第129話 おねーさんの正体
流石は正義感の強いユウタス。その言葉には信念が宿っていた。その真剣な眼差しを目にしたおねーさんは軽くため息を吐き出す。
「あのね、これは魔法使いの問題なの。だから今回あなた達に出来る事はないわ。悪いけど」
「直接関われないくていい、何ならバックアップでも……」
「ありがと。その気持ちだけ受け取っておくわね」
おねーさんはそう言うとアコと一緒に部屋を出ていった。その後、アレサ達は無事に回復し、おねーさんの魔法によってギルドのある街まで転移される。
結局、あの助けられた家がどこにあるのか、誰の所有しているものかなどの詳しい事はさっぱり分からなかった。きっと知られないように工作されているのだろう。
何も分からないまま追い出された格好になった2人は、その足でギルドへと向かう。そこでまた魔法使いに関して何か手がかりになる情報がないかと掲示板の情報などを吟味していると、ユウタスが新しい依頼を発見。
それは国の魔法を管轄する魔法庁からの依頼で、魔法学校の調査をするエージェントの護衛の募集と言うものだった。
「アレサ、これ……」
「うん……」
2人はうなずきあうと、すぐにこの依頼をこなそうと受付に持っていく。
「きっとあなた方が選ぶと思ってました。了承します。では依頼主に会ってきてください」
「あの……。ギルドではこの魔法関係の事件についての詳しい情報は何か……」
「それは、多分この依頼主の方が詳しいと思いますよ」
「そ、そうですよね……」
受付のおねーさんに指摘されて、ユウタスは頭をかく。その後、2人は依頼主である魔法庁のプロジェクトチームのリーダーのもとに向かった。
ドアをノックして中に入ると、その部屋にいたのは例の魔法組合の受付のおねーさんとアコの2人。思わぬ再会にアレサ達は言葉を失う。
「あら、奇遇ね。ま、あなた達が来るだろうとは思ってたけど。どうにも魔法使い関係の事件ともなると普通は誰も関わろうとしないのよ」
「えっと、あなたは本当は何者なんですか?」
「ここにいる事で分かるでしょ。魔法組合の受付のおねーさんは仮の姿。本職は魔法庁のエージェントの1人、ホワイトシルフよ。あ、勿論コードネームね」
ドヤ顔で胸を張るコードネームホワイトシルフさん。アレサは手に持った依頼書をもう一度じっくりと確認した。
「……依頼書には依頼の責任者はオハルと書かれてますけど……」
「ど、どっちでもいいわよ? で、でも出来ればホワイトシルフって呼んで欲しいかな」
「了解です、オハルさん」
アレサはにっこり笑顔でエージェントの本名の方を呼ぶ。この仕打ちにオハルは若干顔をひきつらせた。場の空気が気まずくなったところで、ユウタスは焦って身振り手振りを加えながら話を切り出した。
「え、えっと……仕事の話、しましょうか」
「ああ、そうね。仕事はその依頼書に書いている通り、魔法学校の調査。最近学校の様子がおかしいのよね。生徒を使って何かの実験をしているみたいで」
「あの魔法遺跡の件も関係している?」
「その可能性は高いと見てる。学校に行けば全部分かるはず」
オハルの話によれば、以前2人が魔女の家の焼け跡に出来た穴から転移した場所、あそこは魔法学校の地下室だったらしい。同じ部屋を調査していたアコが2人をピンチから救い、魔法庁の所有する施設のひとつで療養していたと言う事のようだった。
そこまで一気に話した後、彼女は目の前の冒険者にニッコリと笑いかける。
「ふふ、ユウタス君は私達の手伝いがしたいって言ってたでしょう。だから仕事を作ってあげたのよん」
「そ、それはどうも……。有難うございます」
「うんうん。素直でよろしい」
「これでみんな一緒に戦えますね」
大体の事情を話し終えた後、アコがアレサ達に向かって満足げな顔を見せた。仲間のその笑顔を見た2人は、鏡のように彼女と同じ顔になる。
こうして室内が穏やかな空気で満たされると、アレサが素朴な疑問を口にする。
「でもどうしてアコが?」
「そこは企業秘密なんだけど……。魔法学校は国中の主要な魔女に根回しをしていて、純粋な魔女をパートナーにし辛かったのよ。私の仕事は1人では無理だったから相棒が欲しかったのよね。それで魔女の生まれじゃない魔法の才能豊かな人をチェックしてたって訳。そこに現れたアコはとんだ掘り出し物だったの」
「でも、それだったら私達にその事を話しても……」
「ま、色々と段取りも必要だったのよ。分かって」
オハルは両手を合わせて軽く頭を下げる。その仕草を見たアレサは少し納得がいかないような表情でため息を吐き出した。
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