第127話 伝説の魔女の家にあったもの

 彼はそこでひどく苦しみだしたので、この日はこれ以上話を聞く事は出来なかった。後日、アコの話を詳しく聞こうと再度病院に顔を出すと、ウルカは頭痛関係で痛みが悪化したらしく、面会謝絶になってしまっていた。


「これじゃあ、話は聞けないな」

「だからあの時、もっと話を聞けば良かったんだよ」

「あの苦しそうな姿を見ただろ! あの時点でもう無理だったんだよ」


 2人は前回での対応について口論をするものの、怒るアレサをユウタスがなだめると言う形で何とか落ち着く。先生に聞いたところ、頭痛の原因は魔法的なものであるらしく、かけた本人の縛りが解けない限り根本的な解決にはならないとの事だった。

 こうして、中途半端な情報を得ただけで2人は失意のままギルドへと戻る。


 ギルドに顔を出した2人の前に飛び込んできたのは、以前どうしても探索する事が出来なかったあの賢者の森の火災のニュースだった。どうやらかなり燃えているらしく、付近の集落にまで危険が迫っているらしい。

 このニュースを目にしたアレサは、何かを確信した目でユウタスを見つめる。


「行こう! 今度こそあの森の秘密が分かるかも!」

「だな!」


 こうして2人は火災発生中の賢者の森へと向かった。森に辿り着く前に消火作業はほぼ完了しており、アレサ達は用意していた防火装備を装着する事なく森の中に入っていく。

 まだ所々でくすぶっている雰囲気はあるものの、以前森に張り巡らされていた結界的なものはもう機能を停止していて、思うように森の中を進む事が出来ていた。


「このまま行けなかった森の中央部に行ってみよう」

「伝説の魔女の家、見つかるかな」

「きっと見つかるって」


 木々もすっかり焼けてしまい、森の中では動物の姿もモンスターの姿も見当たらない。そんな状況の中、2人がひたすらまっすぐに歩いていくと、やがてかつて家だったであろう建物跡が見えてきた。この火事によって魔女の家も全焼してしまっていたのだ。

 その変わり果てた姿を見た2人は、がっくりと肩を落とす。


「やっぱり燃えてたかぁ~」

「でも、やっぱりこの森に伝説の魔女の家はあったんだな」

「家はあったけど、伝説の魔女の家とは限らないぞ?」

「ま、とりあえず調べてみよう……」


 と、言う事で、2人は家の焼け跡を調べる事にした。まずは外回りを調べ、それから家が建っていた跡に足を踏み入れる。ここに人が住んでいて逃げ遅れていたなら焼死体がどこかにあるはずなのだけれど、どうやらそれっぽいものは見つからない。2人はそれぞれ気になる場所を分かれて調べていた。

 と、ここで家の中央部を調べていたアレサが何かに気付いたようだ。


「ユウタス、ちょっと!」

「どうした?」


 彼女の呼びかけにユウタスが駆けつけると、そこには謎の魔法的空間が広がっていた。それは空間転移のゲートと似たような波動を発生させている。


「アレサ、これって……」

「ああ、もしかしたら火はここから生じたのかもだぞ。俺は行く」

「ちょ……」


 アレサはこの謎空間が怪しいと、躊躇なくその中に飛び込んだ。ユウタスも相棒が無謀な挑戦をしたので、慌てて後を追う。


「アレサー! 下手に動くんじゃないぞーっ!」


 2人が飛び込んだのは、見た目こそ大幅に異なるものの、ゲートと同じ空間移動効果のある異空間だ。移動時間はほんの一瞬で、2人はすぐに繋がっていた出口に放出される。

 そこはどこかの地下室のようだった。初めて見るその室内は真っ暗で、アレサはキョロキョロと周りを見渡した。


「……どこだ? ここは」

「いや、俺もさっぱりだ」

「とりあえずは、明かりだな」


 アレサは手持ちのアイテムから光球を作動させる。これは照明用の光の魔法を封じ込めたマジックアイテムだ。一回魔力をチャージすると20時間は使う事が出来る。周囲が判別出来るようになったところで2人の目にまず飛び込んできたのは、部屋の中央にあった3メートルほどの大きさの一部が欠けた幻獣の像だった。

 いきなりそれが暗闇の中で浮かび上がったため、ついアレサは大声を上げる。


「うおおおっ」

「いや、それより周りを見ろ……」

「えっ?」


 驚くアレサに対し、まだ若干冷静だったユウタスは像よりも周囲の異様な雰囲気に冷や汗を流していた。彼の言葉にアレサも従うと、この部屋が無人でない事が判明する。

 光球によって浮かび上がったのは、無数の謎の黒装束の団体だった。像の周りに、同じ格好をした人が10人くらい立っていたのだ。


「か、囲まれてるね……」

「ああ、迂闊に動けないぞ……」

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