4話 セルカの町


 名前も知らないあの町から逃げ出して一週間、ようやく近くの大きな町へと辿り着きました。

 エレンが言うには、この町の名前はファビエ王国近くのセルカの町というそうです。どうやら、元いた町とは違う国の町に来てしまったようです。

 この一週間、エレンを抱きかかえて走ったりしましたから、随分と遠くに来たようです。

 この町は大きな町で逃げてきた名も知らない町の数倍の大きさはありそうです。

 これだけ大きな町ならば、私達が紛れても大丈夫でしょう。

 ここでギルドカードを手に入れてもっと遠くに行きましょう。


 私達が町に入ろうとしたら、町の入り口にいた門番に止められてしまいます。


「邪魔ですね。殺しますよ」

「レティ、ダメだよ。門番さんはお仕事をしているだけなんだから」

「そうですか?」


 エレンがそういうのであれば……そうですね。納得する事にしましょう。

 確かに、町に変なのが入らない様に見張るのが門番の仕事ですから……変なのって私達の事ですか?

 私が変なのは自覚していますけど、エレンは変じゃないですよ。


「嬢ちゃん達、姉妹かい? 町に入るのならば市民カードを提示してくれないか?」

「あ、はい」


 エレンは自分の道具袋から何かのカードを取り出します。そして、門番さんに見せると「通っていいよ」と言ってもらえます。

 私はあんなカードは持っていませんよ?


「ほれ、小さいほうの嬢ちゃんも見せて」

「そんなもの持っていませんが?」

「「え?」」


 アレ?

 エレンも驚いていますね。何故でしょうか?


「レティ、市民カードを持っていないの?」

「はい。生まれて初めてそのカードの存在を知りました」


 私の人生はいろいろな町から逃げてばかりの人生でしたからね。普通に町で暮らした事はありませんでしたから。


「嬢ちゃんは犯罪者なのか?」

「犯罪者? 違うと思いますよ。憲兵さんに追いかけられた事はありませんから」

「確かに、犯罪をするには幼すぎるか……こんな小さな子が人殺しな「人を殺した事ならありますよ。手っ取り早くお金を稼ぐならば、盗賊などを殺した方が早いですから」……なに?」


 門番の顔が険しくなります。

 エレンも少し顔を青褪めさせていますね。

 私は素直に話をしただけなのですが、何がいけなかったんですかね?


 私は門番に連れられ、小さい家に連れていかれます。エレンも一緒です。

 門番と対面になるように座らされます。


「なんですか?」

「嬢ちゃんは、本当に人を殺した事があるのか?」

「はい。ここに来る前にも七人ほど殺してきましたよ」

「何故そうなったのかを説明できるか?」

「何故ですか……邪魔だったからですかね?」


 エレンと逃げようとしたところを邪魔をしてきたわけですから、それ以外に言いようがありません。

 しかし、ここでエレンが話に入ってきます。


「あ、あの。ここに来るまでの事情を話します」

「うん? お姉さんの方だね。何かあったのかい?」


 エレンは名も知らない町で起こった事を説明しています。

 テ、リ、ト、リ、オ……あの町はそんな名前の町だったんですね。六年間住んでいましたけど初めて知りました。まぁ、そのうち魔物に滅ぼされますからどうでも良いですけど。

 エレンは必死に私の事を説明してくれます。私の事をここまで知ってくれているのは嬉しいですね。

 私はついついニヤニヤしてしまいます。


「この子は反省しているように見えないが? 笑っているし……」


 二人が私の顔を見て呆れています。何故でしょうか?


「まぁ、殺した相手が冒険者や野盗である以上、俺からは何も言えないな。今から冒険者ギルドに連絡するから少しこの部屋で待っていてくれ」


 そう言って、門番は外に出ていきます。


「他の町に入るには、こんなに面倒くさい事をしなきゃいけないんですね」

「うん。それにしてもレティって今までどうやって町に入っていたの? テリトリオの町でも市民カードの提示はしていたはずだよ?」

「え? 壁を乗り越えて入っていましたけど?」


 テリトリオの町は魔物の森の近くという事もあり、壁に囲まれています。

 きっと、私が来るまではその壁で魔物の侵入を防いでいたんですね。でも、私が来てからの六年間は魔物が来なかったので随分と老朽化したようですから……いえ、一部私も壊しましたから、もう魔物の侵入を防ぐ事は出来ませんね。それどころか壁のせいで自分達の逃げ場も無いんじゃないですかね。ざまぁみろです。


「そうか……私がレティの家に行くときによく使っていた穴はレティが開けたんだね」

「はい。私が開けました。というよりも殴ったら壊れましたよ」


 私がそう言うと、エレンが呆れた顔をしています。何故ですかね?


 暫くすると、知り合いのおじさんが入ってきます。


「レティシア、エレン嬢!!」

「あ、ギルマスさんです」

「え? あ、ギルガさん!! テリトリオから出ていたんですか!?」

「二人とも無事だったんだな。レティシアの異常な強さは知っていたが、エレン嬢の事は本気で心配だったんだ」


 ギルマス……いえ、今はギルマスではないのでギルガさんとお呼びした方が良いでしょうか、彼は冒険者ギルドを使って私達の事を探そうとしていたそうです。

 偶々、武器屋のおじさんがこの町に娘さんがいたらしくこの町に来たそうです。


「しかし、レティシア……お前のあの話は本当なのか?」

「何の話ですか?」

「人を殺したという話だ」

「本当ですよ。本当は七人ではなくテリトリオの町に来る前にもっと殺しています」


 ギルガさんは私の言葉にショックを受けている様です。

 そんなギルガさんの肩を叩く人がいます。ギルガさんも大きな人ですが、この人も大きな人です。


「嬢ちゃん、冒険者を殺したと言ったな」

「はい。襲って来たので殺しました」

「そうか……詳しい話を聞きたい、ギルドへと来てくれるか?」

「町に入っていいのでしょうか? もし、ダメだというならエレンだけでも入れて保護してあげてください。私は元々どこでも生きていけますから」

「ダメだ。こっちの嬢ちゃんよりもお前の方が重要人物だ。危険人物は俺と来てもらう」


 誰が危険人物ですか。

 ギルガさんではない方の大きな人は強引ですね。

 でも、この人はかなり強いです。


 私達はテリトリオの町のギルドよりも大きな建物へと案内され、綺麗な部屋に通されます。


「さて、まずは自己紹介をしておこう。俺はセルカの町の冒険者ギルドのギルドマスター《カンダタ》だ。さて、詳しい話を聞こうか。冒険者が襲ってきた時の状況を聞かせてくれ……」

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