第126話 思わぬ再会

「まだ追いつける。行くぞユウタス!」

「分かった! 任せろ!」


 この追跡でもまた外れを引くかも知れなかったものの、今の2人にそれを考える時間的余裕はなかった。次は当たりだろうと、それだけを信じて駆け出していく。またしてもユウタスが自慢の体技を使って一気に距離を詰めていった。

 しかし、反応を頼りに追いついた彼の目に映ったのは、既に拘束済みの盗賊の姿と――。


「アコ?」

「ユウタス?」


 そう、その盗賊を拘束したのは探していたアコだったのだ。この思わぬ再会にユウタスは言葉を失う。


「ごめんね、まだ途中だから……」

「あれ? アコ?」


 ここで追いついたアレサも姿を表し、3人は久しぶりに合流する。


「盗賊の魔法は私が封じたからもう大丈夫。2人はこれで依頼を完遂出来たね」

「アコ、君は今何を……?」

「じゃあ……」


 ユウタスの呼びかけにも反応せずにアコはどこか秘密を抱えた目で2人を見つめると、その場ですうっと姿を消す。その様子から彼女の魔法技術のレベルが上がった事は感じられたものの、事情を何も話してくれなかった事に2人は落胆するのだった。



 その後、アコの縛り上げた盗賊を依頼主に突き出し、宝石も無事に戻った事で2人はギルドから報酬を手に入れる。ただ、それで納得するほど2人は物分りがいい訳ではなかった。

 報酬を受け取り、食堂で注文したメニューを待つ間にアレサが憤慨する。


「何あのアコの態度! 私達は仲間じゃないの?」

「落ち着けって。きっと何か事情があるんだよ」

「それは分かってる、分かってるけど……」


 ユウタスがアレサをなだめていると、ギルドに新たな事件の情報が伝わってきた。直感的に何かを感じた2人はお互いにうなずき合い、受付に事件の詳細を聞きに行く。


「一体何があったんですか?」

「えっとね、西カルデア地方にある魔法遺跡で爆発があったらしいの。今は誰も中に入る事のない調べつくされた遺跡だから、被害自体はないんだけど……」

「魔法遺跡?」

「簡単に言うと、大昔に魔女が魔法の研究で使っていた施設ね。確か……」


 そこまで聞いた2人は受付の人の話を最後まで聞かずにすぐに行動を開始する。


「急ごう、そこにアコがいるかも知れない」

「カルデアなら確かゲートが近くにあったはず。こっちだ」


 アレサの道案内で直通するゲートに入り、2人は最短距離で爆発のあった魔法遺跡に到着した。まだ煙が上がっていたので、それを目印に迷う事なく辿り着く事が出来たのだ。

 遺跡を目の前にしたアレサは、そこに倒れている人影を発見する。


「おい、大丈夫か!」

「とりあえず医者にみせよう!」


 こうして2人は大火傷をしているその怪我人を慎重に運び、専門の医者に診せる。


「うむ。確かにひどい火傷じゃが、まだ助かるぞ」

「お、お願いします!」


 餅は餅屋と言う事で、2人はこの人物の回復を待って事情を聞く事に。10時間の大手術とリハビリを経て、面会が可能になる頃には一週間が過ぎていた。

 怪我が良くなる過程でこの人物の身元も判明する事になったのだけれど、そこで衝撃の事実が判明する。


「えっ? 彼がそうなんですか?」

「ええ。彼はかつて魔女の魔法薬の調査をしていた冒険者ウルカで間違いないわ。記憶もはっきりしてきたらしいから何か聞けるかもね」

「アレサ、行こう」

「だな!」


 受付の人から話を聞かされた2人はすぐに彼の入院する病院に向かった。病室に顔を出すと、最先端の医療と治癒魔法の処置でかなり回復したウルカの姿がそこにあった。


「やあ、かなり回復したようで何よりです」

「君達が僕を助けてくれたんだね。有難う。ウルカだ」

「えっと、俺はユウタス、で、そこにいるのがアレサ」

「有難う、ユウタスにアレサ。僕に聞きたい事があるんだって?」


 どうやら既に根回しはされていたらしい。これは有り難いと、ユウタスは何故あの遺跡にいたのかなどの質問をし始める。

 ウルカの記憶も跡切れ跡切れだったようで、肝心なところになるとはっきりと思い出せない状況が続き、質問を繰り返すたびに頭を押さえる事が多くなっていく。


「もしかして、頭が痛むんですか?」

「済まない。事件の事については、何か記憶に鍵がかかってるみたいで……」

「無理はしないでください。今日は帰ります」


 彼の健康面を心配したユウタスは、まだ話を聞きたそうなアレサを引っ張って病室から出ようとする。その後姿に向かってウルカが気になる一言を告げた。


「君達の仲間のアコって女の子を、確かに僕は見たよ。どこで見たかはまだ思い出せないんだけど……アコって呼ばれていたのと、その姿は覚えてる」

「本当ですか!」

「ああ、間違いない……ううっ!」

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