第122話 事件の真相

 受付の魔女はアコを気に入り、魔法の基礎を教えると持ちかけてきた。魔女以外が魔法を学ぶ時は魔法学校に行くか、魔女に教えてもらうか、魔術書を読んで独学するかの3パターン。

 そうして、魔女に縁のない普通の人は独学でしか学ぶ方法はない。魔法学校自体、魔女の推薦がないと行けない教育機関なのだ。


 突然本物の魔女と縁の繋がったアコは、この話に心が揺れまくる。それもまた当然の話だった。


「えっと……。私でいいんですか?」

「勿論よ。あなたほどの才能を埋もれさすだなんて勿体ない話だわ」

「……では、よろしくお願いします!」

「ちょ、アコ!」


 アコがあっさり陥落したのでアレサは動揺する。一方、ユウタスはと言うと、顎に指を乗せて物思いにふけっていた。


「私、魔女の修行をします。それがゆくゆくはお2人の力にもなりますし……」

「そんな事言って、好きな事をしたいだけじゃない! ユウタスも何か言ってよ」

「うん。アコの望むようにすればいい。頑張って」

「ちょ、ユウタス?」


 アコの決断を止めたいアレサと、応援したいユウタスで意見は食い違う。その後、2人は軽い口論になるものの、アコが更に頼もしくなるならばそれに越した事はないと言うユウタスの主張にアレサが押し切られる形となった。


「あんた、大丈夫なんでしょうね? ウチのアコをたぶらかそうとしたら、ただじゃおかないから」

「大丈夫、私の信頼している人に預けるから。その人はね、とってもすごい魔女なの。私に任せて」

「えっと、私からもお願いします。こんなチャンス、滅多にないんです」

「……はぁ、分かったよ。アコ、気の済むまで道を極めてきな!」


 こうしてアレサも折れ、ここで調査は2人で行う事となった。魔女の修業をするアコとは魔女組合で別れ、2人の調査は更に続く。今度は姿を消した冒険者の周辺を調べる事に。

 まず、その冒険者が請け負った依頼について詳細に知る事から始めた。これに関しては、ギルドの資料が残っていたので簡単に判明する。


 噂では魔女の調査の途中で襲われたと言う事になっていたけれど、正確には伝説の魔法薬の調査と言う依頼だった。その魔法薬、普通の人にはただの栄養ドリンク的な効果しかない代物だけれども、魔女が使うと魔力回復どころか、本来の数倍の魔力を得る事が出来ると言うものなのだとか。


 ただし、リスクもあるみたいで、そのリスクについては詳しい事は分かっていないらしい。そもそも、この魔法薬自体、存在しているのかどうかすら分かっていない代物なのだとか。だからこそ、調査の必要なものとなっていたのだ。


 つまり、魔法薬の実在の証明と副作用の確認――と言うのが本来の依頼内容。この依頼、冒険者はかなりいいところまで掴んでいたらしい。

 そうして、後少しで真相が掴めると言う報告を最後に連絡が途絶え、消えてしまったのだ。その冒険者の仲間はこう証言する。


「……あいつは、伝説の魔女に近付きすぎたんだ」


 ここまで集めた情報を総合して2人が出した結論、それは伝説の魔女を探し出す事。失踪事件に関わっていてもいなくても、彼女を探し出して話を聞く事こそが事件に近付く一番の近道に思えたのだ。と言う訳で、アレサ達は伝説の魔女に関する情報を集め始める。

 手順は今までと同じで、ギルドの冒険者やギルドスタッフから話を聞き、それでも足りなければ魔女組合に足を伸ばすと言うもの。


 伝説の魔女は流石に伝説なだけあって、不確定な噂が集まるばかり。中々具体的で詳しい情報は得られなかった。ただ、魔女組合の魔女に話を聞いたところ、かつて賢者の森と呼ばれる森に件の魔女が住んでいた事があったらしいと言うところまでは突き止める事が出来た。


「でもその話も270年くらい前の話だから。もしそれが真実だったとしても、今もいるかどうかは……」

「いえ、有難うございます。とりあえず一度向かってみます」

「賢者の森は一筋縄では行かないから。気をつけてね」


 魔女組合の魔女のおねーさんに見送られながら、2人は賢者の森の調査に向かう。その森は冒険者が失踪した地点の目と鼻の先にあった。それが、ますます事件と伝説の魔女を関連付ける要素になっている。

 道中で襲ってくる雑魚モンスターを片手で捻りながら、アレサはつぶやく。


「魔女に出会ったらどうやって話を切り出そうか……」

「伝説が噂通りなら、きっと俺達が何か話す前に質問の答えを言ってくれるんじゃないか?」

「マジか」

「伝説の魔女なんだから、そのくらいの芸当は出来……」


 ユウタスが話している途中で、またしてもモンスターが行く手を阻む。2人はすぐに戦闘の構えをとって障害を排除していった。

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