7話 いとも簡単に行われるえげつない行為 カンダタ視点


 ドゥラークと対峙したレティシアは、ドゥラークをじっくりと観察しているようだ。

 ある程度の視線を読む事が出来るから、レティシアがどこを見ているかはだいたい分かる。こいつが見ているのは、鎧の隙間や鎧がない部分だ。

 ドゥラークの奴は軽鎧を着ているから、露出している部分が多いから、確認する必要はないと思うのだがな。

 まぁ、その事から推測するに、効率のいい壊し方を考えているんだろう。

 それに比べてドゥラークの奴だ。

 完全にレティシアを舐め切っている。いや、どうやって泣かせようかなんて考えているんだろう……、顔と一緒で頭の中が花畑になっているだろうな。

 

 間違いなく、お前が泣かされる側だと思うんだがな。

 万が一死ぬ事になるのなら、骨は拾ってやるから成仏して欲しいモノだ。


「おいおい!! こんな子供戦えってか? 俺はガキを虐める趣味は無いんだがなぁ!!」

「ぎゃははは!! ドゥラーク、虐めすぎて泣かすなよー」

「ドゥラークさん、勢い余って殺しちゃダメですよ」


 冒険者達もそれぞれが好きな事を言っているな。

 こいつ等の顔が戦闘が進むにつれ、どうなっていくか見ものと言えば見ものだがな。


「カンダタさん。この戦いに意味はあるのか? 意味がないんなら今すぐにやめさせるべきだ」

「意味ならあるさ……お前はレティシアが戦っているところを見た事があるか?」

「いや、無い」

「なら、一度見てみると良い。きっと、レティシアに対する見方が変わる」

「カンダタさんは、見た事があるのか?」

「無い。ただの予測で喋っているだけだ」


 ギルガは呆れた顔をしているが、そうとしか言えない。

 それに、俺が見たのは無表情で人を焼き殺している姿だったからな。

 レティシアには人を殺す事に罪悪感というモノがない。

 こいつがそうとは言わないが、人殺しを生業にしている連中は殺さないで痛めつけるという選択肢がない。ドゥラークこいつには悪いが、レティシアがただの殺人狂であるのなら死んでもらう。

 その時は、俺も責任を取ろう……。


「えっと、カンダタさんでしたっけ? この下品な人を殺さず痛めつければいいんですね」

「あぁ!? てめぇみたいなガキが俺を殺さずだと!? 殺せると思うんなら殺してみやがれ!!」

「良いんですか?」

「……ダメだ。ドゥラーク余計な事を言うな。お前はこれから、レティシアこいつと戦えばいいんだ。黙って準備をしろ」

「あぁ!! ギルマスだからって舐めるんじゃねぇぞ!! このガキをぐちゃぐちゃに殺して後悔させてやるぜ!!」


 ドゥラークの武器は斧か。

 レティシアが俺を見ているな。


「なんだ?」

「私は武器を使ってはいけないのに、アレは良いんですか?」

「武器を使われちゃ、危ないか?」

「魔法は使っていいんですか?」

「ダメだ。お前は炎魔法を使うんだろ?」

「いえ、初級魔法だけですが全ての属性・・・・・の魔法を使えますよ」


 初級だと?

 俺が十年前に見た魔法は……。

 ……!!?


 確かに、アレは初級魔法の《フレイム》だったのか!?

 こいつ、予想以上に危険だ……。


「これはハンデだと思ってくれ、もう一度聞くが相手が武器を使ってちゃ危険か?」

「いえ、面倒というだけで問題は全くありません」

「そうか……」

「おいおい、俺を相手にハンデってなんだ? お前等、俺を舐めるのも大概にしろよ!!」


 ドゥラークもいい感じで頭に血が上って来たな。


「ガタガタうるさいです。カンダタさん、早く始めてください。こんな下品な人と対峙していたくありません」

「あぁ、では……始め!!」


 レティシアが先に動いたな。

 これは、予想外だ。

 しかし、ドゥラークも斧を振り上げている。どうするつもりだ?

