第125話 現れた魔女盗賊

 こうして2人はこの依頼を受ける事となる。受理された後にそのイベント会場に向かうと、そこには様々な冒険者が同じ依頼で集まっていた。総勢で20名くらいだろうか。依頼主が複数のギルドで募集をかけたらしい。逆に言うと、それほどまでに魔女盗賊は手強いと言う事なのだろう。


 集まった冒険者は、戦士タイプやら、特殊な武器を使いそうなタイプやら、宗教的な衣装を着たタイプやらと、中々にバラエティ豊かで、ギルドによって募集人員のタイプを選り分けていたらしい事がうかがわれた。


 一応全員が集まったところで依頼主から大雑把な説明は聞かされたものの、期間内に宝石が守られればいいので特に細かい縛りはないようだ。守るべき宝石はと言うと、そこにあったのは3つの宝石で、それぞれ青、赤、緑と個性的で美しい輝きを放っている。

 何故魔女強盗がこの宝石を狙うのかと言うと、魔女にとってこの宝石は自らの魔力を増大させるものになるからなのだとか。


 強盗の強奪予告時間が近づき、2人も配置について周囲に目を光らせる。その時になるまでは、何事もなく退屈な時間が過ぎていくばかりだった。

 しかし、時間が来た途端に会場に異変が現れる。まずは照明。突然全ての明かりが消えて真っ暗になったのだ。古典的な手口とは言え、これだけで周囲は軽いパニックとなった。


「な、何だ?」

「焦るな、罠だ!」

「宝石を守れ!」

「ちょ、どこ触ってんの変態!」


 暗闇の中で寄せ集めの冒険者達は大混乱。全員全く統率が取れず、宝石そっちのけで騒ぎ出してしまう。


「ヤバいぞこれ。盗賊にこの混乱を利用されたら……」

「ユウタスはそこで気配を探ってて! 俺が宝石をうわっ!」


 混乱の中でも比較的冷静だった2人が宝石を守ろうとするものの、他の混乱した冒険者達が闇の恐怖に怯えて同士討ちをし始める。

 当然、アレサもこの騒ぎに見事に巻き込まれてしまった。


 たまに襲ってきても相手が敵ではないために回避に集中せざるを得ず、中々宝石のある場所にまで辿り着けない。正当防衛で何人かをぶちのめしてやっと辿り着いた時、ようやくここで照明が復活する。

 明るくなった会場でアレサが目にしたのは、空っぽになった宝石ケースだった。


「奪われたーっ!」


 当然、会場は大混乱。すぐに犯人探しが始まるものの、集まった冒険者はみんな警備で集まった脳筋の方々ばかり。そんな中、宝石にアイテムで魔法マーキングしていたアレサはその痕跡を辿り始める。


「宝石の動きが掴めた! 行くぞ、ユウタス!」

「分かった!」


 反応を見る限り犯人はそんなに遠くにいる訳でもなかったので、体力に自信のあるユウタスが素早く走る技術を駆使して一気に追いついた。そこで目にしたのは確かに怪しげな盗賊っぽい感じの服装の女性。どうやら追いつかれたのに動揺しているようだ。

 間合いにまで近付けたところで、ユウタスは逃げる盗賊に向かってジャンプする。


「捕まえたぁ!」

「ふぎゅっ」


 この展開を想定していなかったのか、盗賊はろくな抵抗もせずにユウタスに確保される。アレサが追いついた時には魔法のロープでの拘束が完了していた。


「ま、こんなもんだ」

「やるじゃん。じゃ、宝石の回収だね」

「ほら。アレサが持ってくか?」


 盗賊から回収した宝石を渡されたアレサは、若干の違和感を感じる。すぐにマーキング情報と照合したところ、微妙なズレが発覚。


「ちょ、これ偽物だよ」

「えっ?」

「どう言う事だ?」

「バーカ。魔女盗賊がここまで間抜けな訳ないだろ?」


 そう、最初からおとりだったのだ。盗賊は最初から警備の冒険者の中に紛れていて、アレサが宝石にマーキングしたのも確認済み。そこでダミーの魔法情報を偽物の宝石にかけていたと言う事らしい。


「その追跡アイテムの特性は解析済みだからな。こっちに誘導したって訳さ」

「で、お前はそうやって捕まったと。じゃあこれから仲間について知ってる事を吐いてもらうぞ」


 アレサは指を鳴らしながら、ユウタスの捕まえた盗賊に向かって歩いていく。ユウタスでさえビビるほどのサディスティックなオーラを漂わせながら。

 そんな状況にあってなお、盗賊は余裕の態度を崩さない。恐怖に怯えるどころか逆に挑発的な目でアレサをじいっと見つめる。


「ざーんねん。私はただの疑似人格だよ」

「えっ?」


 その告白に彼女がたじろいだ瞬間、盗賊の身体は消失する。どうやら彼女は魔法で作られた疑似生命体だったようだ。はめられた事に気付いたアレサはすぐに探索アイテムを再起動。

 かなり離されているものの、追いかけられない距離ではない事が判明する。

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