、確か聖女というのは教会関係者にしかなれないクラスだろう? エレン嬢はおろか、領主様達も教会とは無関係だったはずだ」
「そうか……」
となると、エレン嬢の力は隠しておいた方が良いかもしれないな。
教会に知れると厄介な事になりそうだ。
「分かった。エレン嬢は合格だ。今後はその力をギルドの為に使ってくれると嬉しい」
「はい」
とりあえずは問題は増えてしまったが、本題のレティシアだ。
「レティシアには地下訓練場にいる男を倒してもらいたい」
「殺せばいいんですか?」
「いや、武器は使うな」
「武器が無くても殺せますよ。例えば首を後ろまで強制的に回せば人は簡単に死にますよ?」
こいつは、脳味噌の中まで危険人物なのか?
「言い方が悪かったな。殺すな」
「死なない程度に痛めつければいいという事ですね。分かりました」
不安しかないが、もしもの時があってもドゥラークが死ぬだけだ。気にする必要もないだろう。
地下訓練場にはドゥラークだけがいると思っていたが、他の冒険者も面白そうだと思ったのか、見物に来ていた。
冒険者とは本来このような時間にはいないはずなのだが、本当に暇な連中だな。
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