第152話 圧倒的な力の差

「雑魚がどれだけ相談したところで無駄ァ! これで終わりだよ!」


 3人に向かって正確に撃ち出された魔力波。それはさっきアレサを攻撃したものと同じものだ。全く同じ攻撃ならさっきアレサを守った結界が役に立ってくれる。アコはカロの魔法を目にして、それを防いだ後の攻防をシミュレーションしていた。

 その様子を目にした伝説の魔女の顔がぐにゃりと歪む。アレサはその形相を目にして、考えて事をしているアコの肩を激しく揺らした。


「あいつ、何か企んでる! やばいよ!」

「私の結界なら、あの手の攻撃は無効化出来ます。それより……」


 自分の結界に絶対の自信を持つアコは、焦るアレサの訴えに耳を傾けない。カロの魔力波は結界に接触し、さっきと同じようにそのまま亜空間に消え去る――かに見えた。

 しかし、接触した瞬間に魔力波は結界の空間組成に干渉し、その位相は中和され、結界自体の存在が段々と不安定になっていく。自慢の結界の異常を感じ、そこでようやく想定外の出来事が起こっている事を自覚したアコは、その顔をどんどん青ざめさせていった。


「え、嘘? 結界が溶ける?」

「私を舐めるんじゃないよ魔女もどきが! 仕組みが分かればいくらでも対策出来るんだよ!」


 カロが放った魔力波はただのエネルギーの塊ではなかった。アコの結界を破壊する特別なアレンジをしていたのだ。一度は魔力波を無効化した結界は、このアレンジ魔力波の効果によって完全に消滅してしまう。

 こうして、3人は一気に無防備状態になってしまった。その結果、カロには勝てないと思い込んだアレサは、次にどんな攻撃がくるのか全く予想がつかず、プチパニックになる。


「うわあああ! アコ、どうしよう?」

「大丈夫。私の対魔法防御のパターンだって無限にあります!」

「ごめん、こんな時に役に立てなくて」


 この状況において何も出来ない歯痒さをユウタスは感じていた。申し訳なさそうな表情の2人の肩に、アコはぽんと優しく手を置く。

 そうして、彼女は精一杯の作り笑顔を浮かべた。


「役に立たないなんて事はありません。お2人の力、今から借りますね」

「えっと、俺達はどうすれば?」

「大丈夫です、今から私の力を増幅するのにお2人の潜在能力を媒介にしますが、それは何も意識しないでいいんです。今リンクを繋ぎましたので」

「リンクって、これ?」


 アレサは突然に手首に刻まれた魔法の刻印をアコに見せる。同じものは当然ユウタスにも刻まれていた。

 手首に浮かび上がったそれは古代魔法文字を崩したような模様になっていて、よく見ると刻まれた人の心臓のリズムに呼応して鼓動しているようにも見える。刻まれた2人は興味深そうにそれを眺めた。


「そうです。リンクした事で、私の魔力は数倍にブーストアップされました。これなら……」

「何をやったって無駄だよ! 力の差ってのをしっかりと味わいなあっ!」


 説明の途中で、すっかり人格の豹変したカロからの連続魔法攻撃。アコは迫りくるエネルギー波を前にすっと手を上げると、また別の魔法障壁を何重にも展開させる。無詠唱で一瞬の内に構築されたそれはカロの攻撃によって何枚も破壊されていくものの、全ての障壁が貫かれる事はなかった。

 その強度を前にして、伝説の魔女も多少は心を動かされる。


「……ふん。少しはやるじゃないか」

「お褒めに預かり、光栄です」

「別に褒めてなんかないよっ! ムカつくガキだね!」


 自分の攻撃が防がれ、さらに余裕の態度で反応したアコに逆ギレしたカロは、禍々しいロッドを具現化させてそれを両手でしっかり握った。凄まじい勢いで上昇していく魔力を感じ取ったアコは、そのプレッシャーだけで顔色を悪化させる。アコとリンクした2人にもそのプレッシャーはダイレクトに伝わり、3人は圧倒的な力の差による絶望感に包まれていった。

 アレサは、初めて感じる死の恐怖を前に体が硬直する。

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