第133話 混戦! それぞれのバトル!
「ノロマめ! 俺を倒してみろ!」
「ウゴオオオ!」
魔法で動く魔神にも感情があるのか、アレサの挑発に興奮している。この魔神がただの動く塊で誰かが操縦するタイプなら、彼女の戦法もすぐに対処されてしまうだろう。
けれど、エネルギーの魔力を与えられた魔神像は自律的に動いている。いわばゴーレムだ。どうやらこのゴーレムは学習能力がないらしく、アレサに有効な攻撃を放てないでいた。
「おお、アレサもやるなぁ……と、傍観もしていられないか」
ユウタスの担当はもう一体の魔神、ヒョロガリタイプだ。見た目からは動きは素早そうなものの力はそこまででもなく、打たれ弱そうな雰囲気を感じる。
ユウタスは天空神の加護を発動し、短期決戦に臨んだ。
「来いよ、ふっとばしてやる!」
「ウゴオオオ!」
ヒョロ魔神は彼の挑発を受けて素早く距離を詰め、手にしていた剣で斬りかかってくる。ユウタスはその軌道を素早く着見極め、紙一重で剣をかわした。そうして、体勢を崩し倒れかかってきたところで、ジャンプしてカウンターを決める。
「天空流飛翔拳!」
「ウゴオオオ!」
彼の拳は見事にヒョロ魔神を捉え、そのまま打ち抜いた。この攻撃によって魔神は見事に後方に倒れる。攻撃に手応えを感じたユウタスはニカッと笑った。
「どうだ! これが俺の力……うん?」
「ウゴオオオ!」
倒れたヒョロ魔神は、全くのノーダメージで起き上がる。やはり簡単に倒せる訳ではないようだ。ユウタスもこの状況に対して、すぐにファイティングポースを取り直す。
「へへ、そうこなくっちゃなぁ!」
「ウゴオオオ!」
アレサとユウタスがそれぞれ魔神と戦いを繰り広げる中、アコはどちらに加勢しようかと杖を持ってキョロキョロしていた。
「ダメって言ってるでしょ。あなたはあなたの仕事があるんだから、ここで無駄に魔力を消費しちゃダメ」
「で、でも……」
「自分の仲間を信じな。苦戦しているように見えるかい?」
オハルはそう言ってウィンクする。言われてみれば、2人共巨大なゴーレム相手に全く怯んでいなかった。ならば、ここで介入するのは失礼と言うもの。アコは大きく深呼吸をして冷静さを取り戻す。
敵は魔神ばかりじゃない。本当の敵は目の前にいる伝説の魔女なのだ。
その伝説の魔女、カロ校長は魔法庁のエージェント、オハルに向かって氷結弾の魔法を繰り出す。無数の氷の塊がオハルに向かって飛んでいった。
「フローズンバレット!」
「ファイアシールド!」
カロ校長の魔法を自身の魔法で軽くいなしたオハルは自分の杖を軽く一回転させ、そのままビシッと前方に突き出した。それを挑発と受け取った校長もまた、不敵な笑みを浮かべる。
「ふん、弟子のあなたが私に勝てるとでも?」
「校長、いやカロ! 私はあなたを止めるためにここにいる!」
「私の半分ほどの力量で!」
「いつの話を!」
言葉の挑発合戦はここで終わり、2人の魔法マスター同士の本気の戦いの幕は切って落とされた。さっきのは前哨戦とばかりに、更に派手で高出力の魔法がお互いの杖の先から放出される。
その魔法の打ち合いは、まるで新しい宇宙が創生されるかのような激しさだった。
「オハル、腕を磨いたようね」
「そう言う師匠も、まだまだ現役バリバリとは流石です」
お互いに実力を認めつつのバトルは、まるで定められた段取り通りに踊る演舞のよう。決められたシナリオに沿って演技をしているかのようなぶつかり合いは、もはやその世界に誰も立ち入らせないほどの完璧な空間を作り上げていた。
「あわわ……私は一体どうしたら……」
3人が激しいバトルを繰り広げる中、1人蚊帳の外状態のアコは、自分に何か出来る事はないかとタイミングを見計らっている。手に汗を握り、何度も杖を服で拭く。ゴクリとつばを飲み込んで、周りの気配に敏感になっていた。
激しい魔法戦を繰り広げながら、校長はその違和感に気付き、オハルの顔をちらりと見つめる。
「あの子は使わないの?」
「あなたとは違う!」
校長のその言い方にオハルは激高。どうやら、この考え方の違いが師弟の仲を引き裂いたのだろう。
「カーシュ、あの子と遊んでらっしゃい!」
「はい、校長」
校長にカーシュと呼ばれた少女は、どうやら魔女生徒の中でも指折りの実力者らしい。胸にはとても格調高いバッジを付けている。それにすぐに気付いたオハルは、アコに忠告する。
「気をつけて! その子はこの学校の生徒会長よ!」
「えっ、えっ」
「校長からお許しが出ましたので……。たーっぷり、遊んでさしあげますわね」
カーシュはにやりと笑みを浮かべると素早くその手に杖を具現化させ、握ったと同時に規則的に動かしたじめた。
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