第147話 管理システムの誤算と新たなる勢力

 2人のダメージは大きかったものの、幸い命に関わる程の深手ではなく、アコは治癒効果を増幅させる癒やしのタオルを2人に優しくかける。

 そうして、応急処置が終わると共にシステムの方に身体を向けた。


「私が相手よ、覚悟なさい!」

「不純物ハ排除シマス」


 相変わらずの機械音対応をするシステムに向かって、アコは杖を掲げる。狙いを定めると、静かに呪文を唱え始めた。


「ルーディオ・ラステイアヌ……」


 魔法の杖に魔導エネルギーが収束していく。アコは、杖が対応出来るギリギリまでエネルギーの最適化をし続けた。


「くうう……後少し……」

「巨大エネルギーヲ感知、排除シマス」


 アコの魔法発動に時間がかかりすぎていたため、先に危険を察知したシステムが行動を開始。集まっている魔導エネルギーを計算し、それを上回る出力の魔導電撃の放出に動いたのだ。それをこなすには膨大な計算と正確な魔導操作が必要なものの、流石は古代魔女文明の遺産、この困難な作業をほぼ一瞬で終えていた。

そうして、アコが攻撃に転じるより早くに電撃砲が作動。一瞬の内に強力な魔導電磁パルスがアコに向かって放たれた。


「くうううっ!」


 アレサ達を気絶させた攻撃の数十倍の出力のものを受け、魔法使いのアコですら苦悶の表情を浮かべる。

 けれど、そこに計算間違いがある事を管理システムは読めなかった。どれだけ魔法電撃攻撃を加えても、決して目の前の少女を止める事が出来なかったのだ。


「何故、倒レナイ? 何故?」

「……ここまでが計算通りだったからです! 魔導鏡! シスレヒオ!」


 アコはニヤリと笑うと、今まで受けた攻撃プラス自ら高めた魔導エネルギーを一気に放出。ふたつの大きな力は絡み合い、互いの力を増幅させながら管理システムに直撃。システム内を走っていた計算用魔導電流に強力な負荷をかけ、内部からの破壊に成功する。この攻撃によって管理システムはショートを起こして大爆発。完全に沈黙した。

 アコの持つ、数百万人に1人の魔導吸収体質と言う特殊体質がここでも大いに役立ったのだ。


「や、やった……」


 管理システムを機能不全に追い込めたものの、この成果を得るためにアコは1人の魔法使いが扱うには大きすぎる力の行使をしてしまっていた。

 そのため、作戦の成功を見届けた彼女は意識を失い、その場にバタリと力なく倒れてしまう。


「意外と頑張ったねぇ……。まさかたったの3人で管理システムをダウンさせるとは、流石だよ」


 全員が行動不能になった後に何もない空間から姿を表したのは――またしても悪魔だった。漆黒の闇を纏ったその姿は、以前森の遺跡で遭遇したあの紳士な悪魔にも似た雰囲気を漂わせている。その悪魔は、倒れた3人に向かって手をかざした。

 すると、3人は悪魔の魔力によって拘束され、ぷかりと軽く宙に浮かぶ。


「さてと、こいつらを生贄に使えば割といい手駒を召喚出来るかな?」


 悪魔は邪悪な笑みを浮かべながら、拘束したアレサ達を3人綺麗に寝かせて床に魔法陣を浮かび上がらせた。すると、すぐに召喚円からエネルギーが発生して、ぐるぐると勢いよく回り始める。悪魔はそれを楽しそうに眺めていた。


「さて、準備が整うまで後3分といったところかな」

「そうはさせない!」


 3人のピンチの前に現れたのは、姿を消していたセランだった。彼はまるで始めからそこにいたかのように突然出現し、その姿を見た悪魔もまるでそれが当然かのような表情を浮かべる。


「お、やはりお前か、セラン。こいつらを自由にしたければ……実力で来な」

「その性格は相変わらずだなグーヴ。お前、カロの使い魔に成り下がってたんじゃないのか?」

「カハハハ! カロの計画が失敗した以上、もう道化を演じる必要もないだろう?」


 どうやらセランと悪魔――グーヴは顔見知りのようだ。セランの言葉によれば、グーヴはこの魔都を復活させた伝説の魔女、カロの使い魔だったらしい。その口ぶりから、どうやらカロとの契約を勝手に切って、今は自由に動いていると言う事のようだった。


 グーヴが得意げに自分の事をPRしている内に、セランはしっかりと自分の目的を果たす。魔法陣に横たわっていた3人を自分の側に引き寄せたのだ。

 邪悪な企みを阻止出来たところで、目の前の悪魔の知り合いに向かって彼はニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。

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