第140話 魔都、突入

「ああ、いいぜ。けどちゃんと魔都に行けるんだろうな」

「ええ、魔法庁の権限でゲートを開いてあげる」


 こうしてアレサ達は新たな依頼を受け、今度こそ魔都に行ける事となった。オハルからデータ収集用のアイテムを受け取り、3人はゲートを通る。その先にあったのは巨大な魔女文明の遺産、魔法都市の異様な姿だった。

 まずは、アレサが初めて目にしたこの都市の感想を口にする。


「これが、魔都……」

「全体的に……黒いな」

「魔女文明では黒がデフォルトだったそうです……」


 魔女文明の首都、魔都はまるで生き物の気配のしない生活感のない無機質な都市で、芸術家の作ったアート作品のようだった。既にたくさんの冒険家が中に入って活動しているはずなのに、そんな様子もまったくない。

 山を消滅させた謎のビームがどこから発射されているのかも、眺めているだけでは全く分からなかった。砲台のようなものが見当たらなかったからだ。


 動くものが見当たらないその都市は、静かすぎて物音も全く聞こえない。その不気味さは、まるで餌にかかる獲物のを待つ罠のようですらあった。

 その圧倒的な存在感に3人はしばらく動けなかったものの、頬をパシンと叩いたアレサが一歩を踏み出す。


「さあ、行くぞ! 仕事なんだからな」

「お、おう……」

「気合、入れなきゃですね」


 アレサにワンテンポ遅れて、ユウタスとアコも続く。魔都自体は来る者拒まずのようで、3人は何の抵抗もなくこの復元遺跡に侵入する事が出来た。流石魔女文明の首都だけあって、中身は人のいない摩天楼が立ち並ぶ近代都市と言う風情。

 これはアレサ達の時代の文明からすればまさに未知の景色であり、3人はしばらくの間、田舎から都会に出てきたお上りさんのようなリアクションを繰り返していた。


「何だあの建物、たっかいなぁ」

「天空島にも遺跡はあるけど、復元するとこんな感じなのかな……」

「すごいです。まさにこれは何て言ったらいいか……」


 キョロキョロと目を輝かせてあちこちを眺めながら歩く3人は依頼の事も忘れ、不用心な観光客のように街を観察する。そうして、この街に人の気配がない事をすぐに実感する事になった。魔都の不審人物感知システムが作動したのだ。

 それによって街に入り込んだ異物を排除するための防衛機能が発動。人工的に作られた無数の人工魔女が空を飛ぶ。これは、魔都の中央制御プログラムにしか従わない、作られた機械の魔女達。彼女達は無断で街に入った冒険者3人のもとに急行するのだった。


 いち早く空を飛ぶ何かに気付いたアコは、飛んでくる何かを指差した。


「アレサさん、あれ!」

「え? 何だあいつら、空を飛んでる?」

「もしかして、敵か?」


 3人は直感で危険を察知して、それぞれの戦闘態勢を取る。魔女達はその行動の変化から侵入者に戦闘の意思ありと判断し、遠距離からの魔法弾攻撃を開始する。

 飛んでくる無数の魔法弾に対し、3人は有効な防御手段を持っていない。アコが素早く防御術式を発動させたものの、1発2発ならともかく何百発もの魔法弾を防ぎきれるはずもなかった。


「こんなたくさんの攻撃魔法、持ちません!」

「よし、逃げるぞみんな!」

「あ、アレサ先に行くなよっ!」


 アレサは一瞬の判断で逃げに徹し、それにユウタスとアコも続く。アコは断続的に防御術式を展開させて時間稼ぎに利用した。人工魔女達は3人を正確にトレースして攻撃を続けるものの、こう言うパターンも想定していたアレサが逃げながらダミーのマジックアイテムをばらまき人工魔女達を翻弄。その間に路地裏に逃げて、何とか魔女達の追跡から逃れる事が出来た。

 当面の危機が去ったと言う事で、アレサはその場にぺたりと座り込む。


「何だよあれ、詠唱もなく魔法を撃てるなんて聞いてないぞ」

「あいつらの攻撃で冒険者は全滅したのかよ」

「あの魔女達、生き物じゃなかったですよ。機械が魔法を使うだなんて……」


 3人共しばらく肩で息をしていたものの、やがて、それぞれのタイミングで荷物から水を取り出してごくりと喉を潤す。こうして少し落ち着いたところで、今後の予定について話し合った。


「あんなのがいるんじゃ魔都の調査は出来ないな」

「個別に誘い出して壊していこうぜ」

「いやさっきの見ただろ? 何百と飛んでた。簡単に倒せるかどうかも分からないし、見つからないように動く方がいい」

「ユウタスは慎重すぎるんだよ。当たって砕けろだろ!」


 議論は白熱するものの、慎重派のユウタスと行動派のアレサとの溝は埋まる事はなく、調整役のはずのアコはただオロオロするばかり。

 そんな終わりのない話し合いの声に導かれたのか、3人の前に別の足音が近付いてきていた。

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