2話 追手が来ましたか……殺しますけど。


 私はエレンの手を引き歩きます。


「大丈夫ですか?」

「うん。ごめんね、足手まといで」


 昨日まで普通の少女だったエレンに魔物が蔓延る森を普通に歩けというのも無理な話です。

 私の家の周りは私の気配を残してありますので魔物が近付く事はありません。が、今歩いている場所は魔物は普通に襲ってきます。


「足手まといなんて思っていませんよ。昨日の夕方からずっと歩きっぱなしなんです。少し休みましょう」

「でも……」

「大丈夫です。ここは森の奥地。こんな所まで町の人間はこれやしません」


 しかし、冒険者なら来れるかもしれませんが、あの町にはそれほど優秀な冒険者はいないはずです。


 私は近くにいた狼系の魔物を狩って、解体します。

 今日の晩御飯はお肉です。いえ、私の場合は毎日お肉だったんですけどね。


 焚火を二人で囲み、お肉を食べながらこれからどうするか考えます。


「遠くの町に行きたいですが、転移魔法など使えませんし、一番いいのは近くの町で冒険者登録をする事でしょうか。そして徐々に遠くの町に移動しましょう」

「……うん。私はレティが一緒なら、何でもいい」

「はい。ずっと一緒です」


 しかし、気になるのが町の連中です。

 領主を殺したとなると、国は黙っているのでしょうか。

 そこのところは良く分かりませんが、あの町が滅びるのは時間の問題・・・・・ですので、どうでも良いと言えば良いんですが。

 

 私はエレンに眠るように言います。エレンは「大丈夫」と言っていましたが、眠気でフラフラになっていました。

 エレンは昨日の夕方からまる一日寝ていません。

 私は三日くらい寝なくても大丈夫ですが、エレンは普通の少女です。一日でも辛いでしょう。

 私は見張りをすると言って、エレンに寝て貰います。


 エレンは結構頑固で「大丈夫」と何度も言っていましたが、五分後には寝息を立てて寝ていました。

 私はこの場所に強力な殺気を残しておきます。これでこの場には魔物は近付かないでしょう。

 私はエレンを一人置いて、元来た道を戻ります。


 暫く歩くと、馬が駆け寄ってくる音が聞こえます。

 そして馬に乗ったフードをかぶった怪しい男が私の目の前で馬を止めます。


「見つけたぞ。お前がエレン嬢を連れ去った誘拐犯だな」


 馬に乗った男は私を見てそう言い放ちました。

 普通に考えれば、夜の森で私くらいの少女を見て誘拐犯だというでしょうか?

 おそらくですが、町の連中に雇われた冒険者でしょう。


「何の事ですか? 私はこの森で迷っているだけですが?」

「くくく……お前等、出て来い」


 木々の陰から三人出て来ます。全員ローブを着ているので性別すら分かりません。

 いえ、恐らくは男でしょう。


「まぁ、いいや。エレン嬢を味見・・する前にお前で楽しませてもらうとしよう」


 味見?

 この人達は食人の趣味でもあるんでしょうか?

 まぁ、冗談は置いておいて……。


「という事はなんですよね?」

「ぎゃははは!! お前なんて敵ですらねぇよ!! お前は生贄の前の前菜でしかない!」


 前菜ですか……。

 上手く言っているつもりなのでしょうが、面白くありません。


 馬に乗った人達は、馬から降りローブを脱ぎ捨てます。

 姿形から、冒険者一行というのは良く分かります。

 剣士に戦士に魔導士に僧侶と言ったところでしょうか?

 だけど気になるところがあります。


 いえ、今はそんな事どうだっていいです。


「四人に勝てると思っているのか? そう言えば、お前の家に行った三人はどうした?」


 三人?

