第142話 魔都の報復

「驚いた。君だったのか」

「えっ? セラン?」

「はは、お互いこんな所で会うなんてな」


 アレサは、以前交流のあったセランと出会って動揺する。彼はポーカーフェイスで軽く手を振ると、すぐにどこかに消えていった。この彼の行動にユウタスは焦る。


「あれ? あれじゃまたどこかで捕まっちゃうよ、アレサ、追いかけよう!」

「いや、あいつはアレでいいんだ。きっとわざと掴まってたと思うから……」

「えっ? どう言う知り合い?」

「それは……」


 ユウタスがアレサに疑問をぶつけていた次の瞬間、そんなシリアスな雰囲気をぶち壊す大きな声が響く。その声の主は、ユウタスを目にした瞬間に思いっきり抱きついてきた。


「おお! お前だったのか心の友よ! 助かったぞおおお!」

「うわあっ! トルスざけんな! 離れろっ!」

「いいじゃないかよう。感謝の抱擁だぞ」

「暑っ苦しいんだよ!」


 ユウタスは、抱きついてきた旧友を力ずくで引き剥がす。どうやらトルス達のチームもこの魔都調査の依頼を受けていらしい。ただし、彼以外は何とか自力で脱出が出来ていたみたいで、捕まっていたのはトルスだけだった。


「淋しかったよおお……。絶対このまま死ぬんだとばかり……」

「分かったから。落ち着いたら帰れ。な?」

「ちょい待ち、調べたデータ、私達に教えなさいよ」

「分かったよう、教えるよう……」


 その後もアレサ達は捕らわれの冒険者達を助け続け、魔都のデータも順調に揃っていった。


 その頃、捕まえたはずの冒険者が次々に姿を消している事を察知した魔都の管理システムは報復する事を決断、魔導ビーム砲使用の許可を出した。それによって街のビルの一部が一瞬の内に変形して、見事な砲台の形になる。

 残りの冒険者達の救出に向かっていた3人は、この街の変化に足を止めた。


「な、何だあれ?」

「あれが街を破壊したビーム兵器?」

「砲台が空に向いてますよ!」

「な、まさか!」


 その砲台の向きを見たユウタスは絶句する。その射線上にあるのは間違いなく天空島だ。つまり、魔都の管理システムが報復に選んだのは地上のどこかではない。

 一番最後に侵入した冒険者の中に天空人がいた事を感知したシステムが、報復対象を空の上に浮かぶ大陸に定めたのだ。


「やめろぉーっ!」


 ユウタスの叫び声は兵器の作動音によってかき消される。エネルギーが充填された魔導ビーム砲は何のためらいもなく発射され、その先にある空に浮かぶ島に向かって紫色の光が伸びていった。

 やがて、島に到達したビームは島の一部を破壊する。幸い、その一撃で粉々に砕け散ると言う事はなかったものの、直撃した部分は大きく破壊されたに違いなかった。故郷の危機に何も出来なかったユウタスは、思いっきり地面を叩く。


「くそっ! 何でだよっ」

「立て、ユウタス! データを回収すれば魔法庁が何とかしてくれる!」

「……分かった。急ごう!」


 アレサに励まされ、ユウタスは決意も新たに立ち上がった。こうして次のポイントに向かっていたところで、3人は突然人工魔女達に取り囲まれる。どうやら行動パターンを計算されてしまっていたらしい。

 一瞬の内に数十体の敵に包囲されて、アレサはつばをごくりと飲み込んだ。


「やっぱり最後まで楽勝って訳にも行かなかったか……」

「認識阻害が解除されています! 解析されたのかも」

「丁度いいぜ、こいつらをぶっ倒す!」


 故郷を攻撃されて気が立っていたユウタスが最初に動く。こうなってしまってはその流れに従うしかないと、アレサも剣を抜いた。2人が動いたのを見て、アコも杖をかざす。

 人工魔女は詠唱を破棄出来るとは言え、標的を定めて魔弾を撃つためには標準を合わせる時間が必要となる。そのわずかな時間が勝機だと踏んだユウタスは、持ち技の中で一番素早く打ち込める技で人工魔女達に殴りかかっていった。


「残心龍神拳!」

「援護します、魔導ブースト!」


 アコの魔法によって威力を数倍に上げたパンチは、一撃で人工魔女を行動不能にするほどの効果を発揮する。こうしてサクサクと敵を殴り倒していくのを見たアレサは、キラキラと目を輝かせた。


「俺にも同じのを!」

「はいっ!」


 アコも最初からそのつもりだったようで、アレサに声をかけられた瞬間にはもう魔導ブーストを彼女に向けて発動。すぐにその手応えを感じたアレサは、にんまりと挑戦的な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る