ヒトヨ様

その一週間後、海風が消え、そのもう一週間後、環奈が消えた。

残ったのは、私と菫だ。

菫はやけに落ち着いている。


「ぉ・・か・に・・が・・した。」


昨日、夜にスピーカーの放送のチャイムに混じって聞こえてきたのがこれだった。

夏実が消えたのと、何か関係があるのかも。

菫は環奈が消えたあの日私にそう言ったのである。

悩んだ末に、あの神社へ戻ってみることにした。












日は陰り、日光を木々の枝が遮って、それは一種の雲のように思えた。

しかし、その雲の隙間から光が漏れ出ており、それが目に当たると、眩しく、視界が真っ白になった。

二人は、何かヒントはないかと神社の看板とにらめっこをしている。

最初に読んだ通りの内容だ。

取り合えず、本堂へ上がっていき、周囲をぐるりと回る。

何もない。

再度下に降りると、おばあさんが看板をじっと見ており、足音でこちらに気が付いたのか手招きをしている。

二人は目を合せ、そちらに向かうことにした。


「お嬢さんたち、一夜様に厄を払ってもらいに来たのかい?」

「え、ここって願いを叶えてくれる神社じゃないんですか?」

「ここにはこう書いておるが、実際は違うんだよぉ。」

「どんなのですか!」


食いぎみにおばあさんに訪ねると笑いながら、近くのベンチに案内され、腰を掛けた。


「私の祖母に小さい頃よか聞かされた話なんだけどね、遠い昔はひとよさまは、一に夜を書いて一夜ではなく、人に世間の世と言う漢字を書いて人世様外読んだそうなんだよ。何でかと言えばその神様は人の厄を代わりに受けてくれる厄代りをしてくれる神様だったからなんじゃ。本堂に行く道の近くに六つ、灯篭があったろう。あれは自分が来た事と自分に厄がある事を伝えるためなんじゃ。そして、本堂の神様に自分の厄や罪を懺悔してそのを消していく。それがここの参拝の仕方だったんだよ。でも、あるときこの一帯の村が飢饉の襲われた。人々は四人の寺の子供にこの神社へ行かせる事にした。神様に怒りを沈めてもらうように頼むために。ただそれも上手く行かなかった。一人ずつ子供が消えていった。それも、存在が。結局、四人ともいなくなってしまった。それが話の本末じゃ。」

「そうなんですか。」


さっきの最後。

存在事態が消えたって、今の状況と同じだ。

おばあさんに礼を言い、下山する。

もう遅いと言うことで、二人は別れた。












雑音に混じった声。

無機質に聞こえる声。


「お迎えにあがしました。」


その声は異質で、妙に違和感があった。


午前0時。宿題が終わり、遅めの風呂から上がった後、一人の自室で聞こえた声。

一瞬にして体が固まる。

まだエアコンを入れていないはずなのに、入れて時間がたった部屋のように涼しいを通り越して寒い。

遮光カーテンを開け、外を確認する。

いない。

ただ、月の光がいつも以上に眩しく、ガラスに写った奥の存在を私に教えてきた。

振り替える。

黒い靄に白い点が二つ左後ろに居た。

それは、棚の影から身を出し、こちらへ向かってくる。

腰が抜けて、立てなくなり、その場に座り込む。

声は出ない。

助けを呼ぶことができれば良かったのだが、声が全くと言っていいほど出てこない。

足も一向に回復しない。

とうとう、それは目の前に立っていた。

何も出来ず呆然とそれを見ていると、手らしきものをこちらに差し出してくる。

何もせずに見ていると、一回手を上下に振ってみせる。

握れ、と言うことだろうか?

さっきの不安や恐怖はどこかに消え、それに手を伸ばす。

少し躊躇したが、それに触れると場面が切り替わる。

冷くて固い感触。

月明かりに照らされ見えるのは、

焦げ茶色の色に波打つ黒い木目。

賽銭箱は所々苔が生え奉納と書いてあった面影がうっすらと残っている。

あの神社だ。

黒いそれはあっちと本堂を指差す。

本堂の扉が開いていた。

扉に手をかける。

暗くて何も見えない。

目を細め凝らしても神棚のようなものしか見えない。

いきなり押されてつんのめる。

踏みとどまろうとするがそこには床がなかった。

落ちる!

暗闇に吸い込まれていく私を除きこむそれは何処か笑ってるような気がした。

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