第134話 生粋の魔法使い対野生の魔法使い
「グールシュ・レイ・エル……黒き光の針よ、穿て!」
「えーっ!」
その杖が空中で魔法陣を描き、呪文によって魔法が発動する。空中の魔法陣から呼びだされたのは、目に見えないほどの細くて殺傷力の高い針だった。彼女の意思によって、その無数の針が一斉にアコに向かって撃ち出される。
対して、杖の具現化の時点で魔法攻撃が来ると察したアコも、焦りながらどんな攻撃が来ても対処出来るよう防御魔法を咄嗟に構築する。
「ルル・ウル・パロ! 光の盾よ!」
カーシュの針とアコの盾。盾は針攻撃を防ぐものの、盾自体は針攻撃によって崩壊した。と言う事で、この対決の勝敗は引き分け。勝負の結果が分かった2人はすぐに次の行動へと移る。
闘争心が強く攻撃魔法主体で攻めるカーシュと、防御主体で相手の無力化を目指すアコ。タイプが正反対な2人だからこそ、このバトルは長期化の様相を見せていた。
「私の針を潰すなんてやるじゃない」
「あなたこそ。私の盾を壊したのはあなたが初めてだよ」
カーシュは杖を握った右手を頭上高く上げ、その位置から空中に魔法陣を描く。攻撃魔法の追撃だ。その仕草から次に使ってくる魔法の種類を予想して、アコも対抗出来る魔法を組み上げる。相手の攻撃魔法の発動のタイミングに合わせるために、術者の呼吸を注意深く読みながら……。
「デール・レール・コール……雷よ、降り注げ!」
「カロル・デ・キルラト! 水壁!」
カーシュの放った雷魔法はアコの水壁によって分散されそのまま蒸発する。今回もまた相打ちだった。ここで、お互いの力が拮抗していると2人共感じ取る。そうして、間髪入れずにお互いに次の行動に移るのだった。
その攻防を目にした校長は、オハルに向かって感心するような表情を浮かべた。
「あなたの弟子も中々のものね。知らなかった……いつの間にこんな指導力が?」
「私も安心したよ。あなたが私以上の弟子を育ててなくて!」
「言うようになったじゃないか!」
「アコを舐めないでよね! あの子の潜在力は同世代の誰にも引けは取らない!」
魔女の上級者同士が互角の戦いを繰り広げ、その弟子同士の2人の戦いもまたどちらも譲らない攻防を繰り広げる。そんな中、魔神相手に奮闘する2人は、その巨大な敵に対して決定的な一撃を与えきれないでいた。
「スマッシュパンチ6連撃!」
「剣技! 古代龍の牙!」
2人のとっておきの技自体は、魔神像に直撃させる事が出来る。ただし、その2人の自慢の技ですら魔神を倒すまでには至らない。大技を幾度となく繰り出していたので、いくらアイテムでパワーを強化していても段々と疲労の色が見えてきた。
2人が肩で息をするようになったのをちらりと目にした校長は、お約束のような高笑いをする。
「おーっほっほっほ! 神に人が勝てる訳ないでしょお!」
「あなた達、そいつらは作り物! 本質を見抜いて!」
苦戦する2人は、オハルの言葉を聞いて体勢を取り直した。そうして魔神像をじいっと見つめ、言葉通りに本質を見極めようとする。彼女が言いたかったのは作り物の魔力人形にはどこかに必ず弱点があると言う事。逃げろと言う指示でない以上、勝ち目があると言う事。それと、必ずそれを成し遂げられると信じていると言う事。
信頼されている事が分かった2人は、静かに闘争心を燃やして本気を出した。
「ここまで信頼されたら、その期待に答えないとな!」
「ああ、負けられないな!」
こうして2人が仕切り直して魔神像相手に弱点を突く戦いを模索し始めた頃、アコも生徒会長とギリギリの攻防を続けていた。
「……疾風無限鎌鼬!」
「……爆炎百華!」
カーシュの魔法攻撃を対になる魔法で無力化。このやり取りももう何度目だろう。お互いに負けられない戦いの中、相手が純粋な魔女でない事から実力を認めていなかったカーシュも、何度も自分の魔法を防がれた事によりその考えを改めていた。
「中々やるじゃないの、にわか魔女」
「……そうね、だからこう言う事が出来る!」
何度もやり取りをして相手の攻撃パターンを読んだアコは弓を取り出し、矢に魔法をまとわせるとすぐにそれを放つ。カーシュは純粋魔女であるために攻撃は常に魔法だけで行っていたし、そう言う戦いしか学んでいなかった。魔法以外の戦いを魔女がするのは恥と教え込まれてもいた。
だからアコのこの何でもありの野生の攻撃に目を奪われ、そうしてその適切な防御法をすぐに思いつけなかった。
「……ルグ・ロア……痛あああい!」
カーシュが防御魔法を完成させる前にアコの放った魔法の矢が彼女を貫く。幸い、狙いは外れて肩を軽くかすった程度だったため、大きなダメージを与えてはいない。
それでも、今までにあまり負傷する事のなかった魔法エリートは、この負傷に動揺して尻餅をつく。
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