第124話 ハメられた2人

 ゲートを出た途端に見えた大きな城のような学校の建物を見て、アレサはぽかんと口を開ける。


「ちょ、マジかよ。まるで子供の頃に読んだ冒険物語に出てくる建物みたいだぜ」

「魔王とかが君臨していそうな?」

「そうそう。って、天空島でもそう言う文化あんのかよ」

「子供の読む本は全世界共通だろ……」


 ユウタスもまた、この幻想的すぎる建物に現実感を見失っていた。それほどまでにデザイン重視の建物だったのだ。威圧感もそれなりにあり、この学校に通えたならそれなりのエリート意識も芽生えそうな程だった。

 大きな街の市役所くらいの大きさの建物は全寮制なのか、学校に通う魔女生徒は見当たらない。2人はとりあえず正門前まで移動した。


「あの、すみません」

「おや、珍しい。こんな時期に見学希望かい」

「これなんですけど……」

「ほう、これはメル先生の許可証だね」


 守衛の魔女の人に先生からもらった許可証を渡すと、大きな虫眼鏡を取り出して確認し始める。しかし、どこか様子がおかしい。いつまで経っても書類をにらめっこしたままなのだ。

 5分くらいの沈黙の時間が流れ、とうとうアレサがしびれを切らす。


「いつまで待てばいいんですか」

「ああ、ごめんね。しかしおかしいんだよ、この学校にアコって生徒はいないんだ。編入記録もない。なのにこの許可証ではそうなっている。それが気になってね」

「えっと、どう言う……?」

「何かの細工がしてあるのかも知れないねぇ……」


 守衛さんが照らし合わせたところによると、アコはこの学校に編入してはいないとの事。事情がうまく飲み込まなかったアレサは首をかしげる。


「これ、つまり……どう言う事?」

「とりあえずこの事をあの魔女先生に報告してみよう」

「まぁ、そうするしかないよな」


 2人は守衛の人にペコリと頭を下げると、来た道を逆戻り。すぐ魔女先生の家に事情を聞きに舞い戻る。今度は家の前まで行っても先生は先には出てこなかった。

 そこに違和感を感じつつも、アレサはドアをノックする。しばらく待っていると、出てきたのは以前とは違う女性だった。当然、魔女の服装もしていない。


「あら? どちら様?」

「えっ? ここ魔女の塾ですよね?」

「私、魔女じゃありませんけど?」

「えっ?」


 一度訪れた場所を間違えるはずがないと、アレサは何度現在地を確認する。すると、近所の家とかの景色は変わりないのに、この家だけ印象が全然違う事に気が付いた。


「ユウタス、もしかしたら……」

「ああ、これって、あの魔女先生にハメられたんだ」

「何だかよく分かりませんけど、人違いなら私は失礼しますわ」

「あ、すみません……」


 この謎の仕打ちを受けた2人はもう一度魔女組合に戻るものの、あの時にアコをスカウトした受付のおねーさんは突然音信不通になってしまっていた。


「折角来てくれたのにごめんねぇ」

「連絡先とかも分からないんですか?」

「突然来なくなったのよ。こっちも困ってるのよねぇ……」


 変わりの受付の人も困っているみたいで、2人は組合を出る。この件には何か裏があるとにらんだ2人は、その足でギルドへと向かう。何か今回の件に繋がるような情報がないか調べるためだ。

 数日ぶりに開け慣れた扉を開くと、いくつもの新しい依頼が掲示板に張り出されていた。


「とりあえず新しい依頼はチェックしなきゃだよなー」

「ちょ、アレサ……」


 まるでルーティーンのように依頼チェックをしに行ったアレサを、ユウタスは呆れた目で見送る。まさかそこで依頼を決めてくる事はないだろうと彼が高をくくっていると、アレサはその中の1枚を剥ぎ取り、そのまま受付に持っていった。

 この予想外の展開に焦ったユウタスは、彼女のもとに早足で駆け寄る。


「ちょ、この時期に新しい依頼を受けるなよ」

「ちょっとした気分転換だよ。こう言う時だからこそ必要だろ?」


 そう言いながらアレサが見せてきた依頼をユウタスも確認。内容は悪党から宝石を護衛すると言うもの。この宝石を狙っているのが、魔女盗賊。

 この内容を読んだ彼は、アレサがこの依頼を受けた理由をそこに発見する。


「これ、もしかして……」

「この魔女盗賊ってやつ、なんか怪しいだろ? もしかしたら手がかりに繋がるかも知れない」

「分かった。やろう」

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