 あぁ、あの三人ですか。


「殺しましたよ」


 私は、そう言った直後に戦士に詰め寄って、胸鎧の部分を殴りつけます。

 私の拳は、鎧を砕き戦士は胸を殴られたので息が出来ないのか前に倒れてきます。私は戦士の首を殴り上げます。

 これで首の骨が折れるはずです。人間、首の骨が折れればほぼ死にます。

 戦士はそのまま後ろに倒れ、ビクンビクン痙攣しています。

 ちゃんと折れていてよかったです。

 次は魔導士です。

 戦士に何があったのかを理解出来ていないうちに殺してあげましょう。

 

 私は魔導士の顔の前に手を当てます。

 たとえ初級魔法でもゼロ距離で使われれば、死ぬでしょう。

 

「え?」


 それが魔導士の最期の言葉でした。

 魔導士は私の生み出した炎に飲まれてしまいます。それを見た僧侶が逃げ出そうとしています。

 いやいや、逃がすわけないでしょう?


 とはいえ、逃げるのを追いかけるのも面倒です。

 彼にはシンプルに死んでもらいましょう。


「ひぐっ!!」


 首にナイフが刺さりました。これで死ぬでしょう。

 僧侶はその場に倒れ、戦士の様にビクンビクンしています。

 この光景は何度見ても面白いですね。


 最後に残った剣士は、一瞬のうちに仲間を殺されて呆然としています。

 さて、この人には色々吐いて貰いましょうか。


 私は剣士の胸鎧を殴り砕きます。すると剣士は剣を捨て土下座をしています。


「すいませんでした!! い、命だけは助けてください!!」

「そうですねぇ。いろいろ聞きたい事もありますから、いろいろ話してください」

「ば、ばい」


 剣士の顔は涙でぐちょぐちょです。

 まぁ、他の彼等と違って、少し長く生きれるだけですけどね。


「まず聞きましょう。誰の差し金ですか?」

「や、雇い主は神官長です。な、なんでもエレン嬢を勇者様に捧げなければいけないと……」

「そうですか。何故エレンに固執するのですか?」

「そ、それは……」

「わざわざ、領主様達まで殺してでもエレンに固執せねばいけなかったのですか?」

「そ、それは……」


 私は剣士の顎を蹴り上げます。


「ぎゃはぁ!!」

「さっきから、それは……しか言っていません。ちゃんと、答えてください」


 剣士は再び涙を流し始めます。

 もしかして、素直に話せば生かしてもらえるとでも思いましたか?

 残念です。

 一度でもエレンに牙をむいたのであれば、生かしておくわけがないじゃないですか。


「さぁ、答えてくださいね。何故エレンに固執するんですか?」

「そ、それは……勇者様が女好きで町一番の美人を性奴隷にすればきっとこの町は勇者の加護が……そもそも、この町は魔物に襲われない町だから、特別だって……」

「そうですか……」


 まぁ、予想は出来ていましたが、魔物に襲われないのが神の御加護・・・・・と思っている時点で勘違いなんですけどね。

 あの町にはエレン家族がいました。

 だから……。


 私があの町に魔物が来ないように仕向けていただけです。

 だから、エレン家族がいなくなり、エレンがいなくなった町には、これからは魔物が押し寄せるでしょう。今この場所にいる森の魔物が。


 耳を澄ませば、町へと餌を求める魔物の咆哮が聞こえてきそうです。

 さて、最後・・の質問をしましょうか。


「何故、貴方達の下半身は鎧をつけていないのですか? 足というのは戦闘で守るべき大事な場所です。そこを傷付けられたら、逃げる事も攻撃を避ける事も出来ません。貴方達は別にそこまで強いという訳でもありません。何故、具足や腰回りの鎧を身につけていないのですか?」

「あ、あ、い、いや……」

「あ、答えなくていいです。どうせ下衆な理由でしょう。じゃあ、さようならです」


 私は剣士を焼き尽くします。

 ちゃんと約束は守りましたよ。他の三人よりは長く生きれたでしょう?

 私は剣士の使っていた剣を持ちます。

 ふむ。あまり強くなかった割には良い剣です。


 私は冒険者達の所持品を物色した後、エレンが眠っている場所へと戻ります。

 エレンは何も気づかず眠っている様です。

 この寝顔……癒されますね。

 

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