第132話 伝説の魔女
「ふん、やっぱりこの程度じゃダメね」
「お久しぶりね。カロ・デフィリウス校長」
目の前のすごそうな先生は魔法学校の校長だった。この展開にユウタスが目を丸くする。
「こ、校長?」
「そう、アレがこの騒動の原因。私達が倒さなきゃいけない敵のボスよん」
「ちょっと待って、デフィリウスって……」
おハルの得意げな説明に、今度はアレサが口を挟む。校長の名前にアレサが反応するのは当然だった。反応したのは彼女だけじゃない。ユウタスもアコもその名前には聞き覚えがあった。何故なら――。
「そう、あの校長が伝説の魔女だよ。かつては魔女達を救った英雄で、今はその力で世界を掌握しようとしている邪悪な存在」
「オハル、あんたは私の生徒の中では一番だったよ。ただし、私には遥かに劣るねぇ……」
「は! いつの話よ!」
「どれだけ力を極めようが、私には届かないねぇ……」
このオハルと校長の会話から、2人には深い因縁がある事がうかがわれた。どうやら、かつては師匠と弟子のような関係だったようだ。2人はどちらも強気な態度を崩す事なくにらみ合っている。火花がバチバチとぶつかり合う音まで聞こえてくるようだ。
講堂に集まっている魔女生徒は大雑把に見積もって約300名。一斉に襲いかかられたら圧倒的な人数差で呆気なく勝負はついてしまうだろう。だからこそ、余裕の態度のオハル以外は戦闘の構えを取って、どんな事態になっても対応出来るように備えていた。
一触即発な状況は時間の流れをとても遅くさせる。この沈黙の時間はどれだけの間流れただろう。場の空気が張り詰める中、最初に動いたのは校長の方だった。
「んふふふ。計画の邪魔はさせない! 生徒達、練習通りに!」
「「「「はいっ!」」」」
校長の号令によって、生徒達は一斉に動き始める。すぐに自分達に向かって攻撃が始まると覚悟していたアレサ達は、彼女達の行動が自分達に向かっていなかった事に首を傾げた。
「あいつら、何やってんだ?」
「アレサ、油断するなよ!」
魔女生徒達は講堂の奥に設置されていた像に向かって一斉に力を与え始めた。その像はとても禍々しく、魔神と呼ぶに相応しいもの。全長は10メートル近くはあるだろうか。そんな像が2体設置されている。それぞれに造形が違うため、別々の由来があるのだろう。この巨大な像を動かそうと試みるなら、確かに何百人分の生徒の魔力が必要になるのかも知れない。
こうして魔女生徒達の目的は分かったものの、魔神像がいつ動くか分からないため、アレサ達もまた迂闊に動く事は出来なかった。
「くそっ、どうすりゃいいんだ」
「あなた達は護衛で雇ったのよ。像が襲ってきたら頼むわね」
「りょ、了解です」
オハルに軽く頼まれた2人は、自分達も今の内だとそれぞれに準備を始める。アレサは剣に対魔法生物用の特殊コーティングを施し、ユウタスは天空神の加護をいつでも使えるように用意した。
この状況の中、魔法庁のエージェントと魔法学校の校長はお互いに先を読み合っているのか全く余計な動きを見せないまま。この先の予定を聞かされていないのか、アコは普通にオロオロしていた。
両陣営が具体的な動きを見せない中、場の魔法圧だけがどんどん密度を上げていく。次第に何が起こってもおかしくない雰囲気が漂い始め、何かが臨界点に達したのか、魔女生徒達が突然バタバタと倒れ始めた。
その音を合図に、生徒会長っぽい魔女生徒が手を上げる。
「校長、準備整いました!」
「よろしい。やーっておしまい!」
その悪役のボスみたいな号令によって、巨大な2体の魔神の像が動き始める。その目的は――当然、4人の招かれざる侵入者の排除だ。
「冒険者の皆さん、大物はお願いします!」
「へっ、手応えのありそうな相手じゃねーか。ユウタス、俺はあの前のデブッチョの方の相手をするから、お前は後ろのヒョロガリを頼む!」
「分かった、腕が鳴るぜ!」
こうして巨大な魔神1体に付き1人ずつで対処する流れに。アレサ達も100人以上の魔女生徒と戦うのはキツイものの、大きいとは言え一体を相手にする方が精神的にも楽と言うもの。
それに、こう言う巨大な敵を倒すのはテンション的にも2人は大好きなのだった。
アレサが担当するのは2体の魔神像の内のでっぷりと太ったタイプ。いかにもパワータイプと言った風貌だ。その見た目通りの性能なら、アレサの有利な点は素早さにあるだろう。魔神の姿を目にした彼女はすぐにその戦略を取る。
「こっちだこっち!」
「ウゴオオオ!」
マジックアイテムのブーツを装着していたアレサは、ここでその機能を開放。大雑把な動きのデブ魔神を翻弄する。彼女の見立て通り、デブ魔神は素早い動きに全く対応出来ていなかった。
今のアレサは通常の10倍以上の速さで移動出来る。このアイテム効果もあって、魔神の攻撃は空振りを続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます