第162話 そうして賞金稼ぎ達の日常へ

「ほえ~。とんでもないな」

「魔法庁の術式ってこんなにエグいものだったのかよ……」


 セランの背中に乗ったユウタスとアレサは、封印術式の威力にただただ目を丸くする。一緒に背中に乗っていたアコは、へたり込んで何も喋れなくなっていた。

 術式の発動直後、セランが3人を乗せて魔都から退避していたのだ。それは本当にギリギリのタイミングだった。


 かつて魔都があった場所をしばらく周遊していた白龍はゆっくりと地上に下降し、3人もそこでタイミングを見計らって地面に飛び降りる。

 背中の冒険者達がいなくなって身軽になったところで、セランは優しい眼差しで3人を見つめた。


「今回は協力してくれて有難う、とても助かったよ」

「セラン、あなたはこれからどうするの?」


 アレサは真剣な顔で白龍状態の彼を見つめる。セランは慈愛に満ちた表情で、人間の少女剣士に微笑みかけた。


「俺のここでの役割は終わった。だから帰るさ」

「帰るって、やっぱり……」

「ああ、帰るべき場所だ。ま、また何か指令が下れば地上にも顔を出すかもな」

「じゃあ、さよならなんて言ってやんないんだから」


 アレサは強がってぷいと顔を背ける。その様子を見たセランは満足そうな表情を浮かべると、ゆっくり体を持ち上げた。そのまま上空に顔を向け、螺旋を描くように上昇していく。


「はは、それでこそアレサだ。じゃあ、またな!」


 やがてセランはどこまでもどこまでも高く飛んでいき、ついに完全に見えなくなってしまった。きっと白龍族の故郷である天界に帰っていったのだろう。3人は命の恩人が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

 そうして、最後まで見ていたアレサの頬には一筋の涙が――。


「セラン……」

「大丈夫?」

「へ、へーきへーき! この仕事やってりゃ、またいつか会えるだろ!」


 アコに心配されたアレサは、精一杯の作り笑顔とガッツポーズで精一杯の元気アピールをする。その様子を見たアコとユウタスは、いつもの彼女だと安堵したのだった。


 こうして、1人の被害者も出す事なく魔都は消滅し、大陸に平和が戻ってくる。その後、アレサ達は魔法庁に抗議に向かい、たっぷりと慰謝料をふんだくる事に成功。

 その日の夜はそのお金で高級レストランを貸し切ってパーティーを開き、何時間も派手に騒いだのだった。


 魔都で多くの冒険者を助けた事で3人はすっかり有名人になり、ギルドでも率先していい仕事を回してくれるようになる。アレサ達3人はギルドで割の良い依頼をこなしつつ、充実した日々を過ごしていくのだった。



 気ままな賞金稼ぎ達の冒険譚は続いていく。今日もまた、ギルドには新しい冒険者が未知なる冒険に胸を膨らましてドアを開けるのだ。


「さあ、今日から僕の伝説が始まるぞ……」



(おしまい)

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