タネアカシ
「いったぁ・・・」
背中をさすりながら回りを見渡す。
落ちてきたはずなのに青空が見え、細めの薄い雲が太陽らしきものの前を通っていく。
地面には全体的に黄緑色の草や白、赤、黄色など、色々な花が咲き誇り、生い茂っている。
私の居る左側には光に当たって光る湖が。
ここから赤く小さな物が触れて泳いでいるのがわかる。
多分金魚だろう。
四方八方木が立ち並び、ここ一帯を囲い混んでいる。
「やあ、こんにちは。」
正面にある祠の上に座る白髪の男の子に笑顔で声をかけられた。
白髪の髪。
赤く少し黒く濁った目。
白いじんべえさんに菊のような模様が光に当たって薄く浮き出る。
背は自分の肘辺り。
ざっと見積もって小学校六年生位だろうか。しかし、口調は大人っぽく、子供のような無邪気さは影に身を潜めているように感じる。
ただ、人に向ける明るく目を凝らしても汚れの一切を見せないその笑顔は、子供その物だった。
こちらに向き合って、祠の屋根にあぐらをかいて座っている。
「人が来るなんて珍しいね、どうやってここに来たの?」
「黒い変なのに連れてこられて。」
「へぇー。」
「それよりここどこですか?」
「神域って言っても分かんないかなぁ。神様がすんでる場所だよ。でも、その黒いのが連れてくるなんて、何かあった?」
「実は、友達が一人を残して全員消えちゃってて。」
「・・・その子達とここに来た?」
「はい。」
「何人?」
「四人です。」
「一人ずつ、それとも一気に?」
「・・・一気に、です。」
「ここのお話は知ってる?」
「はい、ある日、四人の村人が一夜様に願いをしに来て全員消えちゃうって話ですよね。おばあさんからは厄代りだったとかって聞きましたけど。」
「そうか、でも本当の話は一寸違う。此処は元々厄代りの神社だったってことはあってる。だけど、その四人が来た時代にはもう"願いが叶う神社"って事で通っていた。で、毎日、誰かが願い事をしに来る。この神様は元々厄代りの神様だったから最初はそんな力はなくただ精々厄を払ってあげることしかできなかった。でも、言葉って怖いね。段々と神様は願いを叶えてあげられるようになっていった。でも、元々は違う役割の神様だったから、本職の神様よりかは力がなく一週間に一人叶えるので精一杯だった。神様自身とても嬉しかった、人の役に立ててることが。けど、それがいけなかった。くどいようだけど、元々厄代りの神様。人の厄を代わりに持って浄化することが神様の仕事だった。でも、願いを叶えると言うものを会得したお陰で今度はその担った厄を浄化できなくなってしまったんだ。気付いた時にはもう遅くその年、自分に溜まった厄が一気に爆発。その厄が村に降り、その瘴気で土が悪くなり、作物が育たなくなり、そのお陰で米を納めるのがぎりぎりで自分達が食べる物がなくなり、その結果、飢饉が起こった。そこに四人の村人が現れた。一人は、作物を隣町から帰るだけの富を。一人は、恋人と自分の幸福を。一人は、餓死した想い人への再会を。一人は、この村をこの飢饉から復興出来る力を。神様は考えた。全員の願いを叶えて上げたいが、自分の力は弱い。何よりこの意思を伝えることが出来ない。考えて考えた末、神様は自分で作った使いを四人の村人へ送り、意思を伝えてもらおうとした。だが、それは上手く行かなかった。いきなり現れたそれに畏怖嫌悪し、一人は弓矢殺そうと、一人は逃げて、一人は僧、陰陽師等を集めて使いを来ないようにした。使いであってもそれは元々神様の一部。神様を拒否することはそこから貰った恩恵を蔑ろにするのと同義。結果、弓矢殺そうとしたものは、その矢が跳ね返り、逃げたものは、近くにあった谷に落ち、使いを来ることを拒んだものはその呪詛が跳ね返り死んでしまった。それを悲しく思った使いはその物の存在事態を隠し、この世に居なかったことにした。残った後一人は使いを受け入れ、神様の元に向かった。神様は人の厄と馴れないことをしたせいで厄の効果が悪化。邪神になりかけていた。それを見た村人は『貴方の役に立てることはありますか?』と聞いた。それを聞いた神様は、その村人がいいのならと神様の権限を全てその子に付与し、自分は使いを依り代に生きた。それがこの神社の真実だよ。長く、なっちゃったね?」
「いえ、大丈夫です。」
「それよりさっきの質問になっちゃうんだけど、ここには四人で来たんだよね?」
「はい。」
「それなら可笑しいことがあるんだけど、さっき一週間に一人ずつ叶えられるって言ったんだけど、四人だとしたら君と君の友達三人で君だけしか残ってない計算になるんだけど、後もう一人って、誰?」
その声と共に周りの空気がどっと下がる。
太陽は雲に身を隠し、枝は目に分かるぐらい左右に揺れ、生えたばかりであろう葉は元の枝が恋しそうに近くを浮遊し、風がそれを何処かへさらっていく。
近くでケタケタと笑い声が聞こえる。
最初は遠くの森の奥からだと思ったが、違う。
足元からだ。
怖くなってふらつく足で後ろへ下がる。
黒いどろどろとしたものが自分の影から湧き出て、にじり寄ってくる。
「どうやら、君の見ていた友達の一人は偽物だったらしい。可笑しいと思ったんだよね、だってここに前の神様が居るし。」
にゃあと鳴いて青い首輪に鈴のついた黒猫が男の子の後ろから顔を出す。
「確かに、四人で来たのは知ってる。でも、迎えに言ったら全員居なかった。それにその子がいた気配があったその場所には、腐った肉の臭いがした。その上で君のさっきの発言。合点がいったよ。」
肩を叩かれ、自分の背の倍は在る程に吹き出した黒いものから、男の子に目線を移す。
「おつかれさま、本当。」
どちらに言ったのかは分からない。
次の瞬間、視線からそれは消えていた。
まるで、さっき見ていたものが幻だったように。
「さっきのは僕らに恨みを持った輩の念かな?神様の使いを拒否して、神様に見放されて死んだ人たちの。まぁ、否定したのはあの人たちだから自業自得なんだけどね、本当。さて、さっきの話の後日談をしよう。神様に成り代わった男の子は在る案を考えた。浄化する役と願いや厄を引き受ける役。だから、僕は浄化役に、この黒猫、前の神様が願いや厄を引き受ける役になった。それでこの町は成り立ってる。でも、全てが全て僕たちの監視下に在る訳じゃない。当然抜け目もある。」
「それじゃあ・・・」
「皆、多分君達のお友達はあいつに騙されて、もう腹の中だったと思うよ。」
「じゃあ、じゃあ、何で消したんですか!」
「取り出せたなら取り出した。でも、最高でも3日。じゃないと、取り出したとしても、骨だ。生きてない。」
「そんな。」
ただ後悔だけが責め立てる。
もう少し、早く気づいていれば良かった。
もう少し、早く。
「後悔しても仕方がない。無くなってしまったものはもう戻らないよ。後の祭り。戻れない・・・ただ、なんの対策もしてなければだけど。」
「え?」
「君の願いって、"夏休みを初めからやり直したい"と"四人で一緒にいたい"だったよね?最も前者は炎を消す前に、本堂に戻ってお願いしようか迷って、結局止めたみたいだけど。今なら出血大サービスで二つとも叶えてあげられるよ。僕らの監視下に届いてなかったのもあるし。そこら辺の守りが甘かったのもあるし・・・どう?」
「どうって。」
「このまま全てを忘れて一人でここを生きるか、過去に戻ってやり直すか。まぁやり直すにしても色々とリスクが着いちゃうけど。」
「リスク、あるんですか?」
「あるに決まってるじゃん。過去に戻すのも楽じゃ無いんだよー。もしそれを選んだ場合は、ここまでの記憶は全て無くなる。あの子達が居なくなったことも、経緯も、何もかも。本当に一からやり直し。これはルール。過去に未来の記憶を持っていくのは駄目なんだ。それ以外だったらまぁ許容される。だから、また同じ過ちを繰り返すかもしれない、また同じ苦しみを味わうかも。それでもいい?」
少し迷った。
同じ事を繰り返すかもしれない。
また同じ苦しみを味わうかもしれない。
そうあのこの口から聞いたとき、迷う。
もしかしたら、ずっと見境無くこの現状を繰り返す。
そんなことをしてしまえば、終わりのない堂堂巡り。
でも、やるしかないと思った。
堂々巡りになるのも嫌だが、皆を忘れて生きていく方が、寂しい気がしたからである。
「お願いします、願いを叶えて下さい。」
「分かったよ、今度は上手くやってね。」
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