第150話 セランとグーヴの正体
その頃、魔都に残っていたセランは両手を前方にかざしてグーヴの復活を抑えていた。魔都のシステムを掌握していた悪魔は、空間に充満する魔素を触媒にその体を急速に再構築し始め、ついにはセランの呪縛を弾き飛ばす。
「くそっ! 無理かっ!」
「ふふ、時間稼ぎとはお前らしい……」
セランを弾き飛ばし、完全復活したグーヴはキョロキョロと辺りを見回してニヤリと顔を歪める。
「どうやら邪魔者はいなくなったようだな。お前が飛ばしたのか。いいだろう。久しぶりに思いっきり遊ぼうじゃないか、なあ!」
邪悪に満ちた瞳で悪魔は右手を上げる。その手のひらにはいつの間にか凝縮された魔力のカタマリが発生していた。そうして自分をにらみつけている優男に向かって、狂気の笑みを浮かべながら投げつけてきた。
セランはすぐに両腕を顔の前で交差させて、魔法球攻撃のダメージに備える。
「くうっ……」
「はは、防げるか、その程度の壁で!」
セランは前方に何重もの見えない壁を発生させるものの、魔法球は薄い氷を踏みつけるような呆気なさでそれらを次々と破壊していく。
やがて、ほぼ勢いを殺せないまま魔法球はセランに直撃し、大爆発を起こした。
「ぐはああっ!」
吹っ飛んだセランはしばらく宙を漂い、やがて地面に激突する。そのダメージで彼はしばらく動けなくなった。それを確認したグーヴは右手をかざし、またしても魔都の魔素をその手のひらに集め始める。
数秒後、十分な容量が充填されたところで自動的に攻撃が開始された。無数のエネルギー弾が倒れたセランに向けて発射されたのだ。グーヴは勝ち誇った顔でじいっと攻撃対象の男を見つめる。
「さあ、次はこの攻撃だぞ!」
エネルギー弾が直撃する度に発生する土埃。全弾の発射を終えた頃にはかなり視界が不明瞭になっていた。余裕の攻撃を終えたグーヴは追撃をせず、視界が収まるのを待つ。それはまるで何かを待っている風でもあった。
しばらくの沈黙の時間を経て土埃も薄くなり、そこに人影が見えてくる。グーヴがこの展開に目を輝かせる中、その人影から声が聞こえてきた。
「流石だな……俺も少しばかり焦ったよ」
「いつまで人の姿でいるつもりだ? それでは俺の攻撃には耐えきれんぞ」
「お前が本気を出すって言うなら、俺も力を開放しよう」
「ああ、本気でやろうぜ!」
グーヴはそう言うとさらに魔素を集め、その体を変容させていく。黒い塊になって蛹状になった悪魔は、その殻を破り、大きな黒い竜の姿となった。この姿を目にしたセランもまた体の内側から光を発行させ、白い龍の姿へと変わる。そう、彼の真の姿は白龍だったのだ。
黒竜グーヴと白龍セランはその属性以外はほぼ瓜二つの容姿をしており、完全変態したふたつのエネルギーの塊は魔都の上空へと昇っていく。じいっと見つめ合った白龍と黒竜は同じタイミングで攻撃を始める。お互いの攻撃を紙一重で避けつつ、少しでも有利な位置取りをしようと2体の龍は激しく動き回った。
外した攻撃は魔都の建物を破壊し、次々と高層建造物が音を立てて崩れていく。どちらの龍も魔都を破壊する事に躊躇はなく、戦いが激しさを増せば増すほど魔都はボロボロになっていくのだった。
「あははは、セラン、こうしていると昔を思い出すな!」
「俺は一刻も早く忘れたかったがな!」
白龍セランが光のエネルギー攻撃を繰り出し、黒竜グーヴが闇のエネルギー攻撃を繰り出す。お互いの攻撃が真正面でぶつかると、それは膨大な破壊エネルギーを生み出しながら対消滅。効果範囲内の空間を削り取っていった。
完全な姿で復元されたはずの魔都も、2龍の戦闘が始まってわすか数分でその5分の1を消失させてしまう。
この状況を口惜しく思う存在があった。魔都復活のきっかけを作った伝説の魔女カロだ。彼女は残った魔力を使って刑務所を脱走。幾つもゲートを創生し、自らの野望の成果である魔都へやって来ていたのだ。
辿り着いた途端に大規模な破壊が始まり、カロは怒りを顕にする。
「何だいあの破壊者共は! 私の魔都を壊すだなんて許さないよ!」
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