第131話 侵入者達の快進撃

「えっなんで?」

「炎激!」


 2人の攻撃が無効化される中、魔女生徒達は詠唱を破棄していきなり火炎魔法を撃ち出す。この予備動作なしの攻撃に、ユウタスもアレサも避けきれずに被弾してしまった。


「うぐっ」

「キャアッ」

「全く、仕方ないわね」


 オハルは傷ついた2人を魔法で自分の側に寄せると、すぐに魔法をかける。軽い火傷をしたアレサ達もすぐに回復。

 その間にも魔女生徒達の侵入者排除の魔法攻撃は続いていたものの、おハルが張った防御結界に攻撃は弾かれていた。彼女は職務に忠実な2人に向かってウィンクを飛ばす。


「全く、2人共勝手に動くのは感心しないぞ」

「す、すみません……。まさか攻撃が効かないなんて」

「敵は魔女だよ? 攻撃は無効化されているって思わなきゃ。でも大丈夫、さっき調整したからもう攻撃は届くよ。行ける?」

「「行けます!」」


 オハルの言葉に自信を取り戻した2人は、またすぐに飛び出してもう一度攻撃を繰り出した。


「拳技、銀狼の咆哮!」

「剣技、三日月の舞!」


 アレサ達の繰り出した遠距離攻撃は今度こそ魔女生徒達に当たり、そのまま彼女達を気絶させる事に成功する。手応えを感じた2人はうなずきあうと、残りの魔女生徒達も次々に手際よく倒していった。こうして入口付近を守っていた生徒達20人を気絶させ、最初の戦闘は終了する。

 その見事な手際を見届けたオハルは、満足そうにうなずいた。


「お見事! じゃ、しっかり護衛を頼むわね」


 こうして、4人の魔法学校の探索が本格的に始まる。最初から巨大校舎だった魔法学校は、この校舎転移による影響なのか更に通路が入り組み複雑化しており、もはや難攻不落の迷宮と化していた。

 魔法的な空間ねじれもあちこちに組み込まれてあり、上に行ったと思ったら下に、右に行ったと思ったら左に出る始末。


 一応政府のエージェントであるオハルがその魔法センスを駆使して正しいと思われる道を進むものの、複雑な迷宮を解くように中々素直に進ませてはくれない。

 しかも、その道中でも魔女生徒達が襲ってくるために少しも気は抜けなかった。


「侵入者排除! 氷結樹氷!」

「三段流水拳!」

「キャアアッ!」


 ユウタスが前方の魔法生徒を気絶させ――。


「侵入者排除! 火炎爆風!」

「剣技、静かなる風の渦!」

「キャアアッ!」


 アレサが後方から来る魔法生徒を一時的に戦闘不能にさせる。4人を進ませまいとする勢力は切りがなく、オハルによると魔法学校に在籍する全校生徒、その数1024名が敵に回っている可能性があるとの事。

 現時点ではまだ100名も倒せていない状況で、進路を読まれて待ち伏せをされてしまったなら4人が全ての力を出し切っても抑えられてしまう可能性はあった。この状況を前にして、アレサは軽く汗を拭う。


「数は力だな……」

「ああ、だが仕事は2人の護衛だ。しっかりこなさなきゃな」

「あの、私も手伝います」

「ダメよ!」


 疲労の色の見える2人にアコが加勢しようとしたところで、オハルがそれを静止する。アコはすぐにエージェントの顔をじっと見つめた。


「でも、このままじゃ……」

「あなたはダメ。何故2人を調整したと思ってんの。ここで役に立ってもらうためでしょ。あなたの番はもっと後!」

「俺達なら大丈夫だ」

「このくらいなら余裕だぜ!」


 アレサ達が困り顔のアコを励ましていると、ここで急に視界が歪む。どうやら敵側のトラップに引っかかってしまったらしい。有無を言わさずに異空間に引きずりこまされた4人は、空間的な魔力の侵食に精神を蝕まれ始める。

 この攻撃に全く耐性のなかったアレサとユウタスは、共に頭を抑えてしゃがみ込む。


「うわあああもうだめだああ」

「頭が割れるように痛いいい」


 この状況にあっても、魔法の心得のある2人は全く影響を受けていない雰囲気だ。アコの方は少し気分を悪そうにしていてるものの、オハルはピンピンしている。

 そんな平気な彼女は、苦しむアレサ達に向けて魔法の杖をくるくるっと回した。そうする事で発生した光の粒子が2人を包み込み、見えない結界が形成される。この魔法のおかげで、アレサ達はゆっくりと立ち上がった。


「オハル、有難う」

「楽になりました……」

「うん。2人にこの空間はちょっときつかったね」


 こうして異空間で精神崩壊の罠が無効に終わったところで、周りの空間が正常な形に戻っていく。これは、オハルが別に放っていた魔法の効果が現れたものだ。

 異空間の影響が完全に消え去ると、いつの間にか4人は校舎の中の講堂のような場所に立っていた。異空間に入った時に、逆にオハルがこの場所に出られるように細工をしていたらしい。


 講堂の中には多数の魔女生徒と、そうして、その中央にすごく威厳たっぷりな学校の偉い先生がいた。

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