第135話 野望の終焉
「やった!」
攻撃が通った事にアレサは思わずガッツポーズ。この戦いで初めて負傷したカーシュはすぐに肩に手を当てて傷を治癒させると、怒りに震えながらゆっくりと立ち上がった。
「もう怒った! 最強魔法でお前を消す!」
その目には怒りと恨みの炎が燃え上がっている。その凄まじい負のオーラを敏感に感じ取ったアコは、一撃で仕留められなかった事をここで軽く後悔したのだった。
「レリ・イル・ドゥルガ……」
明らかに桁違いの魔法の発動を察知したアコは詠唱が終わる前にまた矢を射った。しかし、当然ながら同じパターンが2度通用する相手ではなく、この物理攻撃は既に仕込んでいた魔法障壁によって呆気なく弾かれる。
「嘘?」
「同じ攻撃が私に効くと思ってたの? 舐めないでよね! 今度は私の番! 爆炎龍火炎殺!」
「キャアアッ!」
カーシュが放ったのは超高温の火炎球。アコもとっさに魔法の防御壁を展開させたものの、その防御魔法と火炎球が接触した途端に大規模な爆発が起こる。この時に発生した爆風で、一瞬辺りは何も見えなくなった。
自慢の生徒の功績を確認した校長は、気分が高揚して高笑いを始める。
「おーっほっほっほ。これであんたの切り札はなくなったね」
教え子の成果に調子付いた校長は、今度は自分の番だとばかりに魔法の杖を握り直して素早く連続で攻撃魔法を放ち始める。流石伝説の魔女と言われただけあって、その攻撃のバリエーションは多彩。
光に水に火に風に大地に闇に――魔法の全属性を自在に組み合わせ、すぐに対処出来ないような攻撃を繰り出し始めた。
「そらそらそらそらそらァ! あんたも黒焦げになっちまいな!」
「くうっ……その老いた体のどこにそんな力が……」
「魔女はねぇ! 老いれば老いる程熟成されて力に深みが出るんだよっ!」
攻撃の勢いが増したところで、対するオハルは防戦一方になる。そこで手応えを感じた校長は、このバトルを短期決戦で終わらせる方針に転換。この好機に強力な魔法を使おうと、杖を持つ手を大きく頭上に振り上げた。
「オハル、私の野望の前に散りなさい! 深淵の蛇よ……」
「その油断を待っていた!」
校長が放とうとした魔法は強力ではあるものの、発動までに若干の時間を要してしまう。オハルは校長がその魔法を使う瞬間を待っていたのだ。校長が詠唱を唱え終わるまでの僅かな時間の間に、彼女は自らの身体を光の縄に変換させ、そのまま一気に絡みついた。
光の縄に拘束された校長は、この予想外の展開にパニックになる。
「な、なんだこれは……っ?」
「今よっ!」
光の縄になったオハルの思念派が爆風の中に響き渡る。すると、次の瞬間に特定のエリアの爆風の煙が一瞬で吹き飛んだ。その煙の中にいたのは無傷のアコ。
それを目にして、自慢の魔法が無効化されていた事を知ったカーシュは頭を抱える。
「嘘でしょおお!」
「これでやっと本当の役目を果たせます……」
膝から崩れ落ちるカーシュには全く目もくれず、アコは拘束された校長に向かって右手をかざす。すると、彼女に溜め込まれていた魔力が一気に開放された。
「シーア・アレ・ルー……」
「そ、その魔法は、まさか、最初から……」
アコの詠唱呪文を聞いた校長はその魔法の効果を一瞬で見抜き、発動させまいとする。けれど、オハルによって完全に拘束された身では簡単な火炎魔法ひとつ発動させられない。頼みの生徒会長も茫然自失で役に立ちそうもない。そのため、成す術もなく最後の時を運命に委ねる羽目になってしまう。
「破魔爆散! クールゥ・オー!」
「クアアアア!」
呪文の詠唱が終わると同時に、対象者――今回の場合は校長――の体に魔法が直接作用する。この魔法の効果によって、校長が溜め込んでいた膨大な量の魔力は全て彼女の体から抜け出していった。
魔力がなくなれば魔法は使えない。こうして伝説の魔女の野望も潰えたのだった。
「ち、力が……1200年かけて溜めた……この時のための力が……」
「やったわね、アコ」
「やっと肩の荷が下りましたよ」
伝説の魔女がただの老婆になったところで、オハルは拘束を解いて元の魔女の姿に戻る。そうして大仕事をやってのけたアコのもとに駆け寄り、優しく頭を撫でる。
そんな和気あいあいとした姿を眺めながら、校長は悔しそうな表情を浮かべてこの状況に至った理不尽さに首をひねった。
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