第149話 アレサの暴走
「みんな無事で良かった。話は聞いてるよ。囚われの冒険者達を開放したんですって? 大手柄じゃない」
「いやあ、それほどでも~」
オハルからの称賛の言葉にユウタスが照れまくっていると、アレサがぐいっと身を乗り出す。
「セランは? セランも無事脱出したんですか?」
「セラン? 誰の事?」
「あいつは俺達をここまで飛ばしてくれたんだ! 無関係じゃないだろ?」
「いや、そんな事言われても……」
矢継ぎ早に繰り出される質問攻撃にオハルは困惑する。少なくとも、彼女はセランの事を全く知らないようだ。曖昧な返事に終始する依頼主の態度から大体の事情を察したアレサは、一旦喋るのを止めてうつむきながら顎に指を乗せる。
「……じゃあ、もっと上の所がセランに依頼を……?」
「と、とにかく! 依頼はどう? 上手くこなせた? 失敗したのならまた次の手を……」
「いや、それは大丈夫……」
怒涛の質問攻撃で参ってしまっているオハルに、アレサが小型水晶を差し出した。それが目に止まった彼女は、水晶を手に取るとその中身を軽く検証する。
水晶内に必要な情報が過不足なく収められていると魔法眼によって確認出来たので、オハルはニンマリと笑顔になった。
「うん、確認した。有難う。じゃあこのデータを使って術式を構築するね。お疲れ様」
「はぁ、良かったぁ……」
「今回もギリギリの依頼だったな」
「ちょっと待った!」
アコとユウタスが安堵していたところで、アレサが急に大声を上げる。その声に驚いたオハルも反射的に足を止めた。アレサは更に続ける。
「術式が完成して発動したら、魔都はどうなるんだ?」
「そうね。魔都はまた封印されて、そのまま地下に沈む事になるかな」
「そんな! あそこにはまだセランがいるんだ!」
術式の詳細を知ったアレサは感情を高ぶらせる。その勢いで、オハルに掴みかかろうとしたところをユウタスが止めに入った。
「アレサ! セランだってもう脱出したかも知れないだろ!」
「証拠は? きっとまだ魔都にあいつはいるんだ!」
「2人共落ち着いてください!」
2人の口論が臨界値に達しようとしたところで、アコもその中に飛び込んだ。セランを救いたいと言う気持ちが暴走し始めたアレサに、仲間2人の言葉は届かない。それでもユウタスとアコの真剣な眼差しが、何とか彼女の行動を留める事には成功していた。
熱意の矛先が変わった事で精神的な自由を取り戻したオハルは、ここでようやく踵を返す。
「わ、私は行くね……」
「はい。術式の構築、お願いします」
アコはオハルの背中に向かって声をかけた。そこから先はユウタスと供にアレサへの説得工作。魔都の封印は必要な事だと言う事を冷静に繰り返す。
説得の甲斐あって少しずつ落ち着きを取り戻したアレサは、思いつめた表情を浮かべた。
「……俺はセランを呼び戻す」
「だから、あの時悪魔は倒されただろ。セランもとっくに脱出してるから」
「だったら何であんなに焦ってたんだよ。あの悪魔がすぐに復活するって知ってたからじゃないのか? 俺は行くぞ!」
セランの脱出が確認出来ていない事がどうしても納得出来なかったアレサは、ユウタスが止めるのも聞かずにその場を離脱。話の流れから魔都に向かっていると推測したユウタスは、事の推移を心配そうに見守っていたアコの方に顔を向ける。
「仕方ない、追いかけよう」
「私、オハルさんにこの事を伝えてきます!」
「分かった、先に行ってる」
ユウタスは単独行動したアレサの後を追う。アコはこの事情を伝えるために、術式を構築している魔法庁のラボに急いだ。機密情報を悪用されないために職員以外は複雑なルートを通らないと辿り着けないその部屋に、ゲートのショットカットを使って短時間で辿り着いたアコは、すぐに責任者のオハルに何もかもを伝えた。
「えっ? アレサが?」
「なのでお願いします。私達が合図をするまで術式は……」
「分かった。何とか掛けあってみる。その代わり、絶対みんな無事で戻って来てね」
こうして、魔法庁が魔都そのものを封印する大掛かりな術式の構築を急ぐ中、3人はまたあの魔女文明の遺産に戻る事となったのだった。
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