第159話 セランとの再会

 その頃、アレサは本来の目的である、まだこの魔都にいるかも知れないセランを探し回っていた。


「セラーン! どこーっ?」


 アコのように魔法で感知する術もなく、ユウタスのように空も飛べない彼女は、戦いの痕跡を探して地道に地上を走り回る。今、その争い合うふたつの存在が巨大な龍体になって、上空で激しく戦闘を繰り広げている事を知らないまま。

 アレサはずっと自分の目線のみに意識を払っていたため、上空の戦いの余波で目の前の高層建築物がいきなり破壊されるだなんて全く想定していなかった。


 この捜索中に突然の激しい破壊音が鳴り響き、ようやくアレサはその音のした方向に顔を向ける。見上げた彼女の目に映ったのは、ものすごい勢いで落下してくる破壊された瓦礫の塊だった。


「キャーッ!」


 降ってくる瓦礫の量から逃げ切れないと悟ったアレサは、ただ大声を出す事しか出来ない。もうだめだとしゃがみこんだ彼女は、やがて来る死を受け入れた。

 やり残した事が頭の中でぐるぐる駆け巡りながら、いつまでのその時がやってこない事にアレサは疑問を抱き始める。


「……あれ?」

「大丈夫か?」


 聞き慣れた声に顔を上げると、そこにあったのは瓦礫を体に乗せて優しい表情を浮かべる白龍の姿。彼女が気付いたところで、白龍は身体に乗っていた瓦礫の山を勢い良く振り落とした。

 アレサはこの状況に驚きながらも、確かめるように記憶にあるその声の持ち主の名前を呼んだ。


「セラン?」

「ああ。だが何故戻ってきた? ここは……」

「早く避難して! この魔都はまた封印される!」


 感情のままに彼女は声を張り上げる。こうして、アレサは戻ってきた目的を果たす事が出来た。その必死の訴えを聞いたセランは目を細くする。


「なるほど、そう言う事か。有難う、教えてくれて」

「だから早く避難を……」

「……けど、あいつをこのままにはしておけない!」


 セランはぐいっと体をひねると、今まさに攻撃を仕掛けようとしていた巨大な黒い竜に向き合った。


「最後の別れの言葉は伝え終わったかよ、セラン!」

「グーヴ! お前との決着、今ここでつける!」

「あ、アレがグーヴ? 生きてたの?」


 アレサが呆然とする中、ふたつの超常的存在の戦いは再開される。セランは攻撃の余波がアレサに及ばないようにすぐに現場を離脱。その彼に向けて黒竜が大きく口を上げてブレスを吐き出した。その口から放たれた黒炎を白龍は空間防壁でしっかりガードする。そのバトルを目にしたアレサは、きっと今までずっとそう言う攻防を続けてきたのだと一瞬で理解した。

 上空での派手な戦いは続き、それに引寄せれられるようにアコ達も現場に到着する。そこで2人は戦いを見守るアレサと合流した。


「あ、アレサ! おーい!」

「ユウタス? アコ?」

「良かった。やっと会えた。全く、迷子になるのはアコだけで十分だよ」

「そうですよ! 私のお株を奪わないでください」


 ようやく3人が揃った事で、みんなで軽く笑いあう。ただし、状況が状況でもあったため、和やかな雰囲気は一瞬で切り替わった。

 上空の激しい戦いを見つめながら、ユウタスがアレサに説明を求める。


「で、一体これはどう言う状況なんだ? あの龍は一体?」

「えっと、あの黒いのが悪魔で、戦っている白いのがセランなんだ」

「なるほど、2体とも本来の姿になっているのですね」


 アコは大体の事情をアレサの一言で把握する。そんな察しのいい彼女の言葉を聞いたアレサはくるりと身体の向きを変え、両手をその肩に乗せた。


「頼むアコ、何とか出来ないか? セランを助けたいんだ」

「えーっと……」


 この突然の申し出にアコは困惑する。頼み込むアレサの目は真剣だ。そこでアコは顎に指を乗せて、何か出来る事がないかを考え始めた。

 うつむいて思考を巡らせていた彼女は、あるアイディアを思いついて顔を上げる。

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