第143話 管理システムからの招待

「いくぞおおっ! 秘技、カマイタチッ!」


 力を増したアレサの剣技は空気を切り裂き、真空の刃を発生させる。この見えない飛び道具によって、人工魔女達は次々に行動不能に陥っていった。

 人工魔女も次々と魔弾を撃ち出して反撃を試みようとするものの、ブーストによって加速された2人を正確に捉える事が出来ない。標的が定まらない内は攻撃が確定されない、その機械じかけの特性を逆に利用した作戦だった。


 とは言え、情報を得た管理システムは魔女の増援をどんどん送り込んでくる。この力比べは、時間が経てば経つほどアレサ達の不利になっていった。

 倒す度に逆に数が増えて行く事に、流石のユウタスも少し顔色を悪くする。


「やばいぞ、あいつらどんどん増えるばかりだ。俺達の消耗を待ってやがるのか?」

「まさに数の暴力だな」

「皆さん、手を繋いでください!」

「お、おう……」


 3人で手を繋いだところで、アコはマジックアイテムのカプセルを掴んでそれを思い切り放り投げた。次の瞬間、まぶしい光が当たり一面の視界を奪う。

 想定外のいきなりの出来事に、ユウタスは思わず例の台詞を口にする。


「うおっまぶしっ」


 アイテムの効果化発動後、アコは緊急脱出ゲートを作動させて戦線離脱。無事にこの危機を脱する事が出来た。

 アレサは、彼女のこの手際の良さに感心する。


「アコ、やるじゃねーか」

「2人が時間を作ってくれたからですよ」

「でもここからどうする? きっとまたすぐに見つかるぞ」


 心配するユウタスに対し、アコは素早く目の前にある施設を指差した。


「ほら、あそこが最後のポイントです!」

「よし、素早く済ませよう!」


 また人工魔女に襲われる前にと、3人は救出作業を急ぐ。幸い、捕らわれていた冒険者達がベテランだった事もあって、すぐにこちらの意図を理解してくれて作戦はごく短時間で終了。足りなかったデータもほぼ埋める事が出来た。


「ご協力有難うございます。脱出はそちらのゲートから……」

「ああ。助かった。君達も急ぐんだ」

「はい、すぐに追いかけます!」


 魔女達が追いかけてくる事を想定し、アレサ達は別のゲートを使って撹乱させてから魔都から脱出する作戦を立てた。今のところ人工魔女達はアレサ達しか攻撃対象にしていない。別ルートを使う事で、他の冒険者達を安全に逃がす事が出来ると考えたのだ。

 脱出する冒険者達を見送った後、ルート選定を任されていたアコが計算を終えてゲートを開く。


「出来ました! 行きましょう」

「ああ!」

「天空島にも手を出した事、後で絶対後悔させてやるからな!」


 先に2人がゲートを通った後、ユウタスは拳を握りしめてジロリと魔都の砲台をにらむ。その視線の先で人工魔女達がすごいスピードで接近してきたのが見えたので、彼も急いでゲートに飛び込んだ。


「ふう、間に合った」


 ゲートを抜けた先では、先に飛び込んでいた2人が棒立ち状態。ユウタスはその様子に首を傾げる。


「一体どうしたんだ?」

「ここ、違う。こんな場所来た事ない……」

「えっ?」


 動揺するアコの言葉に改めて周りを見回したユウタスは、初めて目にする光景に絶句した。そこはゲートで設定した魔都の中継ポイントではなく、謎の建物の中だったのだ。かなり大きなその部屋の内装は、宗教施設の祭壇を思わせるようなシンプルかつ洗練された装飾がなされていた。当然人の気配はなく、目の前には黒く大きな直方体の板のようなものがあるだけ。

 静かで冷たい気配が支配するこの空間に、ユウタスも思わず寒気を覚える。


「一体どう言う事なんだ?」

「多分何者かがゲート内の亜空間に干渉して、出口を捻じ曲げてこの場所に繋いだのではないかと……」

「そんな事が出来るのか?」

「だって、そう考えるしか……」


 流石のアコも、この想定外の出来事に理解が追いついていないようだ。これが敵の仕組んだ事だとするなら、今から総攻撃が始まってもおかしくない。ユウタスは静かに息を整え、かすかな気配も感じ取ろうと意識を集中させる。

 アレサはと言うと、同じくこの危機的状況に対して既に臨戦態勢を取っていた。


「ようこそ、魔都アトストリアへ。邪悪なる侵入者達よ」


 突然響く声に3人は動揺する。その主はどうやら目の前にあるブラックボードらしい。ユウタスは構えを維持しながら会話を試みた。


「お前がこの街のボスか!」

「ボス? 私はただの管理システム。あなた方を知りたくてここに呼びました。一体何がしたいのです?」

「俺達の目的は……ここをぶっ壊す事だぜ!」


 故郷を攻撃された怒りもあって、ユウタスは語気を荒げる。ケンカを売られた格好になった管理システムは、しばらくの間沈黙した。

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