 

 と思ったが、戦闘が始まった瞬間、ドゥラークは一方的に攻撃される。


「ぐが!!」

「ごぶぅ!!」

「ぎゃあああああああ!!」

「げふっ」

「がっ……」

「はい、終わりましたよ」


 おいおい……。

 あまりに一方的過ぎて、見てるこっちが怖かったぞ。


 一撃目で鎧がついてなかった太ももを思いっきり蹴った事で、ドゥラークは立っていられなくなり、その場で膝を折った。

 顔が低くなったところで鼻っ柱に膝を入れて、ドゥラーク仰向けに倒し、斧を持った方の肩を踏み外した。

 鼻血を流しながら痛みで転げまわるドゥラークの首を掴み持ち上げて、こめかみを殴って失神させた……。

 流れるように正確に全ての攻撃が急所攻撃だった……。

 レティシアは躊躇いなく正確に攻撃していたな。


 冒険者達も何も言えないみたいだ。

 いや、今の戦い……と言っていいのかは知らないが、今のドゥラークの惨状を見て何か言える奴を見てみたい。


「あの、カンダタさん? 物足りなかったのなら、他にも冒険者がいますから、もう一度戦いましょうか?」


 レティシアがそう言うと、冒険者達は逃げる様に訓練場から出て行ってしまった。


「おかわりがいなくなってしまいました」

「もう試験はいい。合格だ。ギルガ、レティシアの戦い方を見てどう思った?」


 ギルガも今の戦いを見て何かを考えているようだ。


「実に効率の良い戦い方だな。全く迷いがなく、非力なレティシアには効率の良い戦い方だ」

「非力ではないぞ」

「何?」

「非力な人間に、ドゥラークほどの大男を片手で持ち上げる事が出来るか?」

「確かに、首を掴んで持ち上げた時は片手だった。それならば何故あんな戦い方を?」


 俺も気になった。

 本人に聞いてみた方が良いだろう。


「レティシア、一撃では倒せなかったのか?」

「無理でしたね。一撃で殺す・・・・・事は可能でしたが、一撃で殺さない・・・・・・・事は不可能でした」


 おいおい、一撃で殺そうと思えば殺せたのか……。

 こいつは予想を遥かに超えて危険だな。


「よし、今後の事を話し合うぞ。上に上がろう」

「これはこのままでいいんですか?」


 レティシアはドゥラークを小突くように蹴っている。


「構わん。生きているのならそのうち起き上がるだろう?」

「分かりました」


 俺達はギルマスの部屋に移動する。

 そして、一枚の書類をギルガの前に置く。


「ん? なんでオレの前にパーティ結成の書類を?」

「お前が二人の保護者になるからだ」

「何? オレは冒険者を引退したんだぞ?」

「お前の知り合いだ。お前が責任を持て。それに、今でも体を鍛えているのだろう?」

「確かに鍛えているが……」

「レティシア、エレン嬢、ギルドカードを見てみろ。お前達のランクが書かれているはずだ」

「そうなのですか?」

「あぁ、さっきお前ら二人を冒険者名簿に登録して来た。登録する事で自動的にランクが書かれる。それで晴れて冒険者の仲間入りだ」

「そうですか」


 エレンは賢者だが、Dランクくらいだろう。レティシアは正直どうかが分からんな。


「エレンはなんて書いてありますか?」

「私はクラスが賢者でBランクですね」

「なんだと!!?」


 ギルガの奴もペンを落としているじゃないか。

 新人でいきなりBランクなんて初めて聞いたぞ。

 本来はGランクから始まりAランクが最高の冒険者だ。まぁ、正確に言えばもう一つのランクがあるのだが、それはないだろう。

 しかし、エレン嬢はBランクか……。


「エレン嬢は将来有望どころか、パーティ加入申請をすれば色々なパーティから超好待遇で誘いを受けるだろうな」

「そうなんですか? 困りますね。エレンは私とパーティを組む予定なんですがねぇ」

「うん。私はレティとパーティを組むよ」

「安心しろ、そのつもりだ。ただ、保護者としてギルガにも冒険者として復帰してもらう」

「そうなんですか? ギルガさんは強いと思っていましたが、冒険者だったんですね」

「あぁ、クラスは剣聖でAランクだ」

「そうなんですね」

「レティのランクは?」

「私はクラスは神殺し、Sランクです。Sってなんですか?」

「Sランクか……納得と言えば納得だな」


 ギルガも納得しているな。

 俺はレティシアにSランクの事を説明してやる。

 Sランクとは、Aランク相当の実力を持ったギルドにとって問題と判断した場合に付けられるランクだ。

 ちなみに、これはギルマスが設定したうえでAランクの判定が出た時にSランクに切り替わる。


「問題児とは失礼な話です」

「え、えっと……」

「私は子供ではありません」

「怒っているのは、そっちなんだ……」


 ギルガから書類を受け取り、二人の冒険者登録が終わった。

 ギルガに保護者を任せたが、俺も陰ながら見守る必要がありそうだな。

 エレンという賢者を得たのは思わぬ収穫だったが、それと同時にレティシアという、いつ爆発する爆弾を抱え込んだ気分だ……。

 まぁ、この二人を見守るのはギルガに頑張ってもらおう……。

 

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