魔都復活

第137話 謎の都市、出現

 伝説の魔女であるカロの野望が潰えて数カ月後、大陸では頻繁に発生する地震にみんな悩まされ続けていた。震度で言えばギリギリ死人が出ないレベルのもので、それが一日に一回は発生。しかもその時間は不規則で、朝早い時もあればお昼時、深夜に揺れる事もあった。

 この地震については、国家的プロジェクトでその謎の解明に多くの人員と予算が注ぎ込まれる。その成果としていくつかの学説が発表されるものの、そのどれもが決定打に欠けるもので、地震の原因や発生の予測すら完全に出来ないでいた。


 当然、冒険者達にとってもこの地震は厄介なもの。例えば、洞窟などの探索中にこの地震が発生すれば生き埋めの危険も高く、実際既に数人の犠牲者が出ていたりしていた。アレサ達も、最近は仕事中に大きな揺れが発生しても問題のない依頼を選んでいる。

 ただし、そう言う依頼は人気ですぐに他の冒険者達によって先に取られてしまうため、いい仕事に中々ありつけない日々が続いていた。


「はぁ~。また仕事取れなかったよ……」

「アレサ、どんまい」

「そうですよ、また次に……きゃあっ!」


 アコがアレサを慰めていたその時、いつもと違う更に大きな揺れが発生する。魔法で耐震強化されているギルド内でもその揺れは吸収しきれず、色んな物が床に落ちたりして冒険者達もパニックになった。

 アレサ達は揺れの発生時に席に椅子に座っていたのもあって、すぐにテーブルの下に潜り込む。


「今度の揺れ、でかいじゃねーか」

「怖い怖い怖い……」

「とりあえず、落ち着きましょう。きっと揺れはすぐに収まります……」


 意外な事に、地震に異常に怯えるユウタスに対して、アコはとても冷静だった。そうして、彼女のその言葉通りこの揺れも1分もしない内に収まり、ギルド内も次第に落ち着きを取り戻していく。

 ギルド内の人々が全員平常心を取り戻した頃、魔法通信でこの地震の原因かも知れない事実がギルドに伝えられた。


 その情報に、多くの冒険者達が言葉を失う事になる――。


「大陸中央に突然謎の街が出現しただって? 嘘だろ?」


 そう、かねてから一連の地震の震源地とされていた大陸中央部リーンケルの平原が突然崩れ、代わりに謎の都市が突然出現したと言うのだ。連日発生していた地震も都市の出現と共にピタリと止まり、やはりこの都市が地震と何らかの関係がある事は疑いようのない事実のようだった。

 この情報はやがて大陸全土に伝わり、都市に対する好奇心は当然ギルドに依頼と言うかたちで集まっていく。


 今や大陸住民の興味の対象はこの都市に全て注がれ、住人達の話題に上がらない日はない程にまでなった。都市調査の依頼が多くの金持ちや政府関係者によって次々にギルドに持ち込まれ、冒険者も続々とこの謎の都市に乗り込んでいく。

 こうして、時代は空前の謎の都市ブームになっていった。


 当然、アレサ達もこのビックウェーブに乗ろうとするものの、依頼の数よりもそれを求める冒険者の数の方が多く、中々望みの依頼をゲットする事が出来なかった。

 その日も依頼ゲット競争に負けたアレサは、朗報を待っていた仲間達のもとに戻ると早速不満をぶちまける。


「なんであんなに人が多いんだーっ!」

「人気の依頼に人が集まるのは当然ですよ」

「考えてみたら、俺達っていつも人が選びそうもない依頼ばかり選んでたからな……」

「こうなったら、作戦を練らないといけないよな。何かいいアイディアない?」


 アレサはずいっと身を乗り出すと、仲間2人の顔を交互に見つめる。その目力にユウタスもアコも若干距離を置いた。そうして、ここでユウタスが頬杖をつく。


「単純な早い者勝ちなんだから、依頼が張り出された瞬間にいち早くそれを手に取るしかないんじゃないか?」

「そんな事は分かってる。でもあの都市調査の依頼は1件じゃないんだぞ? いくつもあったら選ばないと損するじゃんか!」

「選んでいるから遅くなって、結局依頼をゲット出来ないんじゃないですか?」

「うぐ……」


 仲間2人から当然の指摘を受け、アレサは返す言葉を失った。そんな彼女の表情から行き場のない悔しさを感じ取ったユウタスは、さり気なく助け船を出す。


「アレサが無理なら俺が選んで来ようか?」

「ダメ! 俺がやる依頼は俺が選びたいんだ。他人の取ってきた依頼だと何か納得出来ない」

「そっか……。じゃあアレサが頑張るしかないな」

「く~っ! 分かったよ、頑張るよ! 明日こそ依頼を……」


 アレサがユウタスの挑発に乗って興奮して熱弁していたその時、3人の座っている席に近付く人影があった。その気配に気付いた3人はほぼ同時にその人物の方に顔を向ける。

 アレサ達の前に姿を現したのは、つい最近知り合いになった顔見知りの女性だった。